28てぇてぇ『ライバルの形ってぇ、色々あるって思うんだってぇ』
【登場人物紹介】
天堂累児。
物語主人公。Vtuber狂いでVtuber事務所に就職したが追放されたが、姉に拾われる。
天堂真莉愛。
累児の姉。【ワルプルギス】所属のVtuber、高松うてめ。元声優志望のブラコン黒髪ロング美女。
神野ツノ。
【ワルプルギス】所属のVtuber。うてめと同期で、同期の中でトップだった。紫ロングの色白さん。万能型ワードセンス神系。
塩ノエ。
【ワルプルギス】所属のVtuber。黄色髪ショートの生意気ヤンチャお嬢様系。
十川さなぎ
【ワルプルギス】所属の新人Vtuber。うてめに憧れる。唯一無二の澄み切った歌声。
加賀ガガ
【フロンタニクス】から転生(移籍)してきた新人Vtuber。ワルガキムーブが得意。
【120日目・神野ツノ視点】
「ふう……」
あたし、Vtuber神野ツノは、緊張していた。
今日は、100万人到達するまで歌枠と題して歌い続ける耐久枠だ。
〈カブッってる〉とか〈二番煎じ〉っていう意見もあったけど、それでいい。
何がカブっているかというとウチの今トップのVtuber、高松うてめだ。
同期のあの子が一番に登録者100万人に到達した。
その時にやっていたのが耐久歌枠だ。100万人達成するまで歌い続ける。
そして、うてめは見事にやってのけた。
それと全く同じことをやろうとしている。
なので、SNSでは、ちょっと馬鹿にされた。
〈そーだにファンとられたから鞍替えか〉とかも言われた。
【フロンタニクス】の楚々原そーだ。
清純派だったが、闇堕ちしたというストーリーで、一気にエロ路線でギリギリセーフとアウトを繰り返し続けている結構過激なVtuberで、今、何かと話題になっている。
私もちょいエロ路線で言っていたから、そこにファンを奪われたからだろうなんて噂が出てきたのだ。
確かに、楚々原そーだが出てきてから、あたしに過激なエロを求めてきたファンもいる。
でも、応えなかった。
あたしはエロは好きだ!
それは胸を張って言える!
けど、行き過ぎたエロは駄目だ。いや、正確には、表に出しちゃ駄目だ。
自分だけかなっていう性癖を持つ人なんていくらでもいると思う。
少なくともあたしの周りはそんなのばっかりだ。
でも、じゃあ、世界中の人間が全員エロくなって欲のままに生きろっていうと全然そんな事は思わない。っていうか、世紀末だろそんな世界。
ちょっと馬鹿なエロトークして、一緒に馬鹿みたいに笑う位が丁度いい。
んで、みんなエロい所なんてあるよなって思って、自分だけが変なんじゃないと思ってもらえればそれでいい。
あたしは、ラインを上手に越えないトークが評価を受けているんだと思う。
だから、越えない。人として越えちゃいけない所は越えない。
だって、Vtuberは、人だから。
Vtuberも視聴者も顔は現実の顔は見えない。
けれど、確かに現実はあって、そこに帰らなきゃいけない。
それだけは忘れちゃいけないから。
現実の大切さ。
それを改めて教えてくれたのは、ルイジだと思う。
ごはんのおいしさ、たいせつさ、あたたかさ。
自分の魂の本質、なくしかけてたもの、思い出したもの。
そして、現実で頑張りたいからこそ、Vtuberが力になれるんだってこと。
ルイジが教えてくれた。
だから、あたしは、今日、魂の力を信じて、声に込めて、歌う。
配信が始まる。直前の登録者は昨日よりちょっと減ってたかも。
それでも、いい。だって、あたしは神野ツノだから! そういう時こそ燃える女だから!
『つののこよ、お前らのつの立ち上がってんのか!? 神野ツノ様だよ!!』
〈キター!〉
〈つの立ち上がっております!〉
〈ツノ立ってます!〉
ちょいエロなばぁかな煽りをしてくるばぁかなつののこ達が沢山待っていてくれる。
『さあ! 100万人イクの目指して、頭空っぽにして、大騒ぎしようゼ!!!』
あたしの今日のセトリは、カラオケで盛り上がる系とかロックのとにかく激しいナンバーのラインナップ。うてめとは真逆。
そして、トークもしんみりさせる気なんて微塵もなし!
『ちょっとつの汁呑むわ~、あ~、やっぱり呑むなら汁よな。もしくは、ノエ様の身体からとれた天然しお水よな』
〈おまわりさーんwww〉
〈つの汁うめえっす〉
〈ノエ様ぺろぺろせんといてもろて〉
トークもしんみりなんてさせる気なっしんぐ!
とにかく馬鹿みたいに喋って歌って笑って騒ぐ!
コメントも暴れろ暴れろ!
エモい曲もマネージャーから提案された。それは分かる。エモい曲の方がこういうタイミングではウケる。前のあたしならそうした。その選択肢が世の中的に正しいからって。
けど、あたしは丁寧に断った。
神野ツノらしく、100万人を越えたいからと。例えどんな時間がかかっても。
マネージャーは呆れたように笑いながら『ずっと付いていくからね』と言ってくれた。
そん時は流石にちょっと泣いた。
うてめが耐久歌枠やった時よりも、100万人目前だったはずだけど、うてめが達成した時の時間を越える。……全然かまわんね!
