59てぇてぇ『てぇてぇってぇ、傷つけたくねえんだってぇ』
えーと、すみません。いつもの倍以上の量になりました汗
【登場人物紹介】
天堂累児。
物語主人公。Vtuber狂いでVtuber事務所に就職したが追放されたが、姉に拾われる。
天堂真莉愛。
累児の姉。【ワルプルギス】所属のVtuber、高松うてめ。元声優志望のブラコン黒髪ロング美女。
山階。
ワイドショーでうてめとウテウト(累児)を叩いたタレント。
神野ツノ。
【ワルプルギス】所属のVtuber。うてめと同期で、同期の中でトップだった。紫ロングの色白さん。万能型ワードセンス神系。
尾根マリネ
【ワルプルギス】所属の新人Vtuber。
元【フロンタニクス】の看板Vtuber引田ピカタ。フロンタニクス時代、累児の部屋に通っていた。
塩ノエ。
【ワルプルギス】所属のVtuber。黄色髪ショートの生意気ヤンチャお嬢様系。
十川さなぎ
【ワルプルギス】所属の新人Vtuber。うてめに憧れる。唯一無二の澄み切った歌声。
加賀ガガ
【フロンタニクス】から転生(移籍)してきた新人Vtuber。ワルガキムーブが得意。
楚々原そーだ
元【フロンタニクス】所属だったが【ワルプルギス】に移籍。
清楚と妖艶を併せ持つVtuberに。演技系とバイリンガルを生かした英語系の案件が多い。
累児に命を救われ異常に感謝している。
【山階視点】
「おーす」
「「「おはようございます」」」
「おはようございます、山階さん」
「山階さん、今日もよろしくお願いします」
局内を歩いていくと誰もが、びくつきながら俺に向かって挨拶をしてくる。
ヤバ階。
そう呼ばれていることを俺は知っている。
俺に睨まれたらヤバい事を言われると皆怯えている。
実にいい気分だ。
元々俺は、俳優だった。
俳優でそこそこ。同期で売れていく奴らを散々見送っていた。
タレントに転身して過激な発言でハネて、ワイドショーの司会に抜擢された。
俺にとってこの仕事は天職だった。
人の嫌がるところを見つけて、ついていく。
そして、負の感情を視聴者から引き出し、とにかく盛り上げさせる。
善悪なんて関係ない。言論の自由だ。何が悪い。
俺を抜いていった同期の俳優やタレント達も散々叩かせてもらった。稼がせてもらった。
そもそも叩くヤツだって、ただ叩きたいだけだ。なんの信念もなく、ただ、正義の味方面して、自分が正しい側であると信じ込みたいだけだ。
大体、正義ってのは多数派にあるんだぞ。
大衆は、人の失敗や傷が大好きだ。それをうまそうに舐め回す。しゃぶりつくす。
しゃぶりつくしたあとに、もっとないのと聞いてくるのだ。
だから、ゴシップ雑誌もワイドショーも続いているんだ。
人の性ってのは、元々悪なんだ。
おっと、悪の塊みたいなのが歩いてくる。
「山階~、今日もいっぱい燃料投下してくれよ~」
俺の番組を担当しているプロデューサーが嬉しそうにやってくる。
コイツはクソだ。人の嫌がることを見つける天才。
だからこそ、素晴らしい。
「まかせてくださいよ、ぶーぶー騒ぐガキ共やら気持ち悪いオタク君達を盛り上げて見せますよ。しかも、運の良い事に今日祝日の金曜ですからね。ハネますよ、これ」
今、ウチの番組では絶賛Vtuber攻撃週間に入っていた。
Vtuberファンっていう男が起こした性犯罪。
これに俺とプロデューサーは目を付けた。
これは、燃えると。
火が付けば火事になる。
火事になれば、人々が注目する。
大火事になればなるほど人が集まってくる。
何をするかって?
