110話 -守り-
「戦い方を教えるのはいいんだが少々なぁ………」
「なんかあるのか?」
イゴセさんが短髪の白髪頭をガシガシしながら少し困ったような表情を浮かべた。
「ワシらのやってた流派の教えて一番大事なことは受けなんだな。師匠のゲンガンはいろいろと戦いの場面を見てきたうえでそれが一番大事な要素だと思ったんだ。攻撃よりも受けが大事だとな」
「いいじゃないか!」
「いいのか?普通剣をやろうという人間は大人も子供も攻撃を重視した剣術を習いたがるもんだ。だからワシらの道場も最初は全く門下生が集まらんかったんだ」
「全然受け重視でいい。モルンもいいよな?」
「サブレさんいいならいいですけど意外です」
「なにがだ?」
「てっきりサブレさんは攻撃的なのが好きなのかと思っていました」
「モルンは全然俺のことを分かっていないな。俺は慎重派だ」
「そうでしょうか?」
「そうじゃなきゃ特級宮廷魔術師になんてならずに冒険者になってるだろ。自由で金を稼げる男の子なら一度は憧れる職業だ。それと全く反対の職業についているじゃないか、国から給料をもらって働く仕事に」
「なるほど、そう言われてみればその通りです」
「それに俺はゲームでもスポーツでも攻撃ばっかりで守備ができないやつは嫌いなんだ。相手のレベルが上がれば上がるほど攻撃の選手の守備力が重要だと思っている」
「よくわからないけどそうなんですね」
「それにイゴセは冒険者としてCランクまでいった実績があるし、死亡率が高い冒険者でありながらしっかりと生き残ってるんだから信用できる」
「ふーむ、やはり特級宮廷魔術師は普通とは違うな」
「ただ受験には合格してもらわないと困る。できるか?」
「ワシは学校には行かなかったから試験がどういうものなのかはわからないんだが試験というのはどういうものなのだ?」
「それは経験したから分かっている。俺の時は教官と一対一で戦って実力を示せばいいだけだった」
「それならば教えるのに問題はない」
「重要なのは必ずしも勝つ必要はない、ということだ。というか普通共感というのは受験しようという生徒よりも数段上の実力者がやるはずだから、勝てるはずがないというのが正しいか」
「ますますやりやすいな。ある程度以上の実力を持ったものならば戦いというのは攻撃だけではなく防御も重要だというのは分かっているはずだから、しっかりと相手の攻撃を受けることができれば学校の入るのに十分な資格があると判断されるだろう」
「あのぅ………」
「どうしたんだモルン」
「剣じゃなくてナイフなんですけど大丈夫ですかね?」
「ナイフ?まぁいけんことはないがそれで行くつもりか?」
「はい、できれば」
「剣のほうがいいんじゃないか?」
サブレさんが聞いてくれるけどそれはたぶん難しい。
「ノアは多分ほかの武器を使うのを嫌がると思います」
「ああそうか………」
「ノア?」
「このナイフの名前です」
「ああなんだ、名前を付けているのか。ワシの若いころ周りにも結構いたよ。長年一緒にいて命がけの戦いを潜り抜けてきたから、ただの武器とは思えなくなるんだと言っていたな」
「ええ、まぁそうですね………」
「イゴセ、実はこのナイフは魔武器なんだ」
「なんと!?」
言っていいのかどうかわからなくて迷っていたらサブレさんがサクッと言ってしまった。
「黙っていてもすぐにばれるぞ。なんだかとんでもなく変な魔武器だったからな。人を斬りたくないとか言ってただろ、なんだか心配になってきたな大丈夫なんだろうなそいつ」
「ノアはいざというときはちゃんと力になってくれるお思います。それとイゴセさん、もしかしたら黙っていた方がいいのかもしれないと思ったので黙っていました。すいませんでした」
「いやいいんだ。そうだったのか、ふーむ、魔武器はワシも使ったことはない。ただうわさに聞くだけでな。そうか魔武器か………」
「ナイフでもいけるか?」
「もちろんだ。どの流派の道場でも使い方は教えるはずだ、携帯しやすいし狭い場所では使いやすいからな。ただ、受けるというよりは躱す、流す、のほうが比率としては高くなるから人気はあまりないな。普通の子供であればもっと派手な戦い方を求める」
「派手さなんか全くいらない。実用性が第一だ、とにかく試験に合格してくれればいい、まずはそれが一番だ。それにモルンのイメージから言っても守りに向いていると思う。守りの剣、格好いいじゃないか」
「本当にそれでいいのか?」
イゴセさんが僕に聞いてくる。
「よろしくお願いします」
確かに僕も剣術と言えば攻撃のイメージはあったし、小さい頃は勇者様に憧れてはいた。だけどイゴセさんの雰囲気と話している感じをみていると、しっかり言うことを聞いて鍛錬していればきっとちゃんと強くなるんだろうな、というのが分かるので楽しみなくらいだ。
それにサブレさんが言ってるんだから間違いはないだろう。
「よしわかった、任せておけ!」
僕の背中を力強くたたくイゴセさんが頼もしかった。




