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16話 ー変人ー

 


「しょうがないやつだなサブレは、仕方がないからあいつの言う通り3人で行くとするか」


 リシュリーはため息をついた後で言った。


「3人って僕もですか!?」


「私はそう受け取ったぞモルン。そのためにサブレは君に残るように言ったのかと思ったんだが、何か一緒に行けない理由でもあるのか?」


「行けない理由………は無いですけど」


 モルンは少し考えたうえで残念そうに言った。


「もしマフィアが怖いのなら安心してくれ。私の後ろについていれば大丈夫だからな。頼まれた仕事はきちんとこなすことが出来るだろう」


 自信満々そうに胸を叩く。


「ありがとうございます。そうですよね、大丈夫に決まってますよね。僕もあの会場でサブレさんとリシュリーさんが試合するのを見ていたんです。あれくらいすごい試合ができるんですからマフィアなんかこわくないはずですよね」


「うん、まあ、そうだな」


 一転してリシュリーの歯切れが悪い。


「僕にはとても理解できないくらい素晴らしい戦いだったと思います。やっぱりリシュリーさんにしてもサブレさんにしても普通の人間とは段違いの強さですね。僕だけじゃなく見ていた皆さん感動していました、こんな戦い一生に一度見れただけでラッキーだって言っていました」


「まあ………あれはちょっと、まぁあれだったんだが。そうだな………まぁ喜んでもらえたのなら、うん」


 リシュリーは明らかに元気がなくなった。それを見たモルンは自分は何か悪いことを言ってしまったのだろうか、と不安になった。


「リシュリーさん、大丈夫ですか?」


「ああもちろん大丈夫だ」


「もしかしたら僕が何か変なことを言ってしまいましたか?」


「いやいや本当に気にしないでくれ。何でもないんだから」


「そうですか、わかりました」


 あまり納得していない様子のモルン。



「なんだ随分と口数が少ないじゃないかメフィレール。さっきまでとまるで別人みたいだぞ。まさかここにきて臆病風に吹かれたわけでもあるまいな」


 話題を変えるためかのようにリシュリーはメフィレールに向き合った。


「そんなことはないよ」


 少し笑ってメフィレールは答える。


「ちょっと考えていただけだ、もし3人で行くつもりなら先に私が使う魔術について知っておいてもらったほうがいいんじゃないかと思ってね」


「なるほど、それはいいことだ。いくら相手が素人とはいっても最低限の連携は必要だからな」


「マフィアを素人と断ずるのはどうかと思うよ、あういう奴らの中には結構魔術を使う人間がまぎれていたりするからね。力を持った人間が挫折するのをマフィアみたいな連中は見逃さないから」


「そういうものか。私はマフィアに詳しくないからな、覚えておくことにしよう」


 メフィレールは笑った。


「どうしたんだ?」


「あまりにもリシュリーが騎士らしい騎士だから面白くてね」


「そうか?まあ良く言われるが」


 リシュリーは何が面白いのか分からないという表情をした。


「とりあえずはまぁ、私の得意とする魔術を見てもらおうか」


 そう言いながら腰元の大きめの革袋を取り出した。骸骨の絵の描いてある革袋だ。


「これの革袋はサブレが私のために選んでくれたものだよ。最初は「うっ」ずいぶんと悪趣味なのを選んでくれたな、と思ったけど使っているうちに段々気に入ってきた」


 見せつけるように言って、革袋の口を開いて下を向け水平方向にゆっくりと手を振った。口からは細かい粉塵がサラサラと落ちていき、病室の中を白く染めた。


「ゴホッゴホッゴッホ」


「何をしてるんだメフィレール」


 モルンは咳き込み、リシュリーも顔をしかめて口元を手で覆う。


「言っただろうこれが私の使う魔術さ」


 粉塵のなかで聞き取れぬ言葉を呟くメフィレール。詠唱が進んでいくと共に室内に魔力が満ちていくのをリシュリーは感じた。


 白い中に動く影。


「ゴホッゴホッゴッホ」


 さっきまでの粉塵が嘘だったかのように、段々と目の前がクリアになっていく。影に粉塵が吸収されて行っているようだ。目を凝らしてじっと見ていると影は輪郭へと変化していく。


 そしてメフィレールの傍には、いつのまにか腰の高さ位の骨格標本のようなものがあった。


 犬の骨格標本。


「バウ!」


「え!?生きてる?」


 目と口を大きく開け驚いているモルンを笑っているかのように、骨の生き物は吼えながら骨の尻尾を大きく振った。


「黒魔術か……」


「その通り!これは私の相棒のハチ、今後ともよろしく」


「バウ!」


「どうだ驚いたかい?」


 メフィレールは薄く笑った。


「正直言って驚いた。そして実際に見るのは初めてだ」


「そうだろうね、黒魔術は魔術の禁忌を犯しているといわれて魔術師からも避けられる魔術だからね。自分が黒魔術の才能を持っていたとしても、あえて鍛錬を放棄したり、そのことを他人に言わないことがよくあるらしいからね」


「魔術師からも避けられる?それは知らなかったな、昔は確かに黒魔術師は迫害されていたと習ったが、もうすでにそれは無くなったのだと思っていた」


「確かに今現在は公には黒魔術も魔術として認められているけど実際はそうでもない、陰口をたたかれるのは日常茶飯事だ。けど私はそんな声に屈するつもりなんかないよ、せっかっく自分に与えられた才能なんだから極限までこれを伸ばしていくつもりさ」


 最後は明るく言い放った。


「いいじゃないか!そういう心意気は嫌いじゃない。他人から何と言われようと自分がやりたいことはやるべきだし、努力で自分を高めていくというのも嫌いじゃない」


 リシュリーは大きく頷いた。


「ということはサブレさんは黒魔術が嫌いというわけじゃないんですね?」


「そう!サブレは黒魔術に偏見なんか全くなくて非常に興味を持ってくれているんだ。それにサブレも私と同じでできる限り魔術を極めようと考えているという点でも同志さ」


「くぅーんくぅーんくぅん」


「なんだおやつが欲しいのかハチ、全くしょうがない奴だな」


 甘えた声を出しながらメフィレールの足に鼻面を押し付けているのに応じて、彼女がマントの中に手をいれて取り出したのは丸々と太ったネズミだった。


「わっ!」


 驚いたモルンの目の前で放り投げられた獲物を飛び上がって一飲みにしたハチが華麗な着地を決めた。


「本当は食べる必要はないんだけどハチは食べることが大好きだからね。これで今回の仕事でもちゃんと働いてくれると思うよ。ハチもふたりのことが気に入ったようだね。それじゃあ自己紹介も済んだところでそれじゃあサブレのお使いをしに行こうか」


 あぁそうか、自分も一緒に行かなければいけないんだった。まさか自分の服の中に死んだネズミを入れておくなんて信じられない。魔術師には変人が多いという噂は聞いてはいたがどうやら本当らしい。


 モルンはこれからの道のりを思い、少し憂鬱な気持ちになった。



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