109話
「おーいお前らいるかー!?」
玄関の扉が急に勢いよく開いてすらっとした短髪のおじさんが顔を出した。
「誰ですか!?」
「おーどうしたイゴセ」
「お知り合いですか?」
「イゴセだ」
「名前だけ教えれれても分からないんですけど」
「前に話しただろ、俺が買った奴隷だよ」
「奴隷頭のイゴセだ、よろしく頼むぞ」
「はぁ………よろしくお願いします。ってそうじゃなくてどうして急に僕たちの家に?」
しかもノックもしないでいきなりだ。さっきまであんなに喋っていたノアもただのナイフみたいになってるしウミカもびっくりしていつの間にか僕の背中に隠れている。
「そうだぞ、なんかあったのかイゴセ」
「なんかあったじゃないわい!今日は一緒に仕事をする仲間を引き合わせるって話だったじゃないか。そのためにワシはずっと待ってたんだがいつまでたっても来やしないじゃないか。それで痺れを切らしてワシのほうからくることにしたんだ」
「そういうことか、たしかにいろいろやっている間にずいぶん時間は経ってしまったがいつ行くかは言ってなかったと思たが」
「ワシは待つのが一番嫌いなんだ、早く済ませれるものはとっとと早く済ませて終わらせたい」
「せっかちだな。典型的な騎士タイプだ」
「そんなことはいいから早く仕事をさせてくれ」
「ふたりで握手でもしたらどうだ?これから同じ仕事で頑張っていくわけだから」
「仕事?どういうことですか、話がさっぱり見えないんですけど」
「貧民街で炊き出しをする仕事だ、知ってるだろ?」
「それは知ってますけど、僕がその仕事をするんですか?」
「もちろんだ」
「えぇぇ!?聞いてないですよ、どうして僕なんですか。やったことないですよ」
「そんなこと言ったら俺だってやったことはないし、このイゴセだってやったことはないんだぞ。わがまま言うなよモルン」
「えぇ………なんで僕が怒られてるんですか」
「今日からモルンが総責任者なんだからもうちょっとその自覚をもってみんなを引っ張っていくくらいの気合を見せないと誰もついてこないぞ」
「総責任者!?どうしてそんなことになるんですか!」
「俺はもうすぐ特級宮廷魔術師としての仕事が始まるから炊き出しに構っている時間なんかない。そしたらどうすればいいか、答えは簡単だ。誰かに任せればいいんだ。そうなったらモルンしかいないだろう」
「けど僕にも受験があるんですよ!?それにもし合格したら学校もあります。手伝いなら僕もしますから総責任者はサブレさんがやってくださいよ」
「モルンよく考えてみろ」
「なんですか?」
「特級宮廷魔術師の仕事を知っているか?」
「王族の方々をお守りする仕事だと前に教えてもらいました」
「それが分かっていながら何という言葉を吐くんだ!」
「なんで大きい声をだすんですか」
「俺は王族の方々をお守りするのに全神経を集中しなければならない。俺がしくじるってことは王族の方々の命を危険にさらすっていうことなんだぞ。それなのにモルン、お前は俺にほかの仕事をさせて集中させないようにするつもりなのか!」
「まさか、そんなつもりは無いです。そんなつもりはないですけどその言い方はズルくないですか?」
「ズルくない!王族の命と学校とどっちが重要なんだ?」
「それはもちろん命ですけど」
「わかってるじゃないか。それじゃあ総責任者はモルンで決まり、そうだろ?」
「えぇ………」
「俺も暇な時には少しは手伝ってやるから安心しろ。あとリシュリーにはちゃんと頑張ってるアピールをしておけよ。あいつも典型的な騎士だから思ったように事が進まないと暴れだすぞ」
「えぇ………」
「それと試験の戦闘能力試験に向けてイゴセから戦い方を習ってしっかり合格するんだぞ」
「ちょっと待ってくださいサブレさん、僕はこれから勉強をして戦い方を覚えて、仕事までするんですか?」
「大丈夫、お前は賢い子供だから全部できると俺は確信している」
「買いかぶり過ぎですよぉサブレさん、、」
「わかったよそんな情けない声を出すな。合格するまで仕事はイゴセを中心にやってもらう、それならとりあえずやらなきゃいけないことは試験に集中することだけ、それでいいだろ?」
「うぅぅぅぅ………」
「イゴセ、1日に2,3時間くらいだけモルンに稽古をつけてやってくれ」
「そんなもんでいいのか?本格的にやるなら道場に泊まり込んでやるくらいの覚悟は普通なんだがな」
「学校に入学するための試験に合格すればいいんだから、とりあえずはそんなもんでいいだろう。雑用をやらせたりするのに時間を使うのはやめてくれ。とにかく今は試験に合格するというミッションを達成することが重要だ」
「ミッションか、なんだか血が滾ってきた」
「筆記試験の勉強もしなくちゃいけないから剣だけに時間を割くことができないんだ。時間がないのは確かだがモルンは身体強化が使えるから何もないよりは早く強くなれるはずだ。身体強化のトレーニングだけは毎日しているようだしな。それに頭はいいから覚えも早いはずだ、気楽にやってくれればいい」
「なんと身体強化が使えるのか、確かにそれならいけそうだ」
「これで合格間違いなしだ」
稽古ですら僕は一回もしたことがないのにふたりはもうすでに合格した気持ちになっている。
僕は目の前が暗くなっていく様な気がした。




