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20話 -人肌蝶々-

 


「今日はツイてるぜ」


 ゴロリは笑った。


「相手はたったの3人、しかもそのうちのひとりはガキだからいないのと同じだ。参加するだけで1万、ひとり殺せたら追加で30万。こんな割のいい仕事が降ってくるなんて今日の俺はツイてるぜ」


 娼館から家に帰る途中で走ってきたポロリに呼び止められた。ポロリはゴロリと同じフリーの殺し屋。殺し屋と言いつつ殺しを仕事して依頼されることは滅多にに無い。ほとんどは気に入らないやつをボコボコにしてくれだとか、あの店に嫌がらせをしてくれというのがほとんどだ。


 ゴロリもポロリも元々は冒険者だったが、あまりにも素行が悪いので冒険者を首になってしまって、かといって普通の仕事も長続きもせずにふらふらとしていた。しかし酒も好きだし女も好きだ。街でカツアゲをしてそのための鐘を稼いでいたが全く足りずにマフィアから金を借りることになった。


 借りた金を返すためにマフィアから仕事を貰うようになったが、それはゴロリの性分に合っていた。カツアゲをしながらマフィアから仕事を貰って酒と娼館に通う。どうせならマフィアになってしまいたいと思うこともあったが、マフィアというのは案外面倒なものだということが分かった。


 時間にも礼儀にも厳しいし、上からの命令は絶対。はみ出し者のくせに厳しさは一般人以上なのが納得できなかった。これだったら頼まれる仕事の中で、やりたいことだけをやるほうが気楽でいい。


 ポロリも冒険者を首になったたちでマフィアにもなりきれないという点では全く同じだった。そんなわけでゴロリとポロリは馬が合って、同じ仕事を任されていくうちに仲良くなっていった。今も友情で声を掛けてくれたのかと思っていたら全く違って、知り合いを集めてきたら、それだけで2千ゴールド貰えるからという理由だった。


「もし30万入ってきたら何に使う?」


 ポロリがニタニタしながら聞いてくる。


「娼館だな」


「おいなんださっき行ってたじゃねぇか、お前どんだけ好きなんだよ」


「馬鹿だな、今日行くなんて誰でも言ってねぇだろ?」


「なんだ、それならとっとと言えよ」


「それくらい言わなくたってわかるだろ。行くっていったって、いつもの店じゃねぇよ30万だったらもっといい店に行く。ずっと行ってみたかった「人肌蝶々」にいくぜ」


「ん?たしかそれってめっちゃくちゃ高けぇ店だろ?いくら30万でも一回行ったらら無くなるんじゃねえか?」


「それはさすがにいいすぎだがいいんだよそれで。たとえ1回でもいければそれで満足よ。俺はなぁ、前にあそこの店の前を通った時に、店から出てくる女を見たことがあるんだよ。ありゃああの店に働きに来た女に違いねぇが、俺が今まで抱いてきた女よりもはるかにいい女だった。やっぱり高けぇ店は女のレベルが違うんだよ。それ以来一度でいいから「人肌蝶々」に行ってみたいとずっと思ってたんだ」


「ふぅん、なるほどな」


 ポロリが嫌な顔で笑った。


「お前はどうするんだよ?え?俺に聞いたってことはお前も何か考えてやがるんだろ?」


「いや全然考えてなかったな」


「おい!なんだよそれ」


「考えてなかったけどいま決まった」


「は?」


「俺がもし30万手に入れたら「人肌蝶々」に行くよ」


「はぁ!?」


「俺が行ったらお前はめちゃくちゃ悔しがるだろ?その顔を見てみてぇんだよ。さぞかし悔しがるだろうなお前は。それを考えながら抱くいい女ってのは最高に気持ちいいに違いねぇ、きっと腰が抜けるくらいに気持ちいいぞ。お前はそんな俺のことを想像しながらひとりで爪でも噛んでろ」


「テメェ!性根が腐ってやがるぞ!こんなことなら言うんじゃなかったぜ」


「性根の腐り方はお前とどっこいどっこいだ」


「クソッたれが!」


「おい落ち着けよ、今お前がこれだけ割のいい仕事に着けてるのは俺がお前のことを探してやったおかげじゃねぇか。普通だったらお前は気付かないでそのまま飲みに行ってただろ?」


「何を急に偉そうなこと言ってやがんだよ」


「けどその通りじゃねぇか?」


「そりゃあそうだけどよ………」


 確かにマフィアが仕事をやれる人間を探している間にゴロリは家になかったので、普通なら頼まれるはずがなかった仕事だ。


「そんなことより見ろ、標的がのこのこやって来たぞ」


 ゴロリが急いで顔をあげると確かにリヤカーを引いた二人組の女が見える。事前に聞かされていた通りにリヤカーを引いている騎士風の女と魔術師風の女。本当なら少しくらいは事前に下調べをするのだが、今回そんな時間は全くない急ぎの仕事。


 とにかく組事務所からの帰り道で殺せ。途中でどこにもよらせるな、リヤカーの荷物は絶対に見ずに持って帰ってこい、そういう事。しかも早い者勝ちでもあるがかといって事務所から近すぎたら駄目だ。ターゲットが事務所に戻らないくらい十分に離れてからやれ。


 いまゴロリがいるのはブルーノドザンダ組が急ぎでかき集めた男たち。組員もいれば殺し屋もいる、とにかく集められるだけ集めたという繋がりも何にもない金のためだけに集まった男たち。


