14話 -ナース服はただの作業服ではないという事実-
「リシュリー、さん?」
モルンが驚いた声を出したが、驚いたのは俺も全く同じだ。扉の向こうにに立っていたのは学友の背の低い黒い髪の魔術師ではなく、背の高い金髪の特級騎士だった。
「サブレがここにいると聞いてきた。私のせいで重症だとか………それで見舞いに」
うつむきながら口の中に石でも入ってるみたいに、モゴモゴ言った。
「いえお医者様の話ではそこまで重症ーーー」
「重症だ重症。さっきようやく意識を取り戻したくらいに重症だ」
モルンが余計なことを言おうとしたのを遮って言ってやる。
「サブレ………すまない」
光のように輝く金色の頭を下げた。
「謝れば許されるとでも思ってるのか?普通の魔術師だったら確実に死んでいたぞ。お前どういうつもりだ、あれはただの試合だったはずだ」
「う………我を失って……自分でもあの時のことはあんまりよく覚えていないんだ、申し訳ない」
たどたどしい口調で深々と頭を下げた。
「覚えていないだって?たかだか一発や二発攻撃を受けたくらいで我を失うなんて普通じゃない。お前は試合と殺し合いの区別もつかないのか?」
死んでいてもおかしくなかった。元はと言えば俺がリシュリーの言葉に対して少し口が滑ってしまっただけのこと。たったそれだけであの時のリシュリーの攻撃はあり得ない強度。
「まぁまぁ、サブレ無事だったんだから、そこまでいわなくてもいいじゃないか。見ての通りにリシュリーさんも反省しているようだし、ここはいったん怒りを収めたらどうだろう」
ナナハが割って入って来たことも俺としては納得いかない。なぜ俺が止められなければいけないんだ。俺は完全なる被害者だ。きっとみんなは俺が大した怪我をしていないと思っているのかもしれないが、本当に体は痛いし具合も悪い。
「申し訳ない」
広い病室の中が静まり返っている。
許せない、俺としてはまだまだ許せない気持ちがある。しかしリシュリーは茹ですぎたホウレンソウみたいにシナシナになっているし、みんなの様子を見てみても許す、みたいな方向に気持ちが言っているのが分かる。おかしい、おかしすぎる。いくら謝ったからっていっても許せるものじゃないだろ。
「申し訳ない。今回のことは完全に私の失態だ。本当に未熟だった。本当にすまないことをした、もし私にできることがあったら何でも言ってくれ。どんな償いでもする」
なんでも………?
なんでもいってくれ?
背中に電流が走った。
なんでも………なんでも………なんでも………。
いいんだ、OKなんだ。なにを言ってもOKなんだ。
それなら話は違うよ、私はもう怒ってなんかいないよ。むしろ喜んでいると言っていいくらいだよリシュリー君。禍を転じて福と為すという言葉を心から理解したのは生まれて初めてだ。もう謝罪なんかはいらない、そう、私が心の底から欲していたのはその言葉だよ。
GOOD!
どんなことでも言ったらいう通りのことをしてくれるのか?こうなると話は違ってくる。これは男にとって人生で言われてみたいセリフBEST10には確実に入って来るだろう。現実にはあり得ない言葉だと思っていたが、まさか異世界で自分を殺しかけた相手から聞くことになるとは思ってもみなかった。
GOOD!
改めてよく見てみるとリシュリーというのは結構可愛い顔をしているじゃないか。可愛い系というよりは美人系だな、いいよいいよ、うんうん。目はパッチリしているし鼻筋が通っている、青い目も綺麗だし金色の髪の毛も艶々していていい感じ。いまのシュンとしている姿が最高にいいじゃないか。それにしても綺麗な金髪だね、ツインテールかポニーテールか、どっちにするか迷うよ。
GOOD!
なんという幸運。いま俺の目の前には、俺の言うことを何でも聞いてくれる金髪美女がいる。最高じゃないか異世界、来た良かったよ異世界。最近ろくでもないことばかり重なっていると思っていた。止まない雨は無いという言葉の通りに、悪いことの後には良い事がやって来た。
GOOD!
「サブレ、君何か変なことを考えてはないだろうね?」
ナナハの冷めた声がかすかに聞こえるが今はそれどころじゃない目の前に金髪美少女が俺の命令を待っているんだ。これだけ酷い目にあわされたんだから、少しくらいは乱暴にしてもかまわないはずだ。
GOOD!
そう言えばこの世界にはストッキングはあったか?もしあったのなら絶対に履かせたい。できれば黒が濃い目のストッキングがいい。金色と黒色は一番合うんだ。そして今にも泣きだしそうなこの顔。すばらしい、すばらしいよリシュリー君。
今すぐにストッキングを破きたい。破いたところから飛び出した張りのある肌、これが最高なんだよ。ストッキングっていうのは破るためにある、それは間違いないんだが破く加減が実に難しい。ストッキングと肌とのコントラストのバランスが重要、破きすぎたら駄目なんだ。大丈夫、私は専門家だからそこのところはしっかりクリアできるよ。
GOOD!
そうだ!ここは病院だ。病院ということはつまりはナース服があるということだ。この世界でもナース服というのは白い。この真っ白というのが重要で男の心をコチョコチョコチョコチョくすぐってくる。一見清純を思わせるその白の裏に隠されたドロドロの欲情。あーなんて、なんて素晴らしいんだろう。
GOOD!
金髪ナース。
素晴らしい!実に素晴らしい組み合わせじゃないか英語で言えばBLONDE NURSEだ。光一に対しての剛くらいのピッタリの組み合わせだ!最高にジェットコースターロマンスだ。
神よ感謝したします。ようやっとこの世界に来たかいがあるというものだ。金髪といっても薬品で作り上げた紛い物じゃなくて本物の金髪なんだ、その金色の髪の毛をちょっと強めに引っ張ってみたい。引っ張ってみてその整った顔を歪ませてみたい。ああ、私はすぐにでも本物のBLONDE NURSEにそんな素晴らしいことが出来るんだ、ああもう本当になんて素晴らしき世界ーーー。
「ちょっとサブレ!」
「うを!なんだナナハ驚かせるな」
「ちょっと君まさか………」
ナナハがじっとりとした視線を向けてくる。
「何だ落ち着けナナハ、変なことを言い出すなよ」
「それはこっちのセリフだよ!」
「どうしたんですかおふたりとも」
モルンが驚き戸惑っている。そうだ、モルンもいる今はまずい、さすがに今はいくらなんでもダメだ。
「どうしたんだサブレ、もうすでに私に何かやってほしいことがあるっていうなら教えてくれ、私にできることなら何でもする。償いをさせて欲しいんだ」
真剣な眼差し。
GOOD!
ほっほっほ!とりあえずはこの室内から不必要な人間を排除してふたりきりになる、ということが大事だ。いくら異世界と言えどもみんなに見られながら、なんてことは俺のポリシーに反する。こういうことは大っぴらにやることじゃない。
だけどどうやってナナハとモルンをこの部屋から追い出す?特にナナハは素直に出ていきそうにない感じだ。待て待てサブレ、落ち着けよ。そんなに焦る必要は無いじゃないか。
いま具合が悪いというのは間違いなく本当なんだ。舞い上がって忘れているけど、落ち着いて適切な時期まで待った方がいい。せっかくのBLONDE NURSEだ、万全な状態で頂かせてもらおうじゃないか。なんだか体が熱くなってきた。
音がして病室の扉が勢いよく開いて室内の全員が一斉にその方向を向いた。ゆっくりと躊躇なく入ってきたのは背の低いブラウン色の髪の学友だった。