まだまだこのドキドキを楽しめるって事でしょう!
『お前ら! まだまだまだまだツノ立ってるよね!? こんなとこで萎えてんじゃねーぞおお! みんなで100万人イクよおおおおお!』
〈うおおおおおお!〉
〈応援してる!〉
〈がんばって〉
もう体力はぶっちゃけ限界だ。声も掠れてきた気がする。
でも、なんだろうか。この無敵感は。みんなと大騒ぎしてるこの感じ。
あんだけ冷めてた学生時代のあたしに教えてやりたい。
お前、馬鹿だぞって。
馬鹿になっちゃってるぞって!
ただただ、みんなと笑いたいからはしゃいでるぞって!
お前……かっこいいぞって!!!!
見てる!? どっかの大好きな恩人のつののこ!
一番輝いてるあたしを!
そして、もう本当に喋って大騒ぎして歌って歌って、へとへとになるまで歌い切った頃、
『100万人、イッちゃったね……!』
ようやくようやくあたしは、100万人を達成した。
多分、結構な人たちに馬鹿にされてるだろう。へへ。
でもな、神野ツノと、つののこはばぁかだから。そんな事気にしねーのよ。
『みんなありがとおおおおおお! 嬉しすぎて漏らしそうだわ!』
〈やったあああああ!〉
〈ツノ様漏らして〉
〈ツノノが、ツノノが立ったわ!〉
実際漏らしちゃった。
目から。あ~あ、そんなつもりなかったのにな。
『あ~、あぅうう~……うああああ』
しょうがないでしょ。おもらししちゃうよ。
ずっとずっと越えられなかったんだから。
『あの、ごめんね。今日はツノ様らしく、明るく楽しく馬鹿みたいに笑って100万人いっちゃおうと思ったんだけど、なんか目から漏れたわ、はは……』
〈俺も漏らした〉
〈私も漏らしました!〉
〈泣いていいよ! がんばったもん!〉
『ひぐ、あの、【ワルプルギス】に入った頃は……マジで順調で、みんなが話題にも上げてくれるから、100万人達成するのはツノが一番乗りだって、言われてて、でも、なかなかいけなくて……結局、うてめに抜かれて……あたし、みんなが、つののこ達が応援してくれてるのに何やってるんだろうって……!』
〈がんばってたよ!〉
〈うてめ様がすごすぎる〉
〈人それぞれだよ〉
『ふぐぅ……! ありがと、あの、ありがと……でもね、ある日、気付いたの。100万人は目標だけど、夢じゃないって。あたしの夢はずっと、みんなと心から笑ってこのクソみたいな世の中を生き抜いてみせることだって』
〈その通り!〉
〈ツノちゃんのおかげで毎日笑えてるよ〉
〈ありがとう〉
『あたし、ずっとずっとみんなと笑ってたいよぉ……心から、みんなと……!』
〈俺も〉
〈私も〉
〈もうやめてくれ、涙止まらん〉
『…………だから、だからさ! 浮気したら……こ〇すからな』
〈え?〉
〈ひい〉
〈あれ?〉
〈サイコパス?〉
『お前らのツノ、ちょん切るからな……。なーんて、あっはっは!』
〈やはりツノ様だったか〉
〈さすツノ〉
〈ふざけんなwww〉
そう、あたしは神野ツノ。この世界でみんなとばぁかな事を言い合って、笑い続ける鬼っ子だ。だから……ん? 誰だ?
『へいへーい! みんな、ワルのメンバーからいっぱいお祝いのメッセージ届いてるぜ、いえー! ツノ立ってきたあ!』
〈おおおお〉
〈読んで欲しい〉
〈ツノ立ってきた〉
『えーと、ノエ様からは、おめでと……だけ。ぎゃっはっは! しお分が高過ぎでしょノエ様! あ、ガガからはコメント来てた? なに? ぶふー! エロ鬼婆様イクのに随分時間がかかりましたね、やはりBBA? ハッハッハ! あいつ消す。今度、ゲーム対決やってわからせてやる。えーと、さなぎちゃんからも来てるけど、長文過ぎてやめとく』
〈ノエ様絶対しお水出してるやろ〉
〈ガガ一級負けフラグ建築士様のお言葉〉
〈さなぎちゃんwww〉
『あとは……!』
〈どした?〉
〈ん?〉
〈まさか〉
もうほんと、やめてほしい。ふざけんなよ。
あんたと対極の配信こっちはやってんだからさ。ライバルなんだって。
だから、あえて歌枠でバチバチにやりあったんだって。分かれよ。
いや、分かっててこんなことやってくんのか。
『うぐ……うぅうう……あー、あー、あー』
〈ツノ様壊れた〉
〈業者呼べ〉
〈ツノ様だいじょうぶ?〉
『……あー、えー、おっけ。高松うてめ様からとってもエモなものを頂きましたので、あげちゃいまーす。だから、これ偶然見に来たてめーらは登録しろ』
〈命令形www〉
〈うてめ様から?〉
〈うてめ様からのプレゼントも利用するこの鬼!w〉
それは、画像だった。
うてめは絵が描くのが好きって知っていた。イラスト研究会に入ってたんだっけ?
マジでうまい。完璧かよ。
そんなうてