13話 -反動-
リシュリーとサブレの戦いから数日後
ーーー王立キュウリー上級病院
「痛てぇーーー死ぬぅーーーーー助けてくれぇーーーー」
俺は地獄の地獄の咆哮を放った。
「しっかりしてくださいサブレさん死んじゃいやです。ナナハさんどうかサブレさんを治してあげてください」
モルンが俺の手を取りながら目を潤ませている。こいつやっぱりいいやつだな、こういう本当に苦しい時に手を差し伸べてくれるのが本当の友達だ。
「大丈夫だよモルンちゃん、怪我自体はほとんど何ともないだ。せいぜい打撲程度だから寝ていれば治るよ」
ナース服を着た長身の女があきれたような視線を俺に向けながら言った。
「本当ですかナナハさん」
「もちろんだ保証しよう。しっかしよくもあれだけ強烈な飛燕をうけてこのくらいの怪我とも言えないくらいの怪我ですんだものだね。かなりの実力者であっても死んでもおかしくないくらいの一撃だったと思うよ。それなのに骨一本折れてないとは感心するよ。しかもすぐさま自分の足でここまでやって来たし。感心というか笑えたね」
何を笑ってんだよこの野郎。
「ぐるじいーーーー死ぬーーーー助けてくれモルンーーーこの死の苦しみから俺を救ってくれーーー」
俺を苦しめているのはリシュリーから受けた外傷だけじゃない。体の内部も相当に重傷でその苦しさもあるのだ。同じ学校に通っていた仲間なのになぜこいつに俺の苦しみが分からないのかさっぱり理解できない。
「サブレさんが苦しんでます、なんとかしてもらえませんかナナハさん。すごく苦しそうで見てられません」
やはり本当に信じられるのはモルンだけだ。
「まぁ苦しいのは魔力の使い過ぎが原因さ。いくらサブレの魔力量が凄まじいといってもあれだけの魔力をぶっ放したらそうなるよ。そんなこと魔術師だったら誰でもわかってるはずじゃないか」
「それは全部あのバーサーカー女のせいだ。あんな化け物相手に魔力をケチって戦えるか?ただのお遊びの試合なのに、たった一発入れただけでブチ切れて本気出しやがって。お前も見ただろあのラッシュ、あれを目の前にしてただ突っ立ってるなんてできるか?殺されるところだったんだぞ。誰だってありったけの魔力を使うだろう」
「まぁそれはわかるけどねぇ。私だったら本気を出させる前にギブアップなり場外に出るなりして負けを選んでいたんだけどね」
「あの猪はそんなことを許すような猪じゃない。もっとブチ切れて襲い掛かてくるぞ。お前だって騎士の性格は知ってるだろ。ああ、苦しい、死にそうだ」
「そんなに苦しいならヨモギモギモ草をすりつぶしたやつを出そうか?ほんの少しだけだけど魔力欠乏症に効果があるから」
相変わらずナナハには心配の様子は見えない。
「あんなもん食ったら確実に吐く」
学校の授業で一度食べたことがある。魔術師がサバイバルをするときには重要な食材となるからだ。森まで行ってそれぞれ自分たちでヨモギモギモ草をとってきて調理して食べる。自分がとってきたのが本当にヨモギモギモ草なのか自信が無くてみんなしてビクビクしながら食べていた。
「まぁ大分ひどい味だからねぇ。けどそろそろさっき投与した痛み止めが効いてくるはずだよ、というかもうすでに効いていてもおかしくないんだけどね。なんか大げさに騒いでない?」
「それほど重症なんだ。薬の量が足りないんじゃないのか?」
「薬っていうのはいっぱい使えばいいってものじゃない。もし信じられないなら実際に試してみようか」
怖っ。
「結構だ」
「魔力欠乏症ってサブレさんは大丈夫なんですか?なんかすごく酷い病気なんじゃないですか?」
心配そうなモルンを見てナナハがほほ笑んだ。
