73てぇてぇ『海外ってぇ、陰キャも普通にいるんだってぇ』
Vtuberの配信の放送作家っていう仕事ないかなあと思う今日この頃……
『ハジメマシテ! ヨロシクお願いしマース!』
リモート面接で会ったヤミは、変わらず凄い明るくて、テンションが高かった。
『(英語)喋るの大好き! 兄さんにいっつも怒られるの、マシンガンだってお前より静かだよって、だから、兄さんに比べたこともないのにそんな事言わないで、そんな事言うなら黙ってって! そしたら、兄さん黙ったから、言葉のマシンガン浴びせてやったわ! ファミリーファイアって感じで! アハハハ! あ、歌うのも勿論好きよ! これは兄さんのお陰! 日本のアニソン大好き! ア~♪ ア~♪ この歌知ってる? すっごい良い歌よね! アニメ見ながら泣いちゃったもの! ゲーム好き! うまくはないけど、オンラインでおしゃべりしながらワイワイやるのは大好き! この間も、ついつい盛り上がっちゃって、ねえ、誰々、そこのコーラ取ってって言っちゃったわ。画面の向こうの友達に!』
自分でマシンガンというくらいの圧倒的な喋り、そして、触り程度ながら上手さを感じさせる日本語歌詞の歌、ゲームをどれだけ楽しんでいるか、色んな話をしてくれた。
「(英語)ちなみに、嫌いなものはありますか?」
『(英語)そうね……嫌いではないけど、自分の才能が、時々怖いわ……』
「(英語)ありがとうございましたー」
『チョット! チョットチョット!』
俺の質問にも日本の芸人で返してくる反応の良さ。
ヤミは、満場一致で採用だった。
そして、対照的に、意見が分かれたのは、メイだった。
『(英語)よ、よ、ろしく、おねが……ます……』
蚊の鳴くような声で挨拶をしてきた彼女は、リモートで彼女だけの画面にも関わらず、彼女は端っこに映っていた。
「(英語)社長の黒川です。もう少し音量を上げられますか」
『(英語)はひっ! 音量音量、上げます……ご注意ください』
最大でも大丈夫な位だと思うけど……とみんな思っていたことだろう。
『(英語)音量あげ……した』
「いや、自分の声量落とすんかい!」
まさかの社長がツッコんでいた。気持ちは分かる。
『(英語)ひ、ひぃいいい! な、なんですか!? 怒ってますか!?』
日本語でツッコまれた恐怖か、今度は大音量で悲鳴が聞こえ、全員の鼓膜が襲われた。
『(英語)音量下げまぁあああす!』
「ストップ!」
思わず、俺は声を出してしまっていた。
画面の向こうでは完全に止まっているメイ。
「あー、えーと、(英語)呼吸は止めなくていいですからね。はい、深呼吸~。それにしても、あなたは芸人さんか何かかな? 喜劇の基本を突いてくる」
『(英語)げ、芸人ではないです。Vtuberになりたいです』
「(英語)うんうん、なるほど。あ、今、良い感じの声が出ていますよ。その位の声だとVtuberになれた時、丁度いいと思います」
『(英語)は、はい』
「ルイジくん、ありがとう」
社長がぼそりと耳元で言ってくる。
それを見ていたメイに対し、俺は笑って言ってあげる。
「(英語)今、社長が俺に耳打ちしたのは、貴女がリラックスできてよかった。いい仕事したわね。結婚しましょうと言っただけです」
「ノー!」
社長が珍しい二回目のツッコミ。この人、こっちでもいけるんじゃないだろうか。
『(英語)え? 二人は結婚するんですか?』
「ノー!」
「プロバブリー」
「ノー!」
画面の向こうにこちら側に、社長のツッコミが止まらない。場が笑いに包まれる。
そんな雰囲気の中、すかさず社長の耳元で囁く。
「こういう子は、否定的な言葉を聞くと途端に委縮しますし、こうしなさいと言われるとテンパりだしますから、誘導した方が彼女の良さは引き出せます」
「……! 本当に、君は……」
ちょっと呆れたように吐いた社長のため息が耳に触れてぞくっとする。
あと、この人すごい良い匂いがするな。
その様子を不安そうに見てくる画面の向こうの彼女。
『(英語)あ、あの……私、また何か!?』
