112話 -ジンゴ-
「いいねいいねさすがだねー」
新しい土地に新しい建物ができてすぐに後ろから声が聞こえてきて僕は勢いよく振り返った。
「もしかして忘れちゃった俺のこと?」
立派な服装の眼鏡をかけた格好のいい男の人が立っていた。
「次に会った時は只じゃおかないと言っておいたはずだがな。お前こそ忘れたか?」
「忘れるわけないじゃないの同世代の天才魔術師シャイタン・サブレのことなんてさ」
ふたりは明らかに知り合いのようだ。しかもサブレさんはこの人に対してかなり怒っているようだ。いったい何があったんだろう。
「特級騎士様か」
イゴセさんが言った。
「ごめんねいきなり訪ねてきちゃって。緊急で重要な要件があるから少しサブレを借りていくよ」
「何を勝手に決めてくれてんだよ」
「いや聞いてよサブレ、今この場では詳しく言えないんだけど本当に重要な用件なんだ」
「本当に重要なら特級騎士とはいえペーペーのお前がその仕事を任されるわけないだろ」
「いやいやいや、人を呼びに行くくらいならペーペーだって任されるって。いくらサブレが嫌だって言ったってさ無理やりにでも連れていくよ」
「やれるもんならやってみろ」
ピンと空気が張り詰めた。
「サブレさんいったい何が起きてるんですか?」
勇気を出してその中に入ってみた。
「おおそうかそうか、モルン。お前がいたんだったな、なるほど………」
「はい、ずっといますけど」
サブレさんが口の端っこを大きく上に持ち上げるすごく悪いことを考えていそうな顔をしている。
「どうした?考え直してついて来てくれる気になった?」
「それでもいいな、重要な用件なんだろ?」
「もちろんすごく重要だよ」
「かといって俺は前にお前から受けた行いをそう簡単には許せない」
「まってよまだ気にしてんの?そこまでのことじゃないじゃない」
「やったほうとやられたほうじゃ気持ちが全く違うんだよ。そして今のお前の言い方は全く反省していない人間の言い分だ。俺の素直についていきたい気持ちを邪魔してるのはお前自身だ」
「悪かった、許してよ」
「そんな適当に謝ったって許すわけないだろ」
「じゃあどうすればいいのさ、土下座でもすればいいの?」
「いやいや、そんなことされたら俺が悪者に見えるだろ。子供の前でそんな真似はさせないでくれ」
「はっきり言ってよサブレ、何がしてほしいのさ」
「それじゃあはっきり言わせてもらうよ」
サブレさんは少し溜めてから言った。
「俺の技の実験台になってくれ」
「実験台?なにそれめっちゃ怖いこと言うじゃん」
「丁度いい相手を探していたんだ、普通の人間だとすぐにズタズタになっってしまって本当に使える技なのかどうかが分からないから、ある程度以上の実力を持ったやつに試してみたいと思ってたんだが、なかなか難しくてな」
「でもちょっと待ってよ、こっちの用件は今すぐ来て欲しいんだよ。技を見ていいかどうかを言うくらいなら付き合うけど、それは後にしてよ。相手方を待たせるわけにはいかない、そういう相手なんだよ」
「大丈夫だそんなに時間はかからないようにやるから。いまここでちょっとやったら終わる」
「そうはいうけど周りに被害を出すわけにはいかないよ」
「もちろんそれは俺も分かってる。そんな真似をしたらせっかく苦労してなった特級宮廷魔術師の仕事を失うことになるからな」
そういいながらサブレさんはポケットから鞘のついた短剣を取り出した。
「ちょっと待ちなよサブレ、街中で武器を抜くのは法律違反だ」
「それは俺も知ってるから安心しろ」
短剣から青紫色の太い雷みたいなものが発現した。
「村雨………」
斬撃の特性を持たせて飛ばす「飛燕」がリシュリーさんに躱され続けたことで、考え出した技。体と接した状態なら躱されたら終わりということにならなくてもすむからという理由で。
けど僕が見た時には大きな岩をスパスパ斬っていた。もし本当に当たったら斬れてしまうと思うんだけど、サブレさんはそれだけこの人のことを信頼しているんだと思う。
「これがどれくらい騎士タイプのやつに対して効果があるのかを知りたい。お前なら当たっても大丈夫だろうが、とりあえず躱し続けてくれれば大丈夫だ。飛燕よりも当たりやすくなってるかどうかが、知りたいだけだから安心してくれ」
「それやばいよサブレ。もしかして斬撃の属性を持ったまま手元から離さないでコントロールし続けれる技なんじゃない?」
「一目見ただけで気が付くとはさすがだ。それくらいの実力がある奴に受けてもらいたかったんだよ」
「いやいまは何の防具も身に着けてないから当たったら簡単に切れちゃうでしょ」
「この技はなかなかに魔力を消費するから喋りかけないでくれ。集中が切れると暴発するかもしれん」
「バカバカちょっとそんなに魔力をつぎ込んじゃ駄目だって!マジで!」
「ちょっとした遊びだと思ってくれジンゴ」
「いや無理無理無理、無理だって!」
「死ねーーー!!」
村雨が蛇のように体をくねらせながらジンゴさんに向かって突き進んでいった。




