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23話 -逆転ギャンブル-

 


「お前は俺に弟を見捨てて逃げろっつうのか!」


 暗闇の中でどこを見ながら話せばいいのか分からずにグルトが叫ぶ。


「人を殺すことを商売にしているくせに、よく恥ずかしくもなく他人を非難できるものだね。金のために今まで何人を殺してきたんだい?そんな偉い人間じゃないだろ君は。ほらもう言い訳なんかいいからさっさと逃げなよ。毒液の準備はもう万端なんだからね」


 嘲笑うメフィレール。


「待て!俺たちは殺しはしない、お前のことも最初から殺すつもりはなかった。俺たちがやるのは相手を痛めつけるまでだ」


「そんな言葉を誰が信じると思ってるんだい?時間稼ぎは止めなよ」


「時間稼ぎじゃない!俺たちは殺しをやらない、その証拠にいま俺たちはここにいるんだ。殺しはしないが痛めつけるまではする。だからお前らを追いかけた奴らとは別に、この事務所を守るっていう仕事を与えられたんだ。こんなことを頼むのは虫がいいのは分かってる、分かってるが何とか見逃してはもらえないか?頼む!」


「本当にずいぶんと虫のいい話だ。そんなもの何の根拠もない話じゃないか、とても信じられないね。どうせ私を騙すつもりに決まっているさ、私は騙されるのが大嫌いなんだ、だから騙される前に毒液を君の可愛い弟の喉に流し込んであげるよ。大丈夫、少しくらいは苦しむだろうけど、あっという間に体の中から腐っていく特別製の毒薬なんだよ。もうあと少しだけ私の手が横に移動するだけだよ」


「頼む!待ってくれ!頼む!何でも言うことを聞く!頼む!」


「そんなつまらない命乞いは聞き飽きた。君たちみたいな奴らは旗色が悪くなると自分たちの今までの行いなんかすっかり忘れてしまう恥知らずさ」


「俺たちは違う!本当だ信じてくれ!」


「誰が自分を殺しに来た相手の言うことなんか信じると思うんだい?そんなこと言ってないで、一か八か私の声のする方にナイフを持って突っ込んできたらどうだい?もしかしたら当たるかもしれないよ。どうだい?なかなか面白いギャンブルだろ。といっても私の体は魔法障壁で覆われているからもしナイフが当たったとしても怪我ひとつしないけどね」



 一か八かに賭けて突っ込む。そえはグルトがさっきから考えていたこと。命乞いをしつつも相手のいる場所を探っていた。


 しかし肝心のそれが全くわからない。相手の声が最大の情報のはずなのだが、一言一言が別の場所から聞こえてくる。ブルカを抱えながら移動しているはずはないから、この煙幕には幻聴の効果があるに違いない。突っ込んでいくのは本当に最後の手段だ、もし外してしまえば毒液で弟のブルガは死んでしまう。


「ブルカ、君は私がどこにいるのかまだわかってないんだね。そんな未熟者のくせによくも私に戦いを挑んだものだよ」


「本当に悪かったと思ってる。頼むからどうか見逃してくれ、これだけやられたんだから、もう二度と俺たちがあんたたちに危害をくわえようなんて思うはずがない、そうじゃないか?」


 突っ込んでいくのは分が悪すぎる。自分が走って行くよりも毒液を流し込ませる方が早いに決まってる。なんとか言葉で説得できるのが一番いい。幸いなことにむこうは話の通じない相手じゃない。なんとか、どうにかしなければ。


「そうだいいことを考えた!」


 ハツラツとした魔術師の声。


「実はさっきの君の言葉が少しだけ気になってるんだよ」


「さっきの言葉?」


「そうだよ。君たちが殺しの仕事はしないっていうあの言葉だよ」


「そうだ!俺たちは相手を痛めつけるまでの仕事しか引き受けない」


 真っ暗闇にわずかな光明を感じる。


「もしもそれが本当だったら私も君たちのことはあまり殺したくないかもしれない。目には目を歯には歯をと思ってるけど、やられたこと以上のことをやり返すのは違う気がする。それに実際はまだなにも危害を加えられていないわけだしね」


「本当か!」


「よく考えてみれば君は部屋に入ってきたときに色々と私の質問に答えてくれたりもしたわけだし、それほど悪い奴らじゃないのかもしれない。もしも君たちが本当に殺しをしない殺し屋だった時に、私は後になって罪悪感に襲われるかもしれない。だからサービスしてあげよう」


