103話 -学べ-
「いけたか?」
王立魔法アカデミーの正門を出てしばらく歩いたところでサブレさんが言った。
「いけたと思います。キュピーンと来るものがありました」
「やったな!」
そう言って僕の背中をポン、と叩いた。サブレさんが言っているのは僕のスキルについてだ。
僕スキルは他の人のスキルを真似して使うことができる、というもの。サブレさんがあの時僕に合図したのは、あの先生のスキルを観察して覚えろ、ということだというのはすぐにわかった。
「けど本当に良かったんですかね勝手に」
僕には少し罪悪感があった。
「お前のスキルはそういうものなんだからしょうがないだろ」
「そうですけど……」
「苦労して作り上げたオリジナル魔法をコピーして好き勝手使わせてもらっていいですか?なんで聞いたところでいいですよ、なんて相手が言うと思うか?」
「思わないです」
「だったら黙って盗るしかないだろう」
「盗るって言い方はなんだか傷つくので他の言い方無いですか?」
「どんな言い方をしようとやることは同じだ。そんなことを思い悩んでないで価値のありそうなものはとりあえず何でもかんでも盗んでおけ。何の役に立つか分からんからな」
「わかりました……」
「あの時約束しただろう、俺のために自分のスキルを使うってな」
「はい。しました」
「だったら俺の役に立ちそうなものは片っ端から盗め、それが俺にとって役に立つことなんだからな」
「そうですね、サブレさんのためですもんね」
「そうだ」
「わかりました」
「ただ………」
「なんですか?」
「他人には言うなよ。盗まれた相手がその魔法を使えなくなるわけじゃないとはいえ、盗まれたと知ったら怒り狂って袋叩きにされるかもしれないんだからな」
「待ってくださいよ、めちゃくちゃ怖いじゃないですか!」
「しょうがないだろ、そういうスキルなんだから」
「そうですけど………」
僕はあの事件をきっかけにスキルを手に入れたけど、それと同時に重い荷物も一緒に手に入れてしまっていたみたいだ。
「モルン」
ウミカが小さくはあるけども緊迫した声を出した。
「?」
「モルン、落ち着いて聞くんだ」
「なんでしょう」
自然と僕も小さな声になった。
「どうやら俺たちのことを狙っているやつらがいるらしい」
「え!?」
慌てて自分の口を塞いだけど、驚いて出た声には到底間に合わなかった。
「サブレだな」
髪の毛を立てぎょろっとした目の薄汚れた格好をした男がずかずかと歩いてきて言った。
「時代遅れの魔術師がデカい顔してんのがおらぁ気に食わねんだよ。特にお前見てぇなクソガキは特にだ。何の苦労も知らねぇで親の金でぬくぬく生きやがて」
お酒の匂い。
「聞いてんのかテメェ!」
大人の男の怒鳴り声に僕の体はぎゅっと固まった。
「なんかいったらどうだこの野郎!」
怖い。
「大丈夫、大丈夫よモルン」
背中に触れる感触とウミカの声。そうだ僕は兄なんだ、怖がって震えている場合なんかじゃない。ウミカを守らないと、サブレさんのために動かないといけないんだ。
深呼吸して落ち着くんだ、僕にはやらなきゃならないことがあるんだ。
「テメェら魔術師なんか時代遅れなんだよ」
そう言って男は懐から取り出したものをサブレさんに向けた。
「今は魔法の時代なんかじゃねぇ!そんなもん無くたってなぁ殺すのなんか簡単なんだよ、体中に穴だらけにしてやるぜ!」
魔銃。
男の後ろからぞろぞろとガラの悪い男たちが集まってくるのが見える。
「さっきから黙りやがってテメェ!なんか言いやがれ!」
「そんなもので………」
「なんだって!?」
「そんなものを持ったくらいで強くなったつもりでいるのか?」
「んだとテメェ!」
「強いのはお前じゃなくて魔銃だろ。魔銃さえ持てば誰でも強くなるならすごいのは魔銃。最近大量生産化に成功して安く市場に出回っているからちょっと頑張れば誰でも買える。それなのにそんなものを持ったからって強くなった気でいるなんて救いようのない馬鹿だな」
それまで黙っていたのが嘘みたいに、淀みなく言い切った。
今この空間を支配しているのはサブレさんだ。さっきまでの日常の空間から切り離されて急に生ぬるい水の中に入ってしまったかのような圧力を感じる。
「モルン」
「は、はい!」
「覚えておけ。これからお前が多少強くなったとしても、こいつみたいに絶対に調子に乗るな。世の中、上には上がいてそいつらに比べれば自分なんか大したことがないと思っておかないといずれ身を亡ぼすことになるんだ。こいつのことをよく見ておけ。何の防具も身に着けず、何も考えず、自分が強いと思い込んで俺の前に立つ愚かさを。よく見て学べ、間違っても俺最強、俺TUEEEなんて勘違いするなよ」
「はい……」
僕に教えてくれようとしている。どうして今この場面で?そう思っていたら、サブレさんの右手がすぅっと上まであがっていって顔の高さ位で止まった。
「安物の人造魔銃なんてものは本物の魔術師の前では玩具同然。それだけは教えといてやるよ」
脂汗を流しながら表情の固まった男。サブレさんの放つ雰囲気に威圧され動けなくなっているのが分かる。
ざんっ。
瞬きひとつよりも短い時間。
人差し指からまっすぐに伸びた指の延長みたいな細長いものが、男の眼球を通って後頭部を超えた鋭い先端が飛び出していた。
「じゅぼぼぼぼぼぼ………」
男の体が支えを失った人形のように崩れ落ち、地面の上で痙攣した。




