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115話 -ぽかぽか-

 


「ぐぐぐぐぐ………」


 ジンゴの首筋の血管が黒く浮き上がっている。


「ジンゴ!」


 体を丸めて痙攣している。黒蛇はやはり強力な毒、だった。しかしかまれた足首が溶け落ちているということはない。


 足首からゆっくりと牙を抜いた黒蛇と目があった。


 全身に魔力を纏わせる。マリーゴールドの蛇は魔力を持ってしか掴むことはできない。ポケットには短剣の存在感を感じる。「村雨」を使えば蛇の素早い動きにも十分対応できるだろう。しかしそれはできない。たとえ蛇であっても王族に刃を向けたとあっては死刑もありうるぞ。


 絶対に掴む。


 よく見ろ、足首を噛みに来るかもしれないぞ、上半身だけだと思うなよ。どこに来てもいいように体ごと躱しつついけそうな時だけ掴むんだ。無理をしてその手を噛まれないように注意しろ。


「サブ、レ………」


 ジンゴの声。


 気が付くと俺の目の前にはマリーゴールドがいた。


「え!?」


 戸惑うマリーゴールドの声。


 構わず俺はその体を背中から拘束した。


「ちょっとサブレ、なんなの」


 戸惑っているのは俺も同じ。これはジンゴのスキル「手業」、物体を移動させることができるスキル、だと思う。教えてくれるはずがないから聞いていないが食らったことならある、これでおれはジンゴに騎士武闘トーナメントで負けた。


 特級宮廷魔術師になるためにあとひとつは勝つつもりだったのにあのスキルのせいでいつの間にか場外にいた。しかもジンゴの野郎は途中まで俺の「飛燕」でダメージを負っているふりをしながらとどめで撃った「飛燕」を今までにないほど素早く躱した後で「手業」を発動させた。


 俺が負けを宣言された後でジンゴの背後から騎士共がうようよあらわれて大盛り上がりしていたんだ。魔術師の俺が騎士武闘トーナメントで勝ち上るのは騎士の名折れだとかなんとかで、俺に恥をかかせるつもりで小芝居を打ったらしい。


 あの時のことはいま思い出しても腹が立つ。


「マリーいますぐに蛇を止めてジンゴから毒を抜け!」


「苦しい」


「早くしろマリー!」


「わかった、わかったから、いまやるから」


 人差し指から細い白い蛇があらわれて俺の顔を振り返って少しの間見た後でジンゴのいる方へとうねりながら向かっていった。


「多分あれで大丈夫だと思う」


「多分ってなんだ、ちゃんとジンゴから毒を抜いてやれ」


「だってわかんないもん。あの黒い蛇が出てきたのは今日が初めてだから。頭が暑くなって気がついたら出てきてたの。向こうに行った後でどう動いたとかわかんないし、噛んだことなんて知らない。けど治すよ、サブレがそういうなら。たぶん治せると思うし」


 マジかよ。


「あ、もう多分大丈夫、いつもの解毒の感じがした」


「よかった………」


「友達なの?」


「別にそういうわけじゃないけどな」


「友達じゃないのにそんなに心配するの?やっぱり優しいんだねサブレって」


「それは別に、流れというか………」


「サブレ」


「なんだ?」


「前の喋り方に戻ってるよ」


「あ!」


 とっさの状況だったので取り繕った敬語をすっかり忘れてしまっていた。


「私が好きな喋り方。何の温度もないカチコチなしゃべりよりそっちのほうがずっといいよ、本当のサブレの温度がする。だからもうずっとその喋り方でいて」


「ちょっとジンゴの様子を見てくる」


 一旦時間を空けよう、これからどう接したらいいのか考える必要がある

 。


「嫌、もうちょっとだけでいいからこのままでいて。すごくポカポカする、ずっとサブレのことを待ってたの、ずっと私の傍にいてくれるんだと思ってたのに全然来ないから、わたし毎日ずっと待ってたの」


「このままって………」


 ん?


「君たち何をしているんだい?」


 第4王子サンジェルトがいた。耳までつきそうなくらいに口の橋を大きく持ち上げて深い笑みを浮かべている。


「サブレが急に………」


「ちょっと待ってくれ、違うんだ!」



 マリーゴールドを後ろから抱きしめていた。



「何やってるの?マジで、サブレ、こっちは死ぬところだったんだぞ」


 土壁の奥からよたよたと歩きながらやってきたジンゴは怒りと、軽蔑が含まれた顔で俺を見ていた。


「いいよ、なんかとってもいい気持ち。みんなにも私たちがこんな関係なんだってもっと知ってほしい、もっと見て欲しい。ずっとこうしてほしかった。もっと強く抱いてサブレ」


 背中から響く声。


 それは無理なんだよマリーゴールドさん、何もなかったということにしましょうよマリーゴールドさん。あなたは王族で私は市民、こんなことが許されるわけないじゃないですか。


 平穏で豊かな人生を過ごすために私は特級宮廷魔術師になったんですよ、けど気がついたらいつの間にか私は荒れ地に向かって私は進んでいます。なぜこんなことになっているんでしょうか、誰か教えてください、誰か助けてください。


 俺はゆっくりと回した手を離して汗だくになっている後頭部を掻いた。


 静けさの中でドクロの指輪がカタンと動いた音がした。


 笑うのはやめろホープ。お前は物語を起こさせる力があると言っていたな。これはお前の力なのか?こんなことをして何が楽しいんだ。


 そしてサンジェルト、お前もなぜそんなに笑っているんだ。そんな顔今まで見たことがないぞ


 もうとにかく………最悪だ。


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