11話 -金髪女騎士との試合2-
「土槍!」
突進してくる女騎士のタイミングに合わせて地面から数十本の槍を発生させる。
よし、当たった、初めて俺の攻撃がまともに直撃した。しかしさすがは頑丈さに定評のある騎士様。なんとそのまま突進してくる。お前はサイか勘弁してくれよ。
「うをぉらあ!!」
獣のような声を上げて剣を振るった。それならもう一度と発生させた土槍、さっきよりも数を増やしてみたが、さすがに馬鹿ではないようでひとつも当たることなく、土槍は一瞬で破壊された。
「ちまちまとぉお!」
一色線に跳んでくる空気の歪み。
「ヤバっ」
「飛燕」俺が最初にリシュリーの頬の薄皮を切り裂いた技。武器に魔力を流して斬撃の特性を持たせて飛ばす技。
俺はこれを受けるわけにはいかない。騎士様とは体の頑丈さが違う。防ぐか逃げるしかない、俺は逃げるほうを選ぶ。どうせなら相手との距離を取れるように斜め後ろへと身体強化を使って跳ぶ。
しかしそ騎士様といえば身体強化、という代名詞くらいに向こうのほうが、強度も練度も高い。あっという間に距離を詰められてしまって横薙ぎに払われるであろう剣の初動が見えた。
「土壁!」
何とかギリギリ剣が当たる直前で体の前に土壁を作ることに成功した。しかし時間がなさ過ぎて土壁の作りは甘く完全に防ぐことができなかった。
俺は当たった剣に弾き飛ばされた。
冷や汗が溢れ出る。
土壁のおかげで威力はかなり減らしたはずなのにも関わらずかなりの衝撃。試合用の剣でよかった、刃のついていない剣でよかった。これが本物だとしたら死んでたかもしれない。剣が自分の腹の上を滑りながら叩く感触は死を感じさせた。
息が止まり、腹に強烈な打撃の痛み。それでも剣の勢いは止まらずにそのままリングを滑っていく。
「がはっ、はっ、あ、」
苦しい。駄目だ、立たないと。勢いよく上げた顔の先に追撃をしてくる騎士の姿は無かった。凛とした立ち姿で倒れている俺を見ている。
歓声。
俺が派手に吹き飛ばされたのを見て、満員の観客が手を振り回して興奮しているのが見える。「殺せ」何て声も聞こえる。好き勝手言いやがって馬鹿野郎どもが。人が死ぬほど苦しんでるのを見て楽しんでるんじゃねぇよ。
歓声の中でもはっきりと聞こえる足音。
「もう立ち上がるのか、思ったよりも頑丈だな」
憎たらしいほど余裕の声。
「私は魔術師というのはもっと華奢なものだと思っていたんだが、これは認識を改めないといけないな。気を失っているものだとばかり思っていた」
苦しい、苦しいが声は出そうだ。
「お前、わざと場外にしないように打つ方向をコントロールしたな?」
「お、よく気が付いたな。場外負けでの勝負は盛り上がらないかと思ってな」
俺がリングを滑った距離はそれほど長くはなかったが、それでもほかの方向に飛ばされていればリング外に落ちていた。それがたまたま距離がある方向に飛ばされたのは偶然とは思えなかった。
「そっちは全然元気そうだな」
まだ時間が欲しい。
「いや、土槍は結構効いたぞ、まさかあれほどの速度で魔法を完成させるとは思ってもみなかった。おかげで正面からくらってしまった」
そりゃそうだろう。速さ、それは俺が魔術師として一番こだわっている所。普通の魔術師はチンタラと詠唱をしながら魔法を発動させているが、それでは遅すぎる。勝負は一瞬なのだ。
「あとあの砂を巻き上げる技、初めて見たがあれはなかなかいい技だな。攻撃範囲が広いから大人数を相手にするにはかなり使えそうな技だ。視界が奪われるし、砂が結構強力だな、身体強化を使うことができなければ体を切り裂かれるだろうな」
褒められているがあまりうれしくはない。それを喰らった張本人が全く切り裂かれていないからだ。
「あれは砂嵐っていって俺のオリジナル魔法だ」
