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113話 ー汗ー

 


 大蛇のような青紫色の光をジンゴさんは華麗に躱し続けている。


「すごい………」


「よく見て勉強しておくんだぞモルン。これはお前の勉強のためでもあるんだ。ナイフを武器とするなら足運びが勝負だからな」


「ありがとうございます」


 サブレさんが僕のことをちゃんと考えてくれることにうれしくなった。


「なに、和やかに、話してるんだよ、もういい加減に、してくれ」


 躱しながらジンゴさんが言った。


「すごい!喋る余裕まであるなんて」


「うーんこれは予想以上だな。「飛燕」みたいに一直線じゃないから買わしにくいと思っていたんだが。どうやらその分スピードが無くなっているようだな」


「なるほど」


 確かにサブレさんとリシュリーさんが戦っている時に見た「飛燕」ものすごいスピードで飛んでいっていた。


「これじゃ話にならないな。飛距離も出ないしこれは失敗作だ」


「そうなんですか?」


 すごい技だと思っていたのに残念な気持ちだ。


「少し変えてみるか。太さはいらないんだよな、このせいで遅くなってる気がするからな。当たらなければ意味がないのに一回も当たってないからな」


「何言ってんのかわかんないけど、もういい加減にやめてほしいんだよな。もう結構やったからいいでしょ、ってはぁ!?」


 蛇が裂けた。


「えぇ!?」


「コントロールが難しい」


「ちょっと待ってくれよ、これは」


 2つに分かれた蛇がそれぞれ違う動きをしながらジンゴさんに食い掛る様に向かっていく。


「んにゃろ!、ほら!、おら!」


 明らかにさっきまでの余裕がなくなっている。躱すのに必死という感じだ。


「これでも仕留められないか」


「サブレ、もう、本当に、止めてくれ、限界だ」


 前髪から汗が滴っている。


「モルン、よく見ておくんだぞ、あの足さばきだぞ」


「わ、わかりました」


 本当にサブレさんはジンゴさんのことを信頼しているんだな。僕から見れば本当に限界に近そうなのに全く心配する素振りがない。


「はっ!はっ!はぁっ!」


「あ!」


 ジンゴさんがバランスを崩してしゃがんだところに2匹の蛇が襲い掛かる。


「危ない!」


 ジンゴさんがその場から消えた。


「えっ!?」


 振り返ると僕の後ろにジンゴさんはいて、肩で大きく息をしている。


「本当に、いい加減にしてくれ、サブレ。これ以上やるなら、僕も冗談じゃ済まさないぞ」


 怒りの表情を浮かべている。ずっと人当たりの良い感じの人だったけど、堪忍袋の緒が切れたらしい。本当に怒る一歩手前に見えるのでこれ以上刺激したらまずい。


「まあ、そう怒るな。もう十分わかったからこれで終わりにしてやる」


 よかった、サブレさんはどうやら満足したようだ。


「もうそんな限界みたいな演技はいいから早く重要な用件とやらを済ませに行くぞ」


「演技だったんですか?」


 とてもそうは見えなかった。


「前もそうだったんだがこいつは演技がうまいんだ。そのせいで俺はすっかり騙されたから素直に受け取らない方がいい」


「なるほど、そうなんですね」


 サブレさんが言うならそうなんだろう。けど演技であんなに大量の汗をかけるものなんだろうか。


「演技、なわけ、ないだろ」


 まだ呼吸が荒い、これも演技なのかなぁ。


「いつまでもしゃがんでないで早くしてくれ。タイムイズマネーだぞ」


「これは本当に酷いよサブレ」


 さっきほどじゃないけれどジンゴさんの目はまだ鋭い。


「俺も前にひどい目にあわされたんだからこれでチャラにしよう。モルン、とりあえず後はイゴセの道場に行って戦闘能力試験に向けて戦い方を教えてもらうんだ」


「わかりました」


「イゴセ」


「なんだ?」


「今日のところはモルンの修練は軽めにしておいてくれ」


「そうだな、わかった」


「それが終わったらイゴセは炊き出しの準備をしてくれ。調理器具とか食材の手配とかやることはいっぱいありそうだからな。金はモルンに預けてあるからそこから出してくれ」


「わかった。それにしてもかなりレベルの高いやり合いだったな」


「こんなもんまだお遊びだな。特級騎士の実力はこんなもんじゃないぞ」


「うーむ、なるほどさすがにこの国で随一の実力者は違うな」


「モルン、あとで結果を聞きに行く」


「わかりました」


 結果とはスキルのことだろう、聞き返さなくても分かる。今回サブレさんには3つの目的があったんだ。


 1つ目は新技の「村雨」を試すこと。これは十分に成果があったと思う。僕が見たことがあるのは岩に対して使っているのだけど、人間に対して使ってみたかったはずだ。それをリシュリーさんと同じ特級騎士相手に使ってみてどの程度効果があるのか確かめれた。


 2つ目は過去の恨みを晴らすこと。ふたりの間に何があったのかは分からないけどそれほど深刻なことはなかったんだと思う。ジンゴさんを実験台にして怒らせただけで満足したということはそういうことだと思う。


 3つ目はスキルを僕に覚えさせること。これは2つ目ともつながっていて、サブレさんの復讐はこれで完成するのだ。あの時、「村雨」によって体勢を崩したジンゴさんはいつの間にかあの場所から移動していた。


 似ている。ウミカの時間をゆっくりにするスキルと似ている。似ているということは非常に怖いことで、最悪の思い出がよみがえってくる。


 しかも残念ながらと言っていいのか、覚えることができてしまった。出来なかったらよかったのにと少しだけ思ってしまったけど、できてしまった以上、サブレさんに対して嘘はつけない。


 ジンゴさんもサブレさんもあのスキルがなんなのかは言わなかった。そして僕はスキルがどんな効果を持つのか分からないまま覚えるのは初めてだ。多分使ってみれば何の効果を持つものなのかは分かると思うけど、使うのが怖い。


 どうしよう、ただでさえ試験でいっぱいいっぱいなのに心配事が増えてしまった。


 サブレさんはジンゴさんと共に行ってしまった。通り過ぎるとき、ジンゴさんが汗で後頭部まで濡らしているのが見えた。



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