「(英語)大丈夫よ、彼が今私の耳元で言ったのは……結婚してもいいけど、嫁は野球チーム作れるくらい欲しいって」
「ノー! (英語)子供じゃなくて、嫁が9人って、とんだハーレム系主人公じゃないですか!」
俺と社長の漫才で、メイも笑ってくれた。
そこからも、ボリューム装置ぶっこわれてんのってくらい、上げ下げが激しい声量だったけど、一生懸命メイは話してくれた。自分が何故Vtuberを目指したのか、どうなりたいか、何をしたいか。
だけど、
『(英語)あの……その……です』
どうしても、聞き取れない時があり、その度に聞き返し、何度も謝り、面接の空気としては微妙なまま終わってしまった。
「彼女は、どうでしょうか……厳しい世界ですし、耐えられないのでは……」
「聞こえないっていうのは、難しいですよね」
「ゲームは凄くて、ゲーム動画もある程度人気ですが、いかんせん無言でやってるだけなので……」
印象も微妙。まあ、事務所所属、しかも、勢いのあるワルプルギスに所属することになれば、それだけで目の敵にされ、厳しい目で見られることだってある。
心や体を壊して辞めてしまうVtuberだっている。
「ルイジくんは、どう思う?」
社長が俺に聞いてくる。
「私は……」
そして、その後の長時間の会議で、彼女がワルプルギス海外支部に所属することが決定した。
だけど、彼女の引っ込み思案でコミュ障っぷりはとてつもないらしく、さなぎちゃんよりも厳しいと聞かされた。
しかも、こっちの人間が直接やり取りしても、言語や考えの違いが。
向こうの事務所、マネージャーに任せれば、若干の齟齬が生じ、うまくコミュニケーションがとれていないらしい。
「というわけで、ルイジ君の出番よ」
「何が、というわけですか?」
社長に呼び出されたと思ったら、いきなりのご指名だった。
「メイちゃん、あ、Vtuberとしての名前ね。彼女がうまく配信できるようにちょっとコミュニケーションとってみてほしいのよ」
「はあ……まあ、やりますけど。じゃあ、条件があります」
「なに? もしかして、身体で払えとか」
「違います」
この人、本気で俺と漫才とか始めるつもりじゃなかろうか。
気付いたら、M―〇エントリーされてたらどうしよう。
流石に、そんなレベルではないぞ。
あ、いつかVtuber漫才コンテストとか始まりそうだな。
Vtuber漫才はあるしな。
じゃなくて、
「日本語教室をさせてください」
そして、色んな準備が整い、
「(英語)どうも、こんばんは。今日から貴方達に日本語を教える。天堂累児といいます(日本語)宜しくお願いします」
『ヨロシクオネガイシマース! ヤミで-す!』
『ヨ、ヨロ……ッス、メ……ッス』
『(英語)メイ、声小さいよ! 元気出していこう!』
『……』
画面の向こうにはヤミとメイがいた。
「(英語)ちょっとうまくないけど、ある程度の英語は喋れます。俺はVtuber好きで、海外Vtuberのトークを聞きたかったので」
『(英語)おおー、すごーい』
『……』
ヤミは相変わらずのハイテンション。だけど、メイは、ほとんど音を発していない。
『(英語)ルイジってさー、最初の面接のときにも居たよねー』
「(英語)ああ、いた」
『(英語)やっぱりー!? 覚えてるよ! なんか、アイのテ? 上手い人がいるなーって。コメントうまそうだよね、ルイジ。ねえ、メイ!?』
『(英語)……』
無言で、小さく頷くメイ。
今日は授業をせずに、二人とコミュニケーションを取りたいと思って、面談にしたんだけど、メイはほとんど喋っていない。『う……』とか『あ……』とか『へへ……』しかほぼ聞こえていない。
「(英語)よーし、じゃあ、折角だから、ちょっとだけ勉強するか。今から二つの絵の描いたカードを出すから、好きな方を指さして答えていってくれ。それを日本語で教える」
そういって、俺は準備したカードを出す。最初は、犬と猫。
『ヤミ、イヌー!』
「(英語)おい、教える前に日本語言ってるぞ。メイは?」
メイは、猫を指さす。
「オッケー、これは、ネコ」
『……コ』
「オッケー」
