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134話

 


「パイナどうしたんだ?」


「なんかちょっと聞いたんだけどモルン君のことを昨日スラム街のほうで見た人がいるんだって。何かの間違いよね?」


「間違いじゃないよ、昨日学校終わりで行ったから」


「え?!大丈夫だった?」


「ええと、なにが?」


「なにがってスラム街ってすごく危ないじゃない」


「ちょっ、何言ってんだよパイナ」


 シンジが噴き出した。


「モルンはあの吸血鬼をぶっ倒したんだぞ、スラム街くらいなんともないに決まってるじゃないか」


「それはそうかもしれないけど、危険だから近づかないようにっていうのはずっと言われてるから」


「心配してくれてありがとう、けど大丈夫だよ、僕一人じゃないし気を付けるようにはしているから。」


「でもあんまり近づかない方がいいんじゃない?」


「本当はそうなんだけどこれからあの場所には毎日のように仕事で通うようになるから行かないわけにはいかないんだ」


「仕事?仕事って何?」


「仕事というか、なんといったらいいかちょっと難しいんだけど」


 仕事なのかな?お金を取らずにご飯を配るんだから正しくは仕事じゃないかもしれない。一応イゴセさんがメインでやってくれることになってるけど慣れるまでは大変だと思うから、アルバイトが見つかるまでは僕も手伝いに行きたいと思っている。


「何か複雑な事情があるんだ?」


「複雑と言えば複雑かな」


 なぜスラム街の恵まれない人たちに無料でご飯をふるまおうとしているのか、というのを他の人に説明するのはすごく難しい。


 サブレさんがリシュリーさんに言いすぎたのが原因でリシュリーさんはサブレさんが恵まれない人たちの事情に詳しい人だと思い込んでいて、それでリシュリーさんの受け取るはずの分け前をそれに使ってほしいと頼まれてしまって、それがあまりにも真っ直ぐなのでサブレさんが断り切れなくて、やらないとリシュリーさんが怖すぎるからやることになった、ということ。


 自分でも説明しながらこんがらがるくらいに複雑だ。


「それじゃあこれ以上は聞かないけど本当に気を付けてね。なんかこの子がモルン君の顔に傷がついたら嫌だ、っていって心配しているのよ」


「っとパイナ!」


 パイナさんより半歩後ろにいたキウイさんが小声で怒鳴った。


「ごめんごめん、痛っ、ちょっとキウイつねらないでよ痛いじゃない」


「ごめんなさい何でもないの」


「あ、そうなんだ。わかったよキウイさん」


「うん………」


「というわけでシンジはバイトするつもりはない?」


「どうしたんだよ急に」


 パイナさんとキウイさんが戻っていった後で聞いた。


「さっき言ってた仕事なんだけど人手が足りなくて困っているんだ」


「ひとでなんかいくらでも募集すればいるだろう」


「そうなんだけど普通の人だと駄目なんだよ。さっき言ってたみたいにスラム街の近くでやるつもりだから治安が悪いんだ。そこでも対応できるくらいに力のある人じゃないと」


「そういうことか、けどごめんな学校が終わったら俺は仲間とダンジョンに潜ることにしているんだよ」


「ええぇ!?危険なんでしょダンジョンって」


 ダンジョンの危険性についてはサブレさんからも散々言われている。


「大丈夫だよ、安全性はちゃんと考えて初心者用のダンジョンに言ってるから。たしかにダンジョンは危険だけど初心者用のダンジョンなら突発的なことはめったに起こらないって言われてるんだ」


「そうなんだ、残念」


 シンジの体つきから言ってスラム街の危険には問題なく対応できそうだと思ってたので残念だ。


「バイド代は普通に働くのよりかなり奮発するつもりだったのに」


「そうなのかちょっともったいない気はするな。けど俺たちは将来のために小遣い稼ぎしながら今からダンジョンになれておくつもりなんだよ」


「わかった、けどくれぐれも気を付けてよ」


「分かってるって。あと危険っていえばあの吸血鬼の事件の噂、知ってるか?」


「噂って何?」


「俺も聞いただけで正しいのかどうかは分からないんだけど。吸血鬼の正体は王立魔法アカデミーの生徒だったって話」


「ええぇ!?」


「普通は大きな街になるほど死体が転がっていてもそこまで大騒ぎにはならない。だけどあの事件については結構調べてるみたいなんだ、校長先生のところにも何度か話を聞きに来たのは結構な数の生徒が見ている」


「僕は何も聞かれてないんだけどなんでだろう」


「それは多分学校側が気を使ったんだと思う」


「なるほど、そういうことなんだ」


 それはありがたい。聞かれてもあまり答えることができないと思うし、兵士というのは僕にとってやはり怖い存在だ。


「最初は吸血鬼っていう話題になっていた事件だからかと思われてたんだけど、どうやらその兵士が王立魔法アカデミーに入っていくのを見たっていう人がいるらしいんだ」


「それで王立魔法アカデミーが関係あるんじゃないかという噂になってるんだね」


「そうなれば兵士が普通以上に調べている理由も分かるだろ」


「もしかして貴族様の子供とか………」


「さすがはモルン話が早いぜ!普通は死体があったからって適当に片づけて終わりなのに、そうじゃないのはその死体が有力者と関係がある死体だった場合だからっていう考えなんだ」


「王立魔法アカデミーには限られた人たちしか入学できないから、入れるっていうことは貴族様じゃなかったとしても有力者の子供だからちゃんと調べてもおかしくないね」


「そこでモルンに聞きたいことがあるんだ」


「なに?」


「モルンは吸血鬼と直接戦ったことがあるから分かると思うんだが、吸血鬼は何歳くらいの感じだった?」


「それは分かんないよ、仮面もかぶってたし。それにほとんどは距離をとってたから近づいたのは一瞬だけなんだ」


「なんだそうなのか」


「校長先生なら僕よりは分かるんじゃないかな。先生のほうが僕よりは長い間戦ってたから」


「うーん、なんだそうなのか。そうか、もしかしたらそれで校長先生だけ話を聞ければ十分だと兵士のほうでも思ってるのかもしれないな」


「でもなんで年齢のことなんて気になるの?」


「これは俺たちで考えたことで誰にも言ってないんだけどさ………」


 シンジは急に声を小さくした。


「もしかしたらいま王立魔法アカデミーに通っている生徒、っていうわけじゃないんじゃないかって考えたんだ」


「卒業生ってこと?」


「そういうことだ。ただそれだと犯人を突き止めるのは難しくなるんだけどさ」


「候補が広がるからね。っていうかシンジは犯人を捜したかったんだ?」


「そりゃあそうだろ、これだけ大きな事件なのにまだ何の発表もないんだぜ。きになるじゃないか、もし俺たちで犯人を突き止められたら凄いことじゃないか。モルンもそう思わないか?」


「思うけど………」


 でもせっかく終わったんだからもうこれ以上はいいような気がする。


「ちょっとあなた」


 話に夢中になっていて気が付かなかった。


 白い髪色の少女がいつの間にか横に立っていた。




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