101話
「サブレさん、メガネとナイフも見てもらいますか?」
「しっ、静かに」
「え?」
魔道具を切断するための装置を先生が片付けている間に、僕はサブレさんのあの時一緒に買ったほかのもの鑑定というか、どういった効果を持つ魔道具なのか聞いた方がいいんじゃないかと思って聞いてみたんだけどどうやら違ったみたいだった。
「えーなになにー何の話ぃ?」
「いえ、なんでも………」
「えーなんか言ってたよね、私には言えない話?」
「これ以上先生のお時間を取らせてしまうのも申し訳ないので」
「いいよいいよそんなの気にしないで言ってよ。むしろいま教えてくれない方がモヤモヤしちゃうよ。ねぇほら言ってごらん、悪いようにはしないから」
「それじゃあ………この指輪を買った店で他にも2つ魔道具を買っていたんですが、鑑定士にはすぐには分からないと言われてしまいまして」
「あーなんだそういうこと?それなら別に隠すことなかったのに。「セイレーンの声」はそんなに負荷の大きいスキルじゃないから調べてあげるよ」
「本当ですか、ありがとうございます」
「なに?私に頼んだらまた何か対価を要求されると思った?」
「あの………じつはその通りです」
「今度はちゃんと正直に言えたね、えらいえらい」
「ありがとうございます」
サブレさんがはにかんだ。
「そのふたつの分は無料にしてあげるから安心して」
「いいんですか?」
「なんか気になるんだよね。その指輪、ホープを売るような店がほかにどんなものを仕入れているのか。ドキドキしちゃう、なんかすっごいのだったりして」
「そんなに期待されても困るんですが」
「いいよいいよ気にしないで。別に普通のやつだっていいからさ、私にとっては今日ホープを見れたでかなりの収穫なんだから」
「そうなんですか?」
「いやほんっとにすごいよ。あんなにおしゃべりな魔道具を見たのは生まれて初めてだよ。ホープがサブレを選んだのは私にはよくわかるよ、サブレって変なんだよね、いい意味で」
「あんまりうれしくないんですけど」
「いいからいいから、見せて見せて」
「それじゃあ………」
僕とウミカはサブレさんにナイフと眼鏡を手渡した。
「ナイフのほうはよくあるけど、眼鏡?魔道具としては珍しいよ。私は鑑定士の人が言ってた意味がよくわかるよ」
「そうなんですか?」
「ナイフのほうは数が多い分効果の種類も多いからスキルを持っていないとひとつづつ資料と照らし合わせて確認していかなきゃならないし、眼鏡のほうは今までに出た種類が少ないから過去の資料が少ない。過去に全く同じものが出ていればいいけど、そうじゃなかったら「わからない」という結論になると思う」
「なるほど………そういうものなんですね」
「それじゃあどっちでもいいから見せてみて」
「それじゃあ僕のナイフから」
僕はポケットに入れていた抜き身のままのナイフを取り出してテーブルの上に置いた。
「お願いします」
「ああそうでした先生、路地裏のあやしい老婆から買ったものなので鞘もなかったんですよ」
「そういうこと。ちょっと驚いたな」
「先生お願いします」
「うんそれじゃあいくよ」
透明な丸い石に手をかざした。
「さあ私にその声を聞かせておくれ、あなたという存在が何をもたらすのか、何を目的として存在しているのか聞かせておくれ」
先生を中心として黒い煙が湧き上がってきた。
「汝の声を聞かせよ」
石が柔らかな紫色の光を蓄える。
「セイレーンの声」
一筋の薄紫色の光がまっすぐに伸びて僕のナイフへと注がれた。
「あれ!?」
光が弾かれた。
「あぁ………こうなっちゃったか」
「どういうことですか先生」
サブレさんの指輪の時には光が中に入っていくような感じに見えたのに。
「実は私のスキル「セイレーンの声」はすべての魔道具の声を聞けるというわけではないんだ、残念だけどね」
「そうなんですか」
「いままでに何百、何千という数の魔道具に対してスキルを使ってみた経験から言うと、価値の高い魔道具ほどこういう反応を示すんだ。私はそれがたまらないほど悔しいよ。もっと魔道具の声を聞きたいのに、そのためのスキルなのに、声を聞かせてほしい魔道具ほど声を聞かせてくれないんだ」
終始明るかった表情に影が差す。
「スキルは訓練によって向上するものと、しないものがあると聞きますが先生のスキルは……」
「向上しない方だと思う。毎日暇さえあればこのスキルを使っているんだけど、今のところ全く何の変化もない。できない物はいつまでもできないままなんだ」
「そうですか」
「けど諦めないよ。今日は素晴らしい発見があったからね」
「それって」
「ホープのことだよ。あんな風に流暢にいろいろなことを喋ってくれる魔道具があるなんて知らなかった。魔道具にはいまだ謎に包まれていることが多い、けどそれを魔道具自身から聞くことで解明できるかもしれないんだ。本当は私のものになってほしかったけど残念ながらホープにその気は無さそうだったね。だったら自分自身で見つけるまでだよ。あった、ということが重要だよ、それなら同じような魔道具がほかにもあるかもしれないんだ」
「確かにそうですね」
「今日は希望の光が見えた日だよ」
笑顔の先生は男の人なら誰もが好きになってしまうだろうな、と思ってしまうくらい魅力的だった。