もっと燃やそうとしてくる。
もっと過激で刺激的な画が欲しいから、もっと燃やしてそれをカメラで収めようとする。
火事なんて事故なのに、誰も手を差し伸べない。
可哀そうとか思わない。
ただただ、対岸の火事を、おもしれーって見てるだけだ。
もしくは、火事になった原因を探してその原因を作ったヤツをボコそうとする。
火事なんて本当はみんなどうでもいい。
ただ、自分のストレスを解消する理由が欲しいだけだ。
その火種を見つけた時の喜びは何物にも代えがたい。
Vtuberはガキ共や金を落とすオタクの間で流行っている。
火を付ければすぐに騒ぎ出す。
そして、大火事になる。
勿論、苦情だってくる。上等だ。こっちだって、それを望んでいる。
そうして、どんどんどんどん色んな感情を巻き込んで大騒ぎになればなるほど、人々の注目は集まる。金が集まる。それが俺達のカシコイやり方だ。
Vtuberはよく燃えた。
燃えやすいモノをいっぱい持っていてくれた。
「そういえば、昨日の夜。なんか、噂の気色わりい弟がとうとう出てきたらしいですね」
「あー、そーそー。らしいぜ。なんか、他のVtuberの身体借りてまで出てきたんだってよ」
「必死っすね」
ウケる。どうせ僕は何もやってませーん、アイツらクソでーすとか言ってんだろうな。
それがまた俺達の飯のタネになるとも知らずに。
「おい! あの弟の動画切り抜けてるのか!?」
プロデューサーがスタッフを怒鳴りつける。
すると、若そうなADがやってきて駄目そうな顔を見せる。
「あ、あのー、それが、一応作ったんですけど……」
「けどお!? なんだ、けどなんていらねえんだよ!」
「いや、あの、それまだ続いてて……」
「「は?」」
俺とプロデューサーの声が重なる。まだやってる?
昨日の夜から昼過ぎまでずっと? 馬鹿だな、本物の。
「しかも、あの、どこ切り抜けばいいか分かんなくて……」
「どこってお前散々やってきてんだろうが! とにかく、叩きやすそうなところを、いや、叩きやすくなくてもいいから叩きやすく加工してもってくりゃいいんだよ!」
「あの……ないんです」
「「はあ?」」
クソADが馬鹿みたいな事を言ってくる。
「ないってなんだあ!?」
「だって、その、放送……ずっと、色んなVtuberを褒めてるだけなんです……」
「「はああ!?」」
*********
【天堂累児視点】
〈狂気やな……〉
〈狂ってやがるぜ〉
〈もう九時間なんだが〉
〈間違いなく緑ニキではある〉
〈Vtuberこれだけ知ってる人間だもんな〉
〈緑ニキ人間じゃない説〉
〈ヤバすぎる〉
『……まあ、そういうわけで、てぇてぇわけです』
俺はるぅしーどのコラボ配信の中で、耐久配信を行っていた。
最大で16時間の予定。
9時間が経った。8時間枠×2の第二部が一時間経ったところだ。
『なるほどお! てぇてぇですねー!』
しーどちゃんが泣きながら同意してくれている。
るぅとしーどは交代で俺の話の聞き役になっている。
身体を貸してくれたおろし〇さんも寝ている。
『じゃあ、引き続きハッシュタグ私のてぇてぇVtuberから紹介されたVtuberのてぇてぇ話をしたいと思いまーす』
俺がやっているのは、あのワイドショーや司会者へのアンチ攻撃でもなければ、誤解を解くための説明でもなかった。ただただ、てぇてぇVtuberの話をしていた。
俺はワルプルギスのVtuberのてぇてぇ話を5分し、そして、ツブヤイッターで募集したてぇてぇVtuberを5分、交互に紹介していくという企画を行っていた。
もうかれこれ54人の話をしている。まだいくらでも話せる。
勿論、コメントでは俺をすげえ叩こうとする人や説明しろとか言う人たちもいたが、結構な数が三時間くらい俺がてぇてぇ話だけし続けたら消えた。
だが、視聴者数は減るどころか増え続けている。祝日の金曜という事もあり、朝になってから見ようと来てくれた人たちや、興味本位の人たち、噂を聞いてやってきた人たちも流れ込んできている。
ちなみに、昨日からこの配信はずっと何かしらのワードでトレンドに上がり続けている。
理由は色々あるだろう。
まず、今話題のVtuber事務所のトップの弟、ウテウトらしき人物が他のVtuberの身体を借りに来て話始め、しかも、姉がそれを公式に認めたことで本物かどうかの検証も含め盛り上がっている事。
