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17話

 



「この賭札をお金に換えてくれる場所には僕は言ったことはないんですけど、地図を持っていますのでこれを見ながら一緒に行きましょう」


 手のひらサイズの紙を取り出したモルンが言った。


「そこのはなんという場所なんだ?」


「ゲンブリングファミリーの事務所です」


「うん、清々しいほどマフィアの事務所だな。隠すつもりもないらしいな」


 リシュリーが頷く。


「まぁ別に賭博自体は違法ではないからね、ルールをきちんと守ればだけど。あそこなら私も何度も前を通ったことがあるから地図が無くても問題ないよ」


「そうなんですか、よかった。ちゃんとたどり着けるかちょっと不安だったんです。それじゃあ行きましょうか」


「おう!」


「行こうか」


 3人は歩き出す。外はすっかり夕方でオレンジ色の空がグラデーションを作っていて様々な形の雲と数匹のカラスがいまだけの景色を作り出していた。


「メフィレールは何だってわざわざマフィアのアジトの前の道を通るんだ?」


「近道なんだ、しかもあの道は人通りが少ないから気に入っている」


「怖くないですか?」


「全く怖くないよ。こうやっていかにも魔術師という格好をしていればあういう奴らは避けていくんだよ。あういう奴らは数が揃わなきゃ何もできない臆病者だ。かといって油断は禁物だけどね、その少しの緊張感も好きなんだ」


「はえー、メフィレールさんもすごいですね。やっぱりサブレさんと同じ学校の方は違うんですね。僕もそんなこと言えるようになりたいです」


 表情を覗き込むようにしてモルンが言った。


「今は大丈夫だが、ひとりのときは近道なんて考えてはいけないぞモルン。私たちは子供のころから、きちんと訓練してるから大丈夫なんだ。自分より弱い相手には何をしてくるか分からない奴らだからな」


 リシュリーが釘を刺す。


「はいわかりました」


「うん、よろしい」


「そういえばさっき言ってたことで気になっていたんだが、リシュリーはサブレと試合をして勝ったんだったね。よかったらどんな試合だったのかを詳しく聞かせて欲しいな」


 メフィレールが空を見上げながら言った。


「ああ、まあ、そうだ」


「すごい試合でしたよサブレさんのものすごく大きな砂嵐がウワーってなって、そのあとリシュリーさんの剣がズパーって」


「へぇ、私も見たかったな。ということはサブレは自分が負けるほうに賭けたわけだね。それで大儲けをたくらむとはあの男はやはり変わっている。話を聞くと相当数の観衆が入ったようだから、普通はどうやってでも勝ちたいと思うものだけどね」


「サブレさんもリシュリーさんも本当にすごかったですよ。なんだか同じ人間とは思えないくらいガー!ワー!バー!ってなっていました」


「音だけで表現されてもさっぱりわからないな。ん?どうやらリシュリーはこの話題があまり好きではないらしいね」


「そうなんですか?」


「うん、まあ実のところそうなんだ。私の未熟のせいであいつには悪いことをした」


 リシュリーの眉が下がっている。


「そんなに気にすることはないと思うよ。本人は大げさに騒いでいるみたいだけど怪我自体は大したことは無いんだろう?そのおかげでサブレは大儲けしたわけだし。ちゃんとこれを換金できれば満足するだろうさ」


 そういってメフィレールは賭札を夕日のなかで振った。


「そうだといいんだが。実はそのことでずっと気になってたことがあるんだ」


「気になってたこと?なんだい」


「私が知る限り魔術師が魔法を使うときには長ったらしい呪文を唱えてから使うはずなんだ」


 口元に指をやって考えながら話す。


「現にメフィレールもその魔法生物を作り出す時にはそうだったはずだ。それなのにあの時のサブレには、そんな様子が一切なかった。一言二言何か言うだけで、あっという間にかなりの規模の魔法を使っていた」


「ああそのことか。それなら魔方陣を使えば並の魔術師にも簡単にできる。魔方陣が呪文の代わりを果たすから魔力を魔方陣に送り込むだけですぐに使うことができるんだ」


「魔方陣?そんなものあのリングの上にはなかったはずだ。あれば私がすぐに気が付いたはずだ」


「なにもリングの上に直接書かなくてもいいのさ、あまり離れすぎると使えないが、どこか近くにあらかじめ書いておけば問題ない。気付かれないように隠しておけばいいのさ。あとそれ以外にも魔術師が自分の体に直接魔方陣を書き込むという方法もある、これはあまり推奨はできないけどね」


「体に直接?そんなものがあるのか。だったらなんでほかの魔術師はやらないんだ?詠唱の時間が短くなれば戦闘でかなり有利になるだろう。私が知ってる魔術師はよく呪文を唱えているが、いつも実戦でそんな時間があるのだろうか疑問だったんだ。私だったら唱え終わる前に決着をつけてしまうのにって」


「魔法文字を体に書き込むのはかなり危険なんだ。詠唱時間を短くしたいというのは魔術師にとっての共通の願いだけど魔法文字はまだ完全には解明できていない未踏の領域。ちょっとでも間違えただけでボカンさ」


「ボカンって体が爆発するってことですか!?」


「実際そうなったこともあるそうだ、私も実際には見たことはないが書物にはそう書かれている。昔から奴隷とか罪人を使って魔法文字を解き明かそうとよく実験されていたそうだよ、昔ほどじゃないにしてもいまでも普通に行われているはずさ」


 モルンは顔が青ざめて言葉が出ない様子だ。


「サブレも体に魔方陣を書き込んでいるのか?」


「それはわからないんだ、本人に聞いてみたいとは思っていたんだが、これはなかなか繊細な問題だからね」


「私にはよくわからないが、そういうものなのか」


 リシュリーは安堵の息をついた。


「ただ、可能性は大いにある。なにせサブレの母親は魔法文字の研究者だからね」


「ええ!?そうなんですか?」


「機会があれば会わせてもらうと良い。別に隠しているわけでもないだろうからモルンが言えばあっさり会わせてくれるんじゃないかな」


「そうですか。今度サブレさんに聞いてみようかな」


「父親もアレだしサブレは本当に退屈しない男だよ。おっと、どうやら目的地に着いたようだよ。それじゃあここからは気を引き締めて行こうじゃないか。信頼して任せてくれたサブレに、できませんでしたなんていう報告をしたくないからね」


「確かにそうだな、気を引き締めて行こう」


「はい……」


 二人が醸し出す空気感が引き締まったのを感じて、モルンの心臓は高鳴った。



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