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25話 -腰を入れて-

 


「ほらもっと腰を入れて!」


「はい!」


 しゃきっとした声にイラっとくる。


「もっとがんばって!」


「はい!」


 殺し屋グルトとブルカはいま魔術師メフィレールの命令の元でブルーノドザンダ組の組長オニオルの部屋を破壊している。


「ほらほら、そんなんじゃいつまでたっても終わらないよ」


「がんばります!」


 こんな明るい声を出す弟の声を聞いたのはいつ以来だろうか、そして何故我が弟はこんなにも楽しそうなんだろうか。生まれてからずっと一緒にいるわけだが、自分の弟のことが全く理解できない。他人よりも遠い存在になってしまった気がする。


 殺し屋でありながらグルトとブルカは殺しはしない。最大でも相手を痛めつけて終わり。しかし今回の仕事では大失敗して奴隷状態となった。こんな仕事をしている以上は反撃されたり、殺されたりは覚悟していたが今の状況は予想外過ぎた。


「兄の方はもっと頑張れ。弟の方に比べたら100分の1しか働いてないよ」


「はい」


 イラっとする。


 マフィアのアジトを壊すなんて意味が分からないことをするのに何の説明もない。ただツルハシを渡されて命令されている。負けたのだからどうしようもないことは分かっているし、自分で選んだ道でもあるからしょうがないと言えばしょうがないのだが腹は立つ。


「がんばれー」


「はい!」


「はい」


 今までよりもさらにツルハシに力を籠めて作業する。いま一瞬だけ目が合った。寒気。相手は凄腕の魔術師だ、もしかしたら頭の中を覗かれているかもしれない。


「だ!」


 いまみたいな感じではマズいかもしれないと思い作業のペースを上げる。弟のブルカがかなり頑張っているので、そのせいで隣にいる自分が全く頑張ってないように見える。グルトも殺し屋をやっている以上は暇さえあれば体を鍛えていたので、普通よりは頑張っているはずだが伝わらない。


「ほらチラチラこっち見ないでシャキッと働く!」


「はい!」


「はい」


 組長の立派な椅子に座ってさっきから偉そうに監視されているのことに、どうしても納得感が無くて腹が立つ、腹が立つがどうしようもない。こんなことが一生続くのかと思うと心が折れそうだ。けれどあの時死ぬ方を選んでおけばよかったなんてことは思わないからどうしようもない。いま出来ることはこのモヤモヤをツルハシの先にぶつけることだけだ。


「しかしメフィレールよ、本当にあるのか?隠し財産なんて」


 隠し財宝?


「あるかどうかは分からないよ。けどグルトから話を聞いた時からおかしいなとは思っていた。なんとかっていう組長がわざわざ金を出してまでこの場所を守らせる意味が分からない。組長本人がここにいるのなら別だが、本人はここからどっかに逃げてここにはいないんだ。リシュリーはおかしいと思わないのかい?」


「言われればそうかもしれないが、この建物を壊されたくなかっただけじゃないのか?」


「それならそれでいいよ。それだけこの建物が大切だというなら壊してやろうじゃないか。私たちを殺そうとしたわけだからね。それにもし財宝が隠してあったら最高じゃないか」


「確かにそうかもしれないが、私にはまどろっこしくて仕方がない。壊すならとっとと壊してしまいたい」


「考え方の違いだね。私はせっかくならじっくり楽しみたいんだよね」


 メフィレールと話しているのはリシュリーとかいう特級騎士の女だ。どうにもただならぬ雰囲気を持っているとは思っていたのだがメフィレールから聞かされて驚いた。


 特級騎士。騎士という精鋭だけがなれるエリートの中の真のエリート。王族を守るという重要な任務を任される国の至宝と言われるような特別な力を持った存在。会話から察するに仲間であることは間違いないだろう。


 ただでさえ手に負えないほどの力を持つ魔術師に、さらに特級騎士までいるとなると戦って勝つどころか逃げることさえ不可能。いや、逃げるなんてそんなことを考えるな、考えを読まれたらどうする。


 そもそもメフィレールによって魔法文字を体に書き込まれている。裏切ったらひどい死に方をすると言っていた。もう完全に不可能だ。期待すると辛くなるだけだ。殺されなかっただけましだと考えるしかない。


 財宝という言葉の響きには引かれるが、見つかったとしても自分たちのものになるわけじゃない。しかも探すのに汗をかいているのは自分たちだけ。見つからない方がいいような気もするが、見つかったほうが魔術師の機嫌はよくなるだろう。複雑な気持ちだ。



「どうだい見つかったかい?」


「すいません、まだ見つかりません」


 我が弟よ、なぜそんなにも爽やかな顔をして命令に従うことができるのか教えて欲しい。殺し屋をやっていた時よりもいい顔をしているじゃないか。弟よ、兄はお前が分からない。


 俺たちの命はいまやあの女の起源ひとつでどうにでもなってしまう存在なんだぞ。言ってやりたいが言うのはふたりきりになった時にしよう。子供のころならブルカのことなら何でもわかっているつもりだったのに、今のブルカが何を考えているのかはさっぱり分からない。


 今はそれよりも言っておかなければならないことがある。もうしばらくすれば厄介なことが起こるだろう。



「メフィレール様、もしかしたら時間がかかるかもしれません。その間にもしオニオルが帰ってきたら激しい戦闘になると思われますので、準備だけはしっかりとしておいた方がよろしいかと」


 できる限り丁寧な言葉でしゃべる、そして作業の手は止めない。すべては相手の機嫌を損ねないためだ。そして役に立つ人材だと思ってもらうためにやれることをやるしかない。自分だけじゃなく弟の命もかかっているんだ。


「オニオル?」


「ブルーノドザンダ組の組長です、つまりはこの部屋の持ち主のことです」


「ああ……そうだったか。まぁ戻ってくることはないだろう、というかすでに戻ってきているか。せっかくだから見せてあげようか」


 グルトにはこの女魔術師が何を言っているのか理解できなかった。


「ハチ!あれを持ってきてくれ」


 メフィレールの足元で丸くなっていた犬のような骨の魔法生物。さっきからずっと気になっていた存在。魔法生物を扱うことが出来るのは魔術師の中でもごく一部だと聞いたことがある。


 ハチが主人の命令にゆっくりと立ち上がって大きな伸びをした。まるで本物の犬のような動きだ、魔術師でないグルトにはあの存在が不思議でならない。


 ハチはスタスタと別の部屋へ行って見えなくなった。


「あ………」


 小さな声は弟の声、動きが止まっている。


「どうしたブルカ手が止まっているぞ」


「ああ、兄ちゃんごめん」


 ブルカは素直に作業を再開したが、目はハチと呼ばれている魔法生物が居なくなった先を見つめている。なんだか寂しそうな表情だ。


 嘘だろ?


 自分としては考えられないことだが、もしかして我が弟はあの魔法生物がいなくなったことで寂しい思いをしているんじゃないだろうな。絶対にそうであってほしくない。アレは犬ではない、お前が犬好きなのは知っているがあれはアンデットだ。


 壁を一生懸命に破壊しながら頭の中では弟の理解できない行動に悩む。だから気が付くのが遅れた。


「ひぃや!」


 我ながら情けない声。


 魔法生物がオニオルの首を咥えて持ってきた。



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