18話 -追い詰められる組長-
「なんだ随分と大げさなお越しじゃねえかよ、特級騎士様と魔術師が一緒とはな。そんなに俺たちが信用できねぇのか」
ブルーノドザンダ組の組長オニオルは言った。
「そんなことはどうでもいい、さっさと金を出してくれ。賭札はちゃんと持ってきたんだ」
マフィアですら竦ませる眼光も特級騎士カジマ・リシュリーには全く効果を発揮していなかった。ただ淡々と当たり前のことを言うように言った。
「それはその賭札が本物だと俺らが認めた時の話だな。偽物を作って金を騙し取ろうとするやつがいないわけじゃねぇ」
「だったらとっとと調べるがいい」
リシュリーはひとつ息を吐いた。
「おいコンレン!」
「へい!」
コンレンと呼ばれたいかにもマフィアという顔をした体格のいい男がいい返事をしたが、体は返事とは裏腹に縮み上がっていた。
「ヴゥーーーーーーーーーーー」
メフィレールが作り出した犬に似た魔法生命体のハチが唸り声をあげていた。リシュリーの後ろに隠れているモルンから見てもコンレンが怯えているのははっきりとわかったし、そのおかげでどうしようもないと思っていた体の緊張が少し和らいだのを感じた。
「コンレン!!」
「へ、へい!」
組長のオニオルはモルンとは対照的に怯える手下を見て、顔を赤くするほど怒りを貯め込んでいた。こんなことくらいでビビるな、言いたいのはそういうことだろう。
「ほら」
「あ、あっあ、、、」
放物線を描きながら放られた賭札をコンレンはうまくキャッチすることができず床に落としてしまった。慌てて拾い上げて恐る恐る組長のもとへと差し出した。
「チッ!」
組長は明らかに苛立っているとコンレンは思った。例えこのまま無事にこのおかしな来訪者が帰ったとしても、自分はいったいどんな目に合うのだろうか、そう考えるとコンレンは憂鬱な気持ちになった。
「まあ本物だな」
しぶしぶといった感じでオニオルが言った。
引き出しの中から取り出した木片と賭札をじっくりと見比べている間、ずっと緊張していたモルンはホッとして息を漏らした。
あの時自分がサブレさんからお金を受け取って言われた通りの賭札を買ったのだから間違いはないとわかっていても、待っている間は何か言われるような気がしてとても不安だった。
「そうとわかったらさっさと金を払ってもらおうか」
「ちょっと待ちな」
そう言ってオニオルは再び鋭い眼光を向けたが、特級騎士と魔術師は微動だにしなかったことでオニオルの苛立ちは増した。
「なんだ、我々は暇じゃないんだぞ」
「確かに本物だし当たってもいる、がしかしこれは不正だな」
「不正だと?」
「ヴゥーーーーーーーーーーー」
ハチが唸る。
「そりゃそうだろ当たり前の話だ。これはリシュリーとサブレの試合に対しての賭札だよな?それに本人が賭けるってのは反則だろ。本人が賭けちまったら自分の賭けたところに来るように試合をコントロールすりゃあいいだけのことだ。そんなもん賭けでもなんでもねぇ、だから不正だと言ってんだ」
一度ハチに目をやった後でオニオルは言った。何度も修羅場を潜り抜けてきているのかコンレンとは違って堂々としている。
「う!」
それはリシュリーの声。
自分が何とか抑えた戸惑いの声をリシュリーが上げたことにモルンは驚いた。オニオルが言ったことはモルン自身も「どうなんだろうな、これって大丈夫なのかな」と心配していたことだから、言われた瞬間に背筋がヒヤッとした。だけどそのことを認めてしまったら、お金を払ってもらえなくなってしまう。
「ほら見ろあんただってわかってんじゃねえか特級騎士様よ。さてどんな罰を与えてやろうか、考えるだけでワクワクしてくるな」
「罰!?ふざけるななぜ私が罰を受けなければならない!」
「俺たちを舐めてもらっちゃ困るな、まともにやって当たった時には金はしっかり払う、だけどな不正をして俺たちから金を巻き上げようってやつには、もう二度とそんなこと考えられねぇような罰を与えてやる、それが俺たちのルールだ。たとえ特級騎士様だって例外じゃねぇんだ!」
ようやく自分の睨みつけに特級騎士が揺らいだことでオニオルはかなりの満足感を得た。さてこの生意気な女をどうやっていたぶってやろうか、入ってきたときから自分たちを見下した目で見ていたこの女が最初から気に食わなかったのだ。
「それはリシュリーが購入した賭札ではない」
建物に入ってから一言も口をきいていなかったメフィレールが言った。
「それを買ったのは後ろにいるモルンで、私たちはただのモルンの護衛だよ。リシュリーとモルンが知り合ったのは試合が終わってから。だからこの賭けは不正なんかじゃ全くない」
「そうだ!その通りだ、私が賭けに参加した事実はないし、試合をコントロールなんかさらにするはずがない!」
援軍の登場にあきらかに息を吹き返したリシュリー。
「んなてめぇ勝手な理屈が通るか!!」
「通る。いや違うな、通す、だね。私たちにはそれだけの力があるんだからね。そちらが何を言おうが結局のところ力がものをいうのさ。いつまでも粘ってないでさっさと負けを認めたらどうだい?勝ち目なんかあるわけないだろ?」
圧倒的強者の物言い。
「んだとてめぇ!これは俺のシマの俺の賭場だ、だったら俺の決めたルールでやるのが当然だろ!それともなんだ俺たちブルーノドザンダ組とやろうってのか!?」
今までで一番力を込めた睨みつけは、いままでで一番効果がなかった。
「お!それでいいのか」
リシュリーがほっとした声をあげた。
多分リシュリーさんは難しい賭け事のルールのことを話すよりも、戦いで決着を付けれるのならそのほうが楽でいい、そう思っているに違いないとモルンは思った。
「それが望みなら仕方がないね」
なぜかメフィレールも似たような表情だったことに驚いた。
「ちょうどよかった私の可愛いハチが腹を空かせていたから夕飯にちょうどいい。ハチは野菜は嫌いだが肉だったら好き嫌いはしないんだ。まずは喉を噛みちぎって、獲物が動かなくなった後でゆっくりと内臓を食べるんだ」
「ヴゥーーーーーー!」
低音の唸り声は黒魔術師のなかでも上級者にしか扱うことができないという魔法生物の唸り声。
「それにここにいる特級騎士様も、こんなまどろっこしいお話合いよりもそっちの方がお得意なんだ、そっちがその気ならありがたいくらいだよ」
「おいメフィレールその言い方だとまるで私が馬鹿だと言っているように聞こえるんだが。私だって何も無理矢理に戦いで決着を付けようなんて思っているわけじゃないんだぞ。向こうがそれを望むのなら仕方がないと言っているだけだ」
「そりゃあ悪かったね謝るよ。馬鹿は向こうのほうだ、たかだか一般人に毛が生えた程度の戦力で、特級騎士に立ち向かおうというんだからね。正直もっと賢いと思っていたよ、まともな力が無い以上は賢くないと生き残れないからね。それにどうやら国の宝と評される特級騎士の実力を相当甘く見ているらしい」
「ぐっ、ぐぐぐぐぐ………」
追い詰められた蛙のような低音の唸り声を自分が発していることに、ブルーノドザンダ組の組長オニオルは気が付いていなかった。