「サービス?そんなんじゃなくて頼むから弟を離してくれ」


「まぁまぁまぁほら見なよ」


 目の前の暗闇が薄くなっていく。


「ほら、人影が見えるようになっただろう?これがサービスだ」


 見える。確かに輪郭がぼんやりと見えるようになった。


「ふたつ………だと?」


「どっちかが私で、どっちかが君の可愛い弟」


「どういうことだ!?」


「私の使うスキルの中には相手を思うように動かすことのできるものもあるんだよ。だから君の弟にはいま立ってもらっているんだ。可能性は2分の1だ、私だと思う方にナイフを持って突っ込んでくるといい。もしも5回連続で当てれることができたら二人とも解放してあげるよ」


「五回連続だって!?そんなことはできっこない」


「いやいや十分にできるだけの確率だよ。これでも十分に譲歩していると思うよ。私はまだ君の言葉を完全に信じたわけじゃないんだからね」


 どっちだ?輪郭の大きさは同じように見える、そんなはずはないんだ。あの魔術師は明らかにブルガよりも頭一つ分は小さかった。これは罠だ、陰険な魔術師の罠なんだ。


「こほっ」


 ブルカの咳。


 霧が薄くなったことで目を覚ましたか?だが輪郭は揺るがない。声の方向も判断がつかない。どっちだ?どっちが魔術師なんだ?


「さあ早く決めてくれよ決断力のない男だな。刺すときはちょっとだけ刺そうなんて考えたら駄目だよ、その瞬間に毒液を流し込むからね。思いっきり刺すんだ。私には魔法障壁があるから刺されたって何ともないんだ。だから私のことは心配いらないよ。一度やったら入れ替えて再挑戦だ」


 誰がお前の心配なんか!言いたい気持ちをぐっとこらえる、ここで起こらせてしまったらブルカの命が危ない。


「こほっ」


 ブルカの咳。


 動きが全く無い。いや、もしも動いたとしてそれが魔術師の罠でないとなぜいえるんだ?あいつは俺に弟を殺させたくてこんなイカレたことをしている狂人だ。どっちだ?どっちなんだ?なにか情報があるはずだ、目を凝らすんだ。


 今までよりも少しだけ強い咳。


「さあ、早く来なよ」


 声の終わりにグルトは片方の影に向かってナイフを持って飛び込んだ。手の平に間違いなくある感触。


「ぐっ、ぐ………ぐ」


 籠ったような声、それは間違いなく弟の声ではなかった。


「な、なぜだ、なぜ………私の魔法障壁が……」


 黒い塊がゆっくりと崩れてゆく。


「これはただのナイフじゃねえ、刀身に魔法文字を書き込んだ特別製で、どんな魔術でも阻害して切り裂く。お前たちみたいな魔法を使う奴ら専用に借金を背負ってまで作ったんだよ」


 霧が晴れてゆく。


「どうして、お前は………迷わず私のほうに………」


 しゃがみこんでいる女魔術師。


「ブルカのおかげだ、向こうを見てみろ」


「光り………?」


「月光草の種だ」


 床の上の柔らかな光。


「お前たち魔術師には縁がないだろうが、魔力のない奴らはああやって夜道なんかにあの草の種を潰して蒔く。そうすると薄っすら光って、帰り道が分かるようにするんだ。ブルカは暗闇が子供のころから苦手だったからいつも持ち歩いていた。あの直前にブルカは少しだけ意識を取りもどしたらしいな」


 腕の中にいる弟から鼓動を感じる。


「そうか、そんなものがあったとは………油断したな………最後に1つ教えてくれ、、」


 弱弱しい女の声。


「なんだ?」


「殺しを、いままでしてこなかった、というのは、本当なのか………?」


「本当だ、いや、本当だった。俺たちは親を他人に殺された。だから俺たちは殺しをやる人間を憎んでいる。だけど俺はこれでお前を殺してしまったからもう同類になってしまった」


「そうか………それじゃあ君に、最後にいいことを教えてあげよう………君の可愛い弟はしばらくすれば意識を取り戻すだろう………良かったね………君は弟の命を守れたんだ………」


「そうか………安心しな、あんたの体はちゃんと埋葬してやるからな」


「ありがとう………できれば海の見えるところがいい」


「海?遠すぎるぞ」


 死体を運びながらだと何日どころか月が替わるくらいの時間がかかる。


「嗚呼、できればお墓の周りにはきれいな花を植えてほしい、いろいろな色のきれいなお花がいい。皆がぱっとみて綺麗だね、って言ってくれるようなお花を。それとお墓の場所がすぐに分かるように、大きな十字架なんかを立ててもらえるといいな。そして年に二回くらいは手を合わせに来てほしいというのもある。お供え物も欲しいな。私は甘いものが好きだからね。その時はお茶も備えて欲しいな」


「お、お前まさか」


 グルトの意識は途絶えた。




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