105話
「出てきたぞ!撃て撃て撃ちまくれーーー!!」
引き金が引かれるよりも早く半円型の土壁が出現して銃弾はすべて跳ね返された。表面にわずかなへこみがあるくらいで土壁は悠然と立ちはだかっている。
「ふぅ………」
「ずいぶんとまどろっこしいことやってるなぁお前は」
溜息をついたサブレの左手から声が発せられた。少しの嘲りを含んだ声。
「なんだホープ、さっきまで黙りこくってたくせに急に喋りだしやがって」
「そりゃあ喋りだしもするさ、いくらレベルが低かろうが闘争は闘争だ。それよりなんだってわざわざこんなもん作ってやがる、まっすぐ突っ込んでいってぶっ殺せばいいだろ」
「無駄なリスクを冒す必要はないだろ、何を言ってんだ」
「お前はこの程度の相手にリスクを感じてるっていうのか?笑っちまうぜ、魔力も扱えないただの人間相手に本気かよお前」
「黙ってろよ勝てばいいんだろ」
「黙ってられるかよ。叩く必要のねぇ石橋を叩きながら一歩ずつ渡ってるやつを見てる方の気持ちを考えてみろよ、イラつくだろ。しかもお前、さっきモルンには偉そうに講釈垂れてたがえらく緊張してるじゃねぇか」
「そんなわけあるか!」
「誤魔化すなよ、俺にははっきり分かるぜ」
「なんだ心でも読めるのか?」
「そんなことできるわけねぇ、ただお前の心臓の鼓動ははっきりと伝わって来るぜ、なにせお前の体にぴったりとくっついてるからな。そして体の硬直もだ。お前自信がねぇんだろ」
「………」
「こういうのは初陣に臨む奴なんかだとよくある現象だ、そういうやつは大抵体がガチガチに固まって周りが一切見えなくなるんだ。つまりお前はほとんど闘争の経験なんかねぇんじゃねえのか?どうだ?さすがにモルンよりは経験があるから取り繕えて入るが根っこは同じ、お前は臆病者だ」
「黙れ」
「ウミカを見てみろ、あいつだって闘争の経験なんかそれほどあるはずねぇ、しかし実に堂々としてるじゃねぇか、ずいぶんと肝っ玉に差があるなぁ。それにしたってお前はやっぱりおかしいな、普通お前くらいの他人よりも強い魔力を持ったやつなら、しかも若い奴ならなおさら調子に乗っているのが普通なんだがな」
「俺は自分を分かっている。最強じゃないなんてことはとっくに知ってる、だからできる範囲内の幸せをつかむんだ」
「若造のくせい異常なほどの達観だな。そしてなんだこの魔力の滞りは、気持ち悪い。まるで魔力を使うことを恐れているみたいじゃねぇか。魔力を拒否しつつ魔力を使っているのかお前は?」
「なにを禅問答みたいなことを言ってやがる」
「ぜんもんどう?なんだそりゃ。いいか?俺にはお前の心音がはっきりと聞こえる。今さっきお前は二度土壁を作ったがその時の心音だってそもそもおかしいんだ。そこには確かに不安さ、があった」
「いちいち俺の心音をきくのは止めろ!」
「魔法を使うのは初めてか?そんなわけねぇよな。それなのに何をビビってやがる、何が不安なんだ。なぜ自分の魔法にそんなに自信が持てない?
」
「無意味な推測をするのはやめろ、戦闘中だぞ。少しは何か協力したらどうだ」
「協力?なぜそんな言葉を吐くんだ?こんな奴らなんでもないはずだろお前なら。意味が分からん奴だな、もしかして俺が何か手助けしてくれるかもしれないと待っているのか?突っ込んでいってぶん殴れば終わりだろう」
「慎重さを持つことの何が悪い」
「俺から言わせれば今この状況ではそんなもん全く不必要だ。これは単に戦闘経験のなさからくる臆病さなのか?わからん、全く分からん。これだから人間ってのは面白いな。外に向けて強い自分を演じて弱さを隠している、しかし実際の強さはある。何なんだお前は?」
「お前の推理を聞くのはもううんざりだ。突っ込むぞ!とっとと終わらせてやる」
「おう!ようやく行く気になったか。さっさと雑魚どもをぶっ殺しに行くぞっと、その前に素敵な言葉を送ってやるよ」
「なんだ」
「いいかよく聞け………まずこういう状況では何があってもパニックにならないことが重要だ。自分の状況を観察してみ極めて何をどうするのが最善なのか考えろ。それが自分が守りたいものを守るために一番重要なことだ。ってな、分かったかこの格好つけ野郎」
「うるせえ!とにかくうるせぇ馬鹿ドクローーー!!」
サブレはただ猛然と魔銃へ向かって突進していった。