 ひとりが走り出すと同時に全員が一気に走り出す。30万を貰えるのはターゲットを殺した一人だけ。できれば二人とも殺したいがさすがにそれは無理だろう。針っている途中から違和感は感じた。ターゲットに動揺する素振りが無い。


 他の奴らも同じように考えているのかは分からないが、今はとにかく早く動くことが重要。ターゲットが逃げることを想定して後ろに回り込もうとして一団から離れていくやつらもいる。そうか、その考えがあったのか、しかしターゲットは逃げる素振りが無い。


「ウヲラァアアアアアア!あ、あ?」


 取り囲んだネズミを震え上がらそうと男たちが叫ぶのと同じくゴロリも遅れて声を張り上げた。しかし声を出したのと同時くらいには背の低い魔術師風の女の姿が消えていた。


「どこに行きやがった!?」


 荷車のところに居るのは騎士風の女だけ。なかなかいい女だが今はそれどころじゃない。この女を狙うか、あるいはどこかに逃げた魔術師風の女を狙うか決めなければいけない。いまこの場には人数が多い、もしかしたら魔術師風の女を殺す方が有利かもしれない。


「あそこだ!魔術師はあそこに逃げたぞ」


「なに!?どこだ」


「あそこだあの家の屋根の上だ!」


 指さす方を見上げると家三軒ほど離れた家の屋根の上に骨の魔法生物の上に跨った魔術師、その後ろに子供の姿があった。


「あの一瞬であそこまで移動したっていうのか!?嘘だろ、そんなことあるわけねえ!」


「聞いてた以上の化け物じゃねえか。おい作戦はどうすんだよ、あの子供を捕まえて大人しくさせちまえば騎士と魔術師でもどうしようもできねぇって話だっただろ」


 騒然となるマフィアと殺し屋たち。取り囲んでいるという状況と人数の利があるにもかかわらず早くも計画が狂ったのは、誰が見ても明らかだった。


「あとは任せていいよねリシュリー」


「いい仕事だメフィレール。これで存分に暴れられるからふたりは安全なところに移動してもらって構わない。ここは私一人で十分だ」


「けどすごい人数ですよ、本当に大丈夫なんですか!?僕だったらここから走って逃げますからメフィレールさんと一緒に戦ったほうがいいんじゃないですか」


「私はずいぶんと信用されないんだな」


「そういうわけじゃないんですけど心配で………せっかく知り合うことができたのに、もっといろいろお話してみたかったのに、もしこれでもうリシュリーさんと会えなくなってしまったらって」


 涙が落ちた。


「そうか、よく考えてみればそういう種類の心配をされるのは久しぶりだな、なんだか懐かしい気持ちだ」


「大丈夫だよモルン。なんといってもあのサブレに勝つほどの腕前なんだから負けるわけがないじゃないか。そうだ!もしもリシュリーが死んだらこの場所に立派な墓を建ててあげたらいいよ。幸いにしてサブレは19億ゴールドももっているんだからね。私も花くらいは添えてあげよう」


「縁起でもないことを言うな」


 小さく笑うメフィレールに冷たい視線を飛ばすリシュリー。しかしその口の端は少し上がっている。悪い気分ではなさそうだった。


「わかっているよ、ちょっとしたの冗談さ。それでは心の準備はいいかいモルン、ここから一気に距離をとるよ。それではさらばだ特級騎士様、油断なんか絶対にしないようにね。いくよハチ!」


 言い終わってすぐに犬のような魔法生物と子供を抱えた魔術師風の女がトントンと音を立てながら屋根の上を跳んで行って、あっという間に豆粒くらいの大きさにしか見えなくなってしまった。


「な、なんだったんだありゃあ………」


 その催眠術にでもかけられたかのように見送った男たちだったが、仲間の一人が地面に倒れる音でようやく我に返った。


「モルンを連れて行ってもらえたのは良かった。さすがに子供に血なまぐさい場面を見せたくはないからな」


 ひとつ息を吐いた女から冷気を感じる。人数が多い、そんなわかりやすい有利さが全く感じられなくなっていく。寒さで体が固まっている。


 転がった首から広がっていく血だまりに、冷たい声が僅かな波紋をうつ。


「神に祈るつもりがあるなら早めに済ますことだ、私の剣は早いからな」


 日々の鍛錬と身体強化によって作り出された踏み込みは、疾風のように早くリシュリーを運んだ。特級騎士。王族を守るための騎士の中でも最も優れた騎士だけがなることが出来る選ばれしものたち。この中にいる誰一人として目の前にいる金色の紙を持つ女がそうだとは知らない。情報は意図的に隠されていた。そんなことを知ったら誰も集まらない、それが分かっていたから。


 何も知らず、圧力だけで動けなくなっていたゴロリには目で追うことすらできなかった。振るわれる剣は元よりリシュリーの体の動きすら見えていなかった。僅かな勝機すらない圧倒的な実力差。


 生暖かい。


 ドンッという衝撃と共に生暖かい感じがして、ゴロリは地面から首が無くなった自分の体を見ていた。段々と狭くなっていく白黒の視界の中で見えたのはポロリの首が落ちた。


 あの日に見た「人肌蝶々」に入っていく女の姿が一秒だけ再生され、ゴロリの命は終わった。



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