3つ目の鐘が鳴った。
「オリジナル魔法?あれがオリジナル魔法か、名前だけは立派だがほとんど役に立たないものしかないという印象だったんだがそうか、そこも認識を改めないといけないな。勉強になる」
どうするか、思っていたよりも特級騎士リシュリーが強い。砂嵐にはそこまで期待していなかったが、直撃した土槍はもっと効いてくれると思っていたんだが計算外だ、頑丈にもほどがあるだろう。リングも思ってたより狭いから、やりにくいことこの上ない。
「さぁ、息は整ったか?まだまだ指導はこれからだ、お前の体に先輩への敬意を覚えさせてやろう」
どうやら俺が休んでいることを分かっていて付き合っていてくれたらしい。冗談じゃない。俺は痛いこともきついことも大嫌いなんだ、あんな攻撃二度と貰ってたまるか。
「砂嵐」
「またかそれか」
リシュリーの足元に生じさせたのは、ほんの小さな砂嵐。
ダメージを全く与えれていない今日もうすでに2度も見ている技。それをあえて使ったのは相手の油断を誘うため。そしてその技が今までよりもずっと小さいという少しの驚きを相手に与えるため。
声を張り上げなくても会話できるくらいの距離。これは間違いなく騎士様が一番力を発揮する距離。
身体強化の出力を一気に増やし、距離を詰めた。
「なっ!」
さすがは特級騎士。魔術師である俺が接近戦を挑んでくるとは思ってもみなかったはずだが、体は反応していた。これというのは幼いときから剣の鍛錬に打ち込んできた成果だろう。考えるよりも早く体が動いている。
しかしこれくらいは想定内。
驚きのあまり剣を振るう速度は普段よりも大きく損なわれた、本人にしてはかなり不本意な振りだっただろう。俺としてはありがたい来ることを予測させしていれば何とか対応できるくらいのものだった。
剣にしろ長物という武器は先端にいくほど威力を発揮する武器だ。怖いからといって逃げて、相手の一番力を発揮する距離で受けるくらいなら、根元で受けたほうが威力は少ない。
リングから土を発生させて根元である手を固定する。
「クソッ」
そう簡単には壊せないぞ、余裕があるならドヤ顔で言ってやりたい。今までとは違って魔力を大量に込めているからな。見た目が同じだから今まで壊してきた土と同じ強度だと思ったら大間違いだ。
更に距離を詰める。
剣の攻撃範囲のもっと内側。
開いた左手をリシュリーの目の位置に持っていく。そして噴射する砂粒。もちろん魔力を通した砂粒、切れ味はある。ゲゲゲの鬼太郎で言う砂掛け婆みたいな攻撃方法だな。
リシュリーの身体強化の力をもってすればもしかしたら何もしなくても傷を負うことは無かったかもしれない。ただし目を攻撃された人間というのはとっさに自分を守ろうとしてしまうものだ。
リシュリーの体制が大きく崩れる。固定された右手、砂を防ごうと庇う右手、砂を避けようと捩れる体。
右手に魔力を込める。
そしてがら空きになった鳩尾へ拳をぶち込んだ。
「がっ、」
小さな声だけを残しリシュリーは派手に吹っ飛んだ。左手を固定していた土は拳が当たった瞬間にただの砂へと変化させている。
勝った、と思った。
場内は大歓声。ぶっ飛ばされさえすれば誰でもいいのか、と腹が立ってくる。しかし気分としては悪くない。
リシュリーが吹っ飛んだ方向はリングの端との距離が最も短いところ。場外勝ちだ、そう思った。思ってしまった。本当ならば追撃をするべきだったんだろう。
吹き飛ばされていたリシュリーが空中で体を反転させて左手をリングに突き刺して動きを止め、場外落ちを阻止した。
「マジか」
普通あんなことをしたら手がボロボロになるぞ。
「このクソったれの男魔術師が!!」
容貌に全く似合わぬ汚い言葉。
鬼気迫る表情で吹き飛ばされたとき以上のスピードで金髪の女騎士が突進してきた。。