次に、大量の切り抜き動画が出回っている事。
それは、俺が切り抜き師、緑ニキであることが重要だった。
俺は使えるだけのツテを使って出来るだけ多くの良心的な切り抜き師と連絡を取り合い、今回のこの配信の切り抜きを作ってくれないかと頼んだ。
緑ニキはVtuber切り抜き動画界隈では評判の人物だった。
切り抜きは、Vtuberの魅力を伝える一つのツールだから、俺はVtuberを知ってもらう為に作り続けていたらいつの間にか憧れの切り抜き師になっていた。
切り抜き師にも憧れがある時代だ。それだけ配信者が盛り上がっているからだろう。
ともかく、緑ニキの頼みとあらばと参戦してくれる切り抜き師達が、大量にこの配信の切り抜きを作ってくれている。海外にも翻訳して流してくれている人もいた。
そして、それを良心的な視聴者たちが広めていってくれている。
勿論、ただただ面白がって広げる人もいるだろうが、それはそれで好都合だ。
とにかく、今、世界中に、【私のてぇてぇVtuber】の話が広がっている。
極めつけは、その動画を見つけたVtuber達が自身の配信で喋ってくれている事だろう。
誰かが挙げたVtuberの名前を俺がピックアップし、そのVtuberのてぇてぇポイントを語る。
それは愛でしかない。
そして、それに感動したVtuberは、この配信の話をしてくれる。
時には、そのVtuberが好きなてぇてぇVtuberの話をしてくれている。
そして、また、その視聴者たちが集まり、愛が溢れ、愛が広がり、とてつもない熱をもって盛り上がっていた。
ワルプルギスのメンバーも配信を始めて、この配信そして、てぇてぇVtuberを紹介してくれたらしい。
姉さんも、わざわざ退院して、配信までやって、俺を紹介したらしい。
俺は、傷つけあわない。
殴り合いは、プロレスは望むところだ。大好きだ。
でも、プロレスの出来ない、傷つけることでしか喜びを見いだせない人間と一緒の時間を過ごす気はない。
Vtuberファンが事件を起こした。やめて欲しい。ファンなら迷惑を掛けないで欲しい。
それをテレビやネットが悪意ある切り抜きで騒ぎ立てた。やめて欲しい。怖すぎる。
そして、真偽も確かめず色んな人が騒ぎ立てた。やめて欲しい。悲しすぎる。
俺が求めるのはただただ、Vtuberがてぇてぇ配信が出来る環境だ。
勿論全てのVtuberがいいわけでもない。くさすVtuberだっていっぱいいたし。
でも、がんばる人間ががんばれる場所をつくりたいと思って何がわるいんだろうか。
何故それを踏みつぶそうとするんだろうか。
がんばってもうまくいかなくていじめにあったさなぎちゃんがVtuberを友達に感じて、自分も誰かのひとりぼっちの子達の『友達』になりたいと思っているのに。
自由に心を曝け出して、思い切り笑える場所をVtuberに見つけたピカタであり、マリネが笑って泣ける場所なのに。
ガガの感情むき出しのゲーム配信で元気を貰う人だっているのに。
ノエさんのちょっとしお分きつめだけどやさしい配信で癒される人もいるのに。
そーだの自分の傷ついた過去をバネにして悩みに答える姿に救われる人だっているのに。
るぅみたいに一からやり直そうと頑張る姿を見て励まされる人だっているのに。
コメントでプロレスすることでパワーを貰える人だっているのに。
スパチャで読み上げて貰えて泣いちゃうくらい幸せになれる人だっているのに。
誰かがVtuberの話題で友達が出来るかもしれないのに。
Vtuberに貢ぐために仕事を頑張ろうって思える人もいるのに。
Vtuberに元気を貰って明日を生きようと思っている人もいるのに。
こんなにもいっぱいのてぇてぇを貰って、それを返したいと思っている俺がいるのに。
弟みたいに、
誰かを助けられる人に、なりたい。
それが自分にとってVtuberなんだと思った人だっているのに。
俺はそんなてぇてぇ場所を、ただただ面白そうだからと傷つけてほしくない。
だから、俺はそんな下らない戦いには加わらない。
俺はただ、愛を、てぇてぇを語り続けるだけだ。
『ありがとう』
声が、聞こえた。
綺麗でやさしい、てぇてぇ声だ。
『……姉さん?』
『そうよ、ウテウト。みなさん、そして、てめーら、ごきげんようてめ、高松うてめよ』
