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67てぇてぇ『言葉の壁ってぇ、頑張れば飛び越えられるんだってぇ』



『ふふふ、メイ、カモン!』

『アハハハハハ! マッテ! サナギ!』


二人が楽しそうに追いかけっこをしてる。ゲームの中で。

当初のさなぎちゃんの計画では二回目のコラボでは、FPS系でメイをもっと活躍させて、盛り上げようと考えていた。

だが、メイが提案したのは、サンドボックスゲーム、いわゆる、オープンワールドで自由にゆったり出来るゲームだった。


ただ、メイのゲーム能力や集中力は凄まじいものがあり、メイの建てたサイバーパンク感溢れる城のようなダンジョンは、視聴者とさなぎちゃんを驚かせた。


『チョ! 待って! 待って! 二人とも! ヤミを置いていかないデ! ヤミ、ボッチだよ! かわいそうだヨ!』


前回とは打って変わってハイテンションなメイと、それにつられて盛り上がるさなぎちゃん、前回は橋渡しをしていたヤミは、今回置いてけぼり感がすごい、と思いきや。


『ごめんね、ヤミ。ほら、一緒に行こ?』

『サナギセンパイ~』


こういう所が見えているのがさなぎちゃんの良い所でもある。

今回は、さなぎちゃんがうまく間を取り持っているので、先輩としてのかっこよさも見えている。


『…………ぶう!』


と、そこにちょっとおかんむりなメイがやってきて、二人を攻撃する。


『ちょっと!? メイ?!』

『(英語)メイ、何やってんの、あんた!』

『……サナギセンパイ! メイのトモダチ!』


嫉妬である。

てぇてぇ嫉妬である。

俺は泣いていた。


てぇてぇ。


てぇてぇが過ぎる。


嫉妬がてぇてぇに変わる素晴らしい世界がそこにあった。


そして、


『(英語)なにぃ? 嫉妬してるのあんた? 残念でした。さなぎ先輩は、ヤミの事心配するくらいヤミの事好きだから!』

『(英語)はあ? さなぎ先輩は、やさしいからヤミの心配しただけで、メイのことのほうが好きだもん! 馬鹿なこといってたら、やるよ?』


始まる戦闘。

さなぎちゃんはおろおろ見ている。


〈おいおいバトり始めたぞ〉

〈女の闘い〉

〈そして女を奪い合う戦い〉


『ちょ、ちょっと~、早口で何言ってるかわかんないよ~。なんで? なんで、急に戦い始めたの!?』


さなぎちゃんが鈍感系主人公になっている。

そして、やはり、ゲームの腕は圧倒的にメイの方が上で瀕死に追い込まれるヤミ。


『(英語)ヤミ、一回4んでこい!』

『く……! サナギセンパイ、たすけて~!』

『ええ!?』

『……!』


咄嗟に、さなぎちゃんを盾にするヤミ。

そして、超反応を見せ慌てて攻撃をキャンセルするメイ。


更に、間髪入れずヤミが爆弾を取り出し……さなぎちゃんを巻き込んで自爆した。


『(英語)はあああああ!? なんで、ねえ、ヤミ!?』


驚くメイに、4んでキャラが画面から消え、リスポーン地点に戻り声だけのヤミが笑っている。


『(英語)はっはっはー! さなぎ先輩はあたしが貰った。バイバ~イ、メイ!』

『(英語)アイツ……! 絶対56す!』


楽しそうで何より。

この日のコラボは、さなぎちゃんを連れ回し逃げ回るヤミと、超絶テクで追い詰め続けるもののヤミの話術にしてやられ最終的に泣いて謝るメイ、そして、二人のパワフルさに振り回されつつも、最後にはちゃんと先輩らしく『仲良くなさい』と怒るさなぎちゃんの配信で盛り上がった。


「……ふう、盛り上がったなあ。楽しかった、よねえ、姉さん?」


俺の部屋には姉さんがいる。

手を握っている。


「そうね……もっと配信してくれればいいのに」


ちょっと頬を染めながら俺の手をぐにぐに握りながら幸せそうに笑う。

前回、さなぎちゃんと手を繋いでいた件がばれ、何故か姉さんと手を繋がなければならなくなった。何故? 何故と言えば……。


「姉さん、なんで俺とさなぎちゃんが手を繋いでいたことを知って……」

「そろそろ時間ね、行くわ」


姉さんはもうすでに離れ、部屋を出ようとしていた。

俺の思考が読まれている。っていうか、本当に姉さんは弟離れ出来るのか?