「これくらいなら問題はないよ、さっきも言ったけど寝てれば治るよ。自分が持ってる以上の魔力を使うと魔臓がダメージを負うのさ。ひどい時には魔臓が干乾びたみたいになって二度と魔法を使えないなんてことになるけど、これだけ喋れてれば問題ない。魔術師なら誰しも経験のある苦しみさ」
「ぐるしい………苦しすぎるぞあのクソバーサーカーめ。俺をこんなひどい目にあわせやがって、いつかギャフンといわせてやるぞ」
「ぎゃふん?」
「カジマ・リシュリーか噂通りいや、噂以上の実力者だったな。天才とは聞いていたけどまさかあれほどまでだとはね。最後の方なんか光ってたよ、いったいどれほどの魔力を身体強化につぎ込めばあんな感じになるのか、凡人には分からないね」
確かにあそこまでのを見たのは始めてだ。一瞬でヤバいと思ったがどうしようもなかった。
「凡人だなんて………ナナハさんはこれだけ大きな病院でお医者さんとして働けているんだから本当にすごい方ですよ僕、尊敬します。妹の病気も治して頂きましたし、本当に素晴らしい方で本当に感謝しかないです」
「そしてくれよそんな。それよりサブレはこの前の試合のおかげで大儲けしたんだろ?私にも何か分け前をくれよ、忙しい中で本当ならほっておくはずの軽症の病人に時間を割いてあげてるんだからさ」
「ちょっとまてナナハ、お前はなぜ俺が儲けたことを知っているんだ?」
「すいません僕が話しました。あの日からずっとサブレさんは寝たままでしたしこれをずっと持っているのが怖かったので」
そう言ってモルンは手の平に乗せた賭札を差し出した。
「それはしょうがないよモルン。その賭札の裏には当たった場合は試合終了3日以内に換金しに来るようにって、しっかり書いてあるけどサブレはなかなか目を覚まさないんだから、時間が無くなって不安になるのが当り前さ」
「まぁそうか………悪かったなモルン」
そこまでは知らなかった。やはりマフィアというのは自分たちに都合のいいようにルールを作っているな。
「いえ分かっていただけたのなら僕は全然大丈夫です」
「換金しにこれから行くつもりかい?」
「いや俺は重病だからそれは無理だ。何をわかりきったことを言っているんだ。俺がどれほどひどい状態なのかはお前がしっかり把握しておけよ」
「そんなこといって普通に喋ってるじゃないか。さっきまでの苦しそうな様子はやはり演技だったんじゃないの?普通ならこの程度で入院なんてちゃんちゃらおかしいんだよ」
「さっきから何をいってるんだお前は、患者の気持ちが全然わかってないな。俺だからこの辛い状況でもなんとか耐えられているんだ。普通の人間なら泣き叫んでいるところだ」
「非常に嘘くさいね。患者は嘘をつく、これは医学に携わるものなら常識だけどサブレはその中でもよけいに嘘くさい。それじゃあ誰か代わりに行かせるんだね、まさかモルンちゃんひとりに行かせるつもりじゃないだろうね」
「さすがにそれは考えてない」
「それはよかった。胴元はマフィアだからこれだけの大金になればちゃんと約束通り払ってくれるとは限らない、奴らお得意の暴力的手段でこの賭けをなかったことにするなんてことは簡単に考えられる」
モルンの体が恐怖に縮んだ。
「実はナナハさんが来てくれる前に、サブレさんの学友の方に助けて貰るように頼みに言ってたんです。だけどその方は留守で………」
「学友?誰に頼んだんだい」
「メフィレールだ」
「ああ彼女か、よりによって結構な人選だね」
納得したような、驚いたような表情。
「とりあえずマフィアにビビらない根性と強さは必須だし、金を持ち逃げする心配のない奴で暇そうなやつ、と考えたらあいつが真っ先に思いうかんだ」
「なるほど………まあ言われてみればそうだけど、うーん」
病室の扉がノックされた。
「ああよかった!伝言をみて来てくれたみたいです」
モルンが嬉しそうに扉に駆け寄った。