〈マ?〉
〈凸キター!〉
〈うてめ様!〉
『はーい、ということでサプライズゲスト、うてめ様と繋がっています。熱狂的なてめーらであるしーどちゃんのお陰でーす。ありがとー、しーどちゃーん』
『いいいいいいえ、わわわわわたしはしあわせです』
『いや、しーどちゃん今そんな事聞いてないんだが』
るぅとしーどちゃんのやりとりで笑って少し緊張がほぐれた。
それは、多分姉さんも同じで。
『ウテウト、貴方は何しにここに来たのかみんなに教えてあげて。姉さんにプロポーズ?』
『いや、冗談は置いといてもろて』
何がしたいのか。
きっとそれはVtuberやVtuberファンには伝わっていると思う。
すごくシンプルなことだから、
それだけで俺達は繋がっているんだから。
俺は、
『色んな人への仕返しを望んでいる人もいると思います。ですが、それについては個人的にも然るべき所にお願いもしています。そして、俺が、いちVtuberファンとして出来ることは……結局、応援することです。100の良いコメントより1の悪意あるコメントの方がと言われるけれど、それでも、俺が出来ることは、1000のコメントを、10000のコメントを、送り続けることしかできないので』
俺の声なんてほんと小さいもんだろう。
でも、それでも俺は声を上げることしか出来ない。
てぇてぇVtuber達の為に。
『俺は、応援し続けます。俺にてぇてぇを教えてくれたあなたの為に。それを伝える為にここに来ました』
それが、俺のやり方だ。
『ありがとう。そして、これはVtuberファンの多くの魂の声だと思っています。そして、Vtuberの一人として、改めて……ありがとう、これからもがんばります』
姉さんの姿は見えない。
けれど、俺のようなVtuber専用のヤバい耳がなくてもきっと伝わっただろう。
姉さんは今、幸せそうに、そして、力強く笑っていると。
姉さんが帰ると、しーどちゃんは、てぇてぇてぇてぇと泣き始め、一旦退場してもらった。
さて、じゃあ、
『次の【#私のてぇてぇVtuber】いきまーす。あ、いいですねえ、この人知ってます? 元々はこの人、主婦で……』
俺は、ありったけの思いを込めててぇてぇを語り続けた。
*********
【山階視点】
「はあ、マジか……じゃあ、なんだ? ずっと好きなVtuberの話をし続けてるだけってか?」
プロデューサーが詰め寄ると、ADはコクコクと首を縦に振る。
ポジティブな内容しか一切話してない動画。
それじゃあ、確かに切り抜くのは難しい。
だが、今、話題にしているこのネタで、しかも、SNSをずっと騒がせ続けている以上、触れないのは逃げでしかない。
途方に暮れた俺達が出した結論は、
「というわけで、あのウテウトとか言うのがずうっとVtuberの話してるんですって。気持ち悪いねえ」
狂気の配信をいじることしかなかった。
だが、ゲストにそれを振っても
「え、ええ、その、すごい、ですねえ」
「ですよねえ! 家庭環境とかに問題があるんですかねえ、その辺どう思います?」
「いや、んー、どうでしょう」
歯切れの悪い返答しか返って来ない。そりゃそうだ。
こんな程度の事じゃあ、意見しづらいだろう。
すぐさま切り上げて、今までVtuberがやってきた悪行を並べていく。
まあ、本題はこれだ。そして、盛り上げる要素も準備してある。
「さあ! というわけで今回は、ネットリテラシーに関する本も多数出されている赤牛崎先生にお話を伺っていきたいと思います! 赤牛崎先生!」
赤牛崎邦彦。
ネットの世界についてライトノベルから社会問題を取り扱った小説、また、評論なども出し幅広い世代に人気の作家で、テレビや動画サイトでも切れ味鋭い喋りで評判だ。最近Vtuberに関する問題提起の本でかなり話題になって、ホットな人物だ。
コイツを引きずり出すことに成功した。といっても、リモートでの参加だが。
『どうも、赤牛崎です』
「先生、今日はご出演ありがとうございます! さて、ということで早速なんですが、今、Vtuber達が色々と社会問題になっていると思うんですが、どう思います?」
『その前に、一つ良いですか? 山階さんはどれだけVtuberの事をご存じですか?』
「え?」
何言ってんだ、コイツ?
『いやね、Vtuberを取り扱う位ですから。しっかり取材されているんだろうと思うんですけど、どのくらい皆さんがご存じなのかで話が変わってきますよね? 山階さんは、当然Vtuberに問題ありと断ずるくらいですから多くのVtuberをご存じかと思いますが、好きなVtuberでも嫌いなVtuberでもいいんで、名前を挙げてもらえませんか。で、どこが好きとかどこが嫌いとか、ああ、てぇてぇとか少し話していただけません? どうも、聞いてる限り勉強不足なんじゃないかと』
めんどくせえ質問をしてきやがった。
そういうのはいいんだよ。
ただただ、面白おかしくつっついときゃいいのに。
「えー、赤松うてめ、は、ちょっと気持ち悪いですね。弟に対して異常愛を抱いていて」
『赤松うてめ、ですか?』
「ええ、赤松うてめが」
『えー、まず、高松うてめですね。で、じゃあ、その高松うてめが慈善事業の広告塔として活動していることはご存じですよね?』
「え?」
『リリースされたデジタルシングルがオリコンで一位になって、あの海外スターがファンだと公言していることは? 半年前に起きた災害に対し弟と相談して募金を呼びかけ、それによって救われた命が沢山あったことは?』
「えー、あー、そうなんですか」
なんだ、コイツ。番組を盛り下げるようなこと言って、もう呼ばねえぞ。
『はあ……お願いだから、ちゃんと勉強しておいてください。その上で話さないと、中身のないSNSで気軽に出来るような会話をわざわざテレビでやるのなんてやめましょうよ』
は?
「アンタねえ! 失礼じゃないですか!? アンタ、自分が何の為に呼ばれたかわかってんの?!」
『Vtuberの問題について語る為ですよね?』
「そうだよ! なのに! こっちを馬鹿にするようなこと言って番組潰す気か!?」
『テレビという媒体で、勉強もせずに知ったかぶって話す馬鹿のいる番組なんて潰れた方が良いと思いますけど?』
「馬鹿ってなんだこのゴミクズ野郎が!」
『……はあ。Vtuberという世界に問題がないとは言いません。ですが、貴方は一度ご自身の問題を見直した方が良いかと。ああ、あと……Vtuberって貴方が思っているよりファンが多いんですよ。一般人でも著名人でも。では、また、ちゃんとした知識が身についたらお呼びください』
そう言って、赤牛崎との通信は切れた。
俺はキレた。
そして、番組は無理やりCMに入り、俺はスタッフに引っ張られ控室へと連れて行かれ、番組は内容を急遽変更し放送された。
そして、この日から俺は番組を休まされ、外にも出歩けなくなってしまった。
まず、イギリスの一流アーティストが本当に、高松うてめのファンで、うてめに対する愛を語る歌を作成し、SNSで流した。曲の名前は『Te-Te』。
それを皮切りに、SNSや動画サイトでは、【私のてぇてぇVtuber】というタイトルで色んな業界人達がただただ好きなVtuberの【てぇてぇ】ところを語っているらしい。
それを見た大衆は
〈Vtuberって良い人多いね〉
〈Vtuberそんなに悪ないな〉
〈ちょっと見てみるわ〉
〈あの司会者嘘吐きやな〉
〈いやVtuberはクソ〉
〈いや一流が認めてるんやで〉
〈俺見たけど普通に良かった〉
〈面白かったけどな〉
あれだけ叩いていたヤツらもVtuber事務所が立ち上げた対策チームによって、一網打尽にされたらしい。
しかも、今も目を輝かせている上に、しっかりとしたネットでの法を成立させることを国に提案し、国も票数欲しさに動き出しているらしい。
俺や番組関係者もVtuber事務所から訴えられている。
いずれにせよ、勝てはしないだろうからどれだけ傷を浅くするかですと弁護士に言われた。
そして、俺の思っている以上に、Vtuberは社会に食い込んでいて、他局に比べ俺の番組がある局だけ少しだけではあるが目に見えて数字が落ちたらしい。
動画サイトの再生回数は爆上がりしたそうだ。
そして、俺の味方であったはずの『悪意ある大衆』は俺を標的にし始めた。
うまく編集され今までの批判的コメントが取り上げられ、外でも絡まれるようになったり暴言を吐かれるようになった。
顔を隠しながら生きるしかなくなった。
― ♪花咲く日を夢見続けて 暗い土の中もがき続ける ―
びくびくと怯えながら入ったコンビニで聞こえた歌声。
暗い土の中もがき続けるというフレーズが心に沁みた。
いい歌だな。
スマホで調べてみる。
「くそ……Vtuberの曲じゃねえか」
高松うてめの『つぼみ』。
どこまでいっても追いかけてくる。
いや、俺は知らなかったんだ。こんなに『てぇてぇ』とかいうのに毒されてる世界を。
てぇてぇなんか幻想だよ。今に見てろ、欲に負けた奴らが勝ち始める。
そして、スマホに着信が。
電話はマネージャーからだった。
俺の番組が終わるらしい。
放送終了し、Vtuberとの関係性を少しでもよくしようとVtuberとコラボした昼のニュース番組を始めるらしい。
― ♪やっと会えたね、本当のキミ、本当のワタシ ―
「クソ! クソ! クソがああああああ!」
コンビニで騒ぎ出した俺は警察に連れて行かれニュースになった。一瞬だけ。
************
【天堂累児視点】
〈浦井望:ごめんね、ウチの旦那が暴走しちゃって〉
〈天堂累児:いえ、俺は俺で勝手にやった暴走ですし。正論パンチだったと思いますし〉
〈浦井望:でね、邦彦さんが、ウテウトさんに『うてめ様おめでとうございます』って伝えてほしいって〉
〈天堂累児:ありがとうございます、とお伝えください。あと、『ウィズ Vtuber』面白かったですとも〉
〈浦井望:読んでくれたのね。ありがとう。じゃあ、マリネ大変だと思うけど引き続きお世話ヨロシク。あと、『所属Vtuberの心身保護に関する提案書』協力ありがとう。社長のオーケー出たからこれで進んでいくと思う〉
浦井さんとのやりとりを終える。
これでひとまず、区切りとなるだろう。
俺はほっと息を零し、画面を見る。
少しの間目を離していたと言ったら怒られるだろうか。
俺はその怒った顔を思い浮かべ少し笑ってしまう。
でも、これできっと彼女たちの明日が少しでも良くなると信じたい。
― ♪次の夢の種はキミの元に ―
画面の向こうのうてめ様が歌い終える。
にっこりと笑う彼女は、本当に女神のようで。
傷つき倒れても立ち上がった彼女は、
辿り着いた200万人からのてぇてぇ愛を受け取った。
200万分の一であることが嬉しくて、俺はコメントを送る。
〈てぇてぇ。ありがとう、これからも応援し続けます〉
俺のコメントは何十万を超える人たちからのてぇてぇコメントに流されていく。
それでいい。
その流れが、それそのものが、彼女への愛で、彼女をまた明るい未来へと押してくれるのだから。
『ありがとう。一緒にがんばろうね』
愛が溢れ、てぇてぇ日々が続いてく。今日も明日もずっとずっと。
お読みくださりありがとうございます。
第一部・第二部と変更しました。
明日お昼の60てぇてぇで、第二部終了とし、週末定期更新くらいのペースに落とし他の連載ペースを上げようかなと考えています。
この作品自体はひたすらてぇてぇを描き続けるだけでやろうと思えば毎日書けそうなんですが書けすぎて他に時間割けてないので汗
また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。
よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。
コンテスト用に書いていた新作ハイファンタジーをアップしていきますのでよければご贔屓に!
金髪碧眼ノ陰陽師~「四大元素魔法を理解できない落ちこぼれが!」と追放された私ですが流れ着いたジパングで五行とコメと美丈夫に出会って『いとおかし』でして、戻って来いと言われましても『いととおし』~
https://ncode.syosetu.com/n1900hw/