「累児。そっちはよろしくね」


姉さんは、艶やかな黒髪をふわりと浮かばせ俺の方に振り返る。

その表情は優し気で、どきっとさせられるものがあって……。


「分かってるよ。姉さんこそ、よろしく」


部屋のドアが閉まる。

俺は、『もういいか?』のメッセージが届いているのを確認し、返信する。

通話は直ぐに繋がり、そばかすが可愛らしい、瓶底眼鏡の、ふわふわオレンジ髪の女の子が画面に映る。


『きょ、きょうも、よろしくおねがい、シマス』

『よろしく、メイ』


メイ本人の顔を見ながら、俺はいつもの練習を始める。


『やっほ! ルイジ! 今日もヨロシクね!』


そこに、ヤミの声が聞こえ、別画面で、金髪のグラマラス美女が現れる。


『ヤミ……お前も、今日も受けるのか?』

『モロチ…モチロン!』

『お前、今のわざとじゃないだろうなあ』

『エ? なんのコト?』


悪戯っぽい笑みを浮かべるヤミを見ながら俺は溜息を吐く。


『居ていいけど、メイの邪魔はするなよ?』

『しないしない! アタシもちゃんと勉強する気、あるヨ! ルイジと遊ぶのは後』

『後ならしていいってわけじゃねーんだワ!』


ヤミは、難しい言葉さえ使わなければ普通に会話が出来る。

だけど、何かとこうやって絡んでくる。


『寂しがり屋め』

『ハ、ハ、ハアアア!? 全然さみしくなんてネーシ!』


ヤミはこういうところがある。

ツノさんとかもそうだけど、明るくて周り見えてる感じの人って結構裏でヘラっていることが多い。見えすぎて考えすぎるんだろうなあと思う。


『じゃあ、メイ。基本会話からやっていこうか』

『ハイ』


そう、何をやっているかというと、俺はメイと日本語教室を定期的に行っている。

メイが、日本語が苦手という事もあり、練習相手に選ばれたのが、俺だ。

正直、最初はビックリした。

確かに、俺は、ワルプルギスの相談役になり、海外組の面接も手伝った。

だけど、俺の英語力はそこまでではない。専門の人は勿論、そーだやマリネにも劣る。

けれど、社長からお願いされた。


『ああいう魂の子は、絶対ルイジ君が適任だから。ね? お願い』


そう言われ引き受けた。まあ、Vの為になるなら全然かまわない。

最初はほんと~~~~~~~~っに、苦労した。


まず、日本語会話どころか、会話からのスタートだった。

ここまでよくやれるようになったと思う。


『いや、マジ、ルイジすごいヨ! こんなメイがフレンドリーになると思わなかった』

『まあ、話をすれば、いい意味で普通の女の子だよ』

『ダカラ、その話をするっていうか、し続けられるのが凄いんダッテ』


Vtuberとしての配信を見て、その上で本人の声を聞けば、何が話したいかなんてなんとなく想像つくからそれに合わせて話をしてるだけなんだけどな……。

ちなみに、何故素顔で対話してるかというと、Vtuberの方で話しかけられると俺がもたないからだ。時々、ヤミがVtuberの姿でやってきて、俺を照れさせてくるので困る。

まあ、ともかく、二人との出会いから仲良くなるまでも、大変というか、色々あった。


そんな事を考えてると、メイがじいっとこっちを見ていた。


『ああ、ごめん、メイ。続きやろうな』

『ハイ、デモ、あの……』

『ん? どした?』

『いえ、なんでもナイです……』

『おっけ、じゃあ、英語でもいいから、んで、なんでもいい話でいいから、話して。俺が聞きたい』

『はい、ソーユートコー☆』


ヤミが五月蠅い。

メイは、ちょっと戸惑いながらもはにかんで、ぼそぼそと話してくれる。


『(英語)あの、さなぎ先輩とのコラボ、次が最後じゃないですか? あの、何かお礼が出来ないかなって』

『(英語)それいいね! メイ!』

『(英語)で、その、何がいいかなって……ルイジさん、なら、分かるかなって』


メイは俺の方をじっと見ながら聞いてくる。

なんで、俺がそこまで評価されているのか分からない。

俺だって、神様じゃない。全て分かるわけじゃない。

俺が思うのはなんとなくこう考えてるのかな程度だ。

でも、てぇてぇ。

てぇてぇなら、力になるのが俺だろう!


俺は、小さく頷くと、メイに聞いてみた。


『(英語)メイは、さなぎのどんなところが好き?』

『(英語)さなぎの声が好き。こもっている思いが、魂がすき』

『(英語)そういえば、さなぎの歌がすきってこの前教えてくれたよね? 歌詞って分かるの?』


以前やった授業で、『わたしの好きなもの』をテーマに作文して発表してもらった。

メイは自分の好きをちゃんと伝える為に、一生懸命言葉を勉強していた。

あの時程好きって気持ちは本当にすげえなあと思ったことはない。

その時に言っていたのがさなぎちゃんだった。


『(英語)歌詞は、その時分からなかったわ。でも、あとで、サナギの歌った歌の歌詞を翻訳して驚いたわ。ほとんどわたしに伝わってた。彼女の声は魔法のように、国を越えて伝える力があったの』

『(英語)君は、そうなりたいと思っているんだろ?』

『あ……』

『(英語)言葉は大事だ。情報を伝える為には正しく使えるようにならないといけない。でも、思いを伝える時には、ただの飾りだよ。ラッピングもデコレーションも大切だけど、もっと大切なものをキミはもう知ってるでしょ?』