ほとんど聞こえなかったが、多分言ってた。うん、オッケーオッケー。
そして、次々に色んなカードを出していくが、メイはどれも似たような感じだった。
『(英語)……さい』
「ん?」
『(英語)ごめんなさいごめんなさい! ワタシ、全然出来てないよね! ごめんなさい!』
メイが突然謝りだした。その声は滅茶苦茶大きくて、鼓膜も心も破れそうで。
『(英語)やっぱりだめだ……ワタシ、だめなんだ……怖い、怖いの……!』
「オッケ、メイ、ラストチャレンジ」
俺はそう言って二つのカードを出す。
そのカードには英語で単語が書かれただけだった。
『エ……?』
『(英語)ちょっと、ルイジ……これって』
「(英語)あー、わるい。ヤミの答えは後で聞かせてくれ。さあ、メイ、君はどっちだ?」
『(英語)ワタシ、ハ……』
メイは、二つのカードを見比べている。決まっているだろう答えを口にすることを躊躇っている。
「(英語)メイ、覚えてる? 面接で君が言った事を。君がなんで応募したかの理由。君は」
『(英語)わ、わたしは……ヒキコモリで、ニホンのアニメばかり見てて、でも、Vtuber見て、好きで……憧れて、なりたくて……自分を変えたくて、応募しました、ってワタシは、言った』
そう、彼女は面接時、そう言った。
「(英語)そうだね。そして、君は日本語で『ガ、ガンバリマス! ヨロシクオネガイシマス!』って言った。なんで、言ったか。多分だけど、理由があるよね?」
『(英語)か、変わりたかったから……! ちょっとでも変わりたかったから。日本語を言ったら変われるんじゃないかって、思ったから』
メイは震えながら、涙を溢しながら、必死に声を出していた。
「(英語)そして、君はワルプルギスに合格した。君が変われたからだよ。……さて、メイ。君に聞くよ? 君が好きなのはどっち?」
『(英語)……そっち』
「…………うん、これはね日本語では、好きな自分っていうんだ」
『スキナ、ジブン……』
「そう、好きな自分」
『スキナジブン……』
見せたカードは、『好きな自分』と『嫌いな自分』。
普通の人なら、『当たり前じゃん』と好きな自分を指さすだろう。
でも、簡単には出来ない人もいる。
好きな自分を指さすことが怖い人もいる。
「(英語)好きな自分を目指して、失敗するのは怖いよな? でもね、怖いって思えるってことは、もう変わろうとしているってことなんだよ。好きな自分に近づいてるってことなんだ。メイ、ちょっとずつでいい。ちょっとずつでも前に進んで、進んだちょっとを褒めてあげるんだ。……メイ、よく頑張ったね」
『う、うわああああああああああ! うわあああああああああ』
メイは画面の向こうで泣いていた。
色んな感情がごちゃまぜだったんだろう。
恐怖、不安、喜び、怒り、色んなものが彼女の中で溢れたんだろう。
でも、それは間違いなく、変化で。
彼女が頑張った証で。
忘れないで欲しいと思った。
そして、メイが泣き疲れて眠そうになったところで、終えることにした。
「(英語)じゃあ、またスケジュール送るので、次回よろしく」
『(英語)うふ☆ これからめっちゃ楽しみ! よろしくね! ルイジ!』
「(英語)ああ、よろしく。……メイ?」
画面の向こうのメイは震えていた。
『(英語)あ、あの、あれ……ワタシ、なんで、震えて……?』
「(英語)メイ、最後に一つ。【武者震い】ていう言葉が日本語にはあるんだ。サムライがこれから戦うぞって時にテンション上がって震えるんだって」
『ムシャ、ブルイ……』
「(英語)メイも戦ってるんだね」
『……! あ……り……とう』
小さな声だった。それでも届けようと頑張った声だった。
「こちらこそ、ありがとう、メイ」
だから、俺は返してあげる。彼女の小さな、そして、大きな変化を見つけたよって。
そして、俺は信じていた。
彼女はこれから少しずつ少しずつ彼女の閉じかけたドアを開いてくれると。
そう、信じてる。
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