12話 -決着-
恐ろしい形相で金色の鬼が突っ込んできた。
「死ねぇえ!!」
怖えわ!
なんだこいつもう野獣じゃねえか。あぁ嫌だ嫌だ、もし将来結婚する時が来たのなら相手は可憐で儚げでか弱いくらいの女にしよう。こんなバーサーカーみたいな女は絶対にお断りだ。
土魔法でガッチガチに覆った左腕を横薙ぎに振るわれた剣に合わせていく。
魔法というものは自分の体に近いほど威力を発揮するもの。だから大丈夫なはず、今までさんざん実験してきてるから大丈夫なはずだ。しかし少し不安。大丈夫、向こうの剣は刃を潰している練習用の剣だ。
ガチンという金属音がして互いの動きが止まった。
「うううぅ!死ねぇええ!」
動きの止まった隙に再び拳をねじ込もうとしたが、同じ手は食わないとばかりに。リシュリーは反転して体の位置を変えた。
そしてその回転を利用して再び剣を振るってきた。いわゆるバックアンドブローみたいな状態。
ガチン!
予想もしていなかった動きだがサブレは何とか再び土で覆った腕でガードすることに成功。しかし体に纏わせた土魔法は大きく削られて皮膚が出てしまっていた。
「死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!」
リシュリーは鬼の形相で連続で剣を振るってくる。
「おいちょっと待て」
「死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!」
「マジで野獣だなこいつ」
焦りつつも腕を覆っている土魔法に魔力を急速に送り込んで復元させて嵐のような斬撃に耐える。リシュリーの攻撃が想像以上で自分の皮膚がはっきり露出してしまっていることがサブレの焦りを増幅させる。
「死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!」
「おいちょっと落ち着け、これはただの訓練だぞ」
「死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!」
「駄目だこいつ人間の言葉が通じない」
その時、4度目の鐘の音が鳴った。
「石壁!」
それを聞いた途端にリシュリーの目の前に石壁を作り出した。サブレの額にはびっしりと汗をかいている。
その石壁は今までに作ったものよりも明らかに貧弱なものだった。
「この隙に」
しかしその石壁は単なる目隠しだったらしく、サブレは大きく後方へステップを踏んで距離を取ろうとした。
「ちょこまかちょこまかクソ男魔術師がうぜぇんだよこの野郎がもう知るかこの野郎もう殺す叩き切ってやる死ね死ねぇええ!!」
飛び退いたサブレの体が着地するよりも早くリシュリーの体と剣が強い光を放つ。土壁はその光によって手を触れることなく崩れ落ちた。
「ちょっと待て!」
「死ねぇ!死ねぇ!死ねぇ!」
交差するように二度剣を振るうと光は重なって十字架と化し、恐ろしい速度で慌てふためく魔術師へ向かって一直線に飛んでいく。
飛燕。
小柄なサブレの体よりも大きく速い。体全体を土魔法で覆って光の十字架を防ごうとしたサブレだったが、それが整うよりも早く飛燕が体を直撃した。。
「おごぉああああ!」
場外よりもはるか遠くサブレの体は吹き飛び、分厚い石で作られた観客席の通路に壁に轟音を共にその体を突き刺した。
「勝負あり!勝者カジマ・リシュリー!」
審判が右手を勢いよく突き上げると同時に、会場中から大歓声が上がった。そして勢いよくドラが鳴らされ試合終了が告げられた。空には掛札と熱狂する人々の声が永遠と舞い上がった。
「リシュリー」
大きく呼吸をするリシュリーに向かって審判役の男がゆっくりと、しかし威圧感をもって近づいていく。
乾いた音。
振り返ったリシュリーは左頬に鮮烈な熱さを感じた。叩かれたのだということを気が付くのには時間が必要だった。
「師範………」
「お前は何をしている、今の戦いはどういうつもりだ」
「う………」
「お前はいま同僚である特級宮廷魔術師を殺したな?王族をお守りする特級宮廷魔術師を殺すということは王族へ刃を向けると同義だ」
冷たい怒りがりしゅりをガッチリと捉える。
「けどこれは勝負です、死ぬことだってあるのは当たり前です!それにあいつがまだ死んだとは決まってません!」
「リシュリー!」
吼えていたリシュリーの体が子供のように委縮した。
「そういう問題ではない。死んではいなくともかなりの重傷を負ったことは間違いない、もしかしたらもう特級宮廷魔術師としての職務を果たすことはできない体になっているかもしれないのだぞ」
「はい………」
「そもそもにおいてこれは単なる余興であったはずだ。それなのにも関わらずお前が行ったことはなんだ、それを踏まえて自分の行いは正しかったのか、もう一度己に問いかけてみろ」
「正しく………ありませんでした」
「明らかにお前は相手を殺すつもりで技を放った。私がお前に剣術を教えたのはこんなことに使うためではない。大観衆に舞い上がり、攻撃を受けたことで怒りに支配された姿は騎士からは程遠い」
涙がすうっと頬を流れた。
「お前には失望した」
審判役の男が去っていった後でリシュリーはリングで両ひざをついて両手からあふれるほどの涙を流した。
その時場内の一部からこれまでとは質の違う歓声が上がった。
観客たちの視線の先には、瓦礫を払いのけながら姿を現す少年の姿があった。
そして自分の体をペタペタと触ったり首や手足を動かした後で、しばらくの間リングに目を向けた。
階段が少年の足元から作り上がっていく。少年の周囲にあった瓦礫も吸い込まれるようにその一部となって闘技場の外まで階段は続いていく。
リングから目を離すと少年はその階段を使って、闘技場から離れていく。興奮した観客がその階段を使って少年の後を追おうとするが、階段は少年が歩き去ると消失し進む先の階段となってあらわれる。
それを見た観衆から異様な歓声が上がる。
リングの中心では金色の髪の勝者がひとり崩れ落ち嗚咽を漏らしていた。