『(英語)……ありがとう、ルイジセンセイ!』


メイはやる気に満ちた顔をしていた。

ほんと、好きって偉大だなあ。


『ン~、やっぱルイジ素敵だわ。出会った時からずっと! チュッチュ』

『はーい、ライン越えする生徒は退場してください~』

『ああ! ワルイ! ワルイジになってるヨ!』


その様子をメイがなんとなく理解できたのか笑っていた。

遠くから走ってくる音が聞こえるし、ドアをノックっていうか、殴ってる音が聞こえるし、『ちょっと、うてめ様なにやってるんですか』ってさなぎちゃんの声が聞こえるが気にしない。


『エ!? ルイジ、何今の?』

『ああ、雷だね。神の怒りが落ちたみたい。気にしなくていいよ』


あの女神が持っている方の機械を回収した方が早そうだ。

俺はそんな事を考えながら、授業を再開した。



時間は過ぎ、最後のコラボ。

最後は、視聴者からの質問に答えながらのフリートークだった。

メイもさなぎちゃんもたどたどしいながらも、成長した日本語と英語で答えていく。

ほんと何度も確信する。好きって凄い。こんな風に人を成長させるんだから。


『えーと、じゃあ、そろそろフィニッシュ、だから』


さなぎちゃんがそう言うと、メイはあからさまに寂しそうな顔をする。

けれど、直ぐに、顔を上げ、


『サナギ、せんぱい、ちょっと、いいですカ?』

『え? なに? メイ?』

『ウタイマス』

『え?』


唐突に始まるメイの歌。

今日はメイとヤミは同じ場所で配信しているらしく、二人でハーモニーを響かせながら、歌っていく。


― ♪わたしの小さなはばたきが誰かを変えることが出来るのなら ―


― ♪小さくて弱い羽根だけど何度だって、羽ばたくの ―


『これって、さなぎの……』


そう、さなぎちゃんの最新曲『バタフライエフェクト』。

それを二人は日本語で歌っている。


これも俺の日本語教室では割と定番で行っていた。

歌は、会話じゃない分正確な発音から遠ざかることもあるが、ニュアンスを掴んだり、リズムを感じることが出来、何より日常会話よりもコピーしやすいので、彼女の入り口には丁度良かった。


そして、メイの大好きなさなぎちゃんの曲だ。

めちゃくちゃうまい。それに、


小さくさなぎちゃんが嗚咽を漏らしている。歌の邪魔にならないように堪えながら。


「ちゃんと届いてるよ。メイ、ヤミ」


感謝の思いを込めたその歌は、しっかりとさなぎちゃんに伝わっているようだった。

ゲームも、歌も、本当にすごいと思う。

だって、国の違う人たちさえも繋げてしまうんだから。

そして、そこには間違いなく『好き』って気持ちがあって、繋がって、伝えようとして。

もっともっと伝えたくなって、人はきっと言葉を学ぶのだろう。


メイはもっともっと日本語うまくなる。

だって、こんなにも好きでいっぱいなんだから。


二人が歌い終えると、さなぎちゃんは大号泣し始める。

それを見て、メイが大号泣。ヤミは苦笑しながら、メイを慰めていた。


『サナギ、センパイ、ダイスキ、ダイスキです……!』

『うん、うん、メイちゃん、ヤミちゃん、伝わったよ。ありがと……すん。だから、わたしも、気持ち伝えるね』


そして、さなぎちゃんは今では配信で恒例となったアカペラを始める。


『コレ……』

『(英語)凄い……!』


歌うのは先程二人が歌った『バタフライエフェクト』。ただし、英語バージョン。


二人に何か送りたいという事でさなぎちゃんが俺との話し合いでたどり着いたのが、英語バージョンでの歌だった。

英語も歌もうまい姉さんを中心に、そーだやマリネ、ワルハウスのメンバーも加わって、指導を毎日受けていた。

そこには海外組への思いが溢れていた。


歌い終わった時、メイはやっぱり大号泣して、ヤミまで大号泣で、三人のコラボは大洪水で始まり、大洪水で終わってしまった。

そこに送られるコメントの大洪水は、様々な国の言葉で送られ、俺達はみんなVという絆で繋がっていた。

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。

よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。


そして、短編アップしました。コンテスト用ですが、結構お気に入りの短いコメディです!

よければ!

『すみません! ヒロイン間違えました!』

https://ncode.syosetu.com/n5450hx/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 好きが溢れていた。てぇてぇ。 [一言] メイの不器用さとミヤ活発は、さなぎとツノににてますね。 海外組の好きの思いが、歌に溢れ、さなぎのワルハウスの好きを届けようとする思いがまた、溢れ、大…
[一言] 気取ったコメントとかも勿論必要だろうけど、 この想いはチャット欄にただ一言打ち込むだけで良い しゅき… 訓練されたリスナーの戯言でしたw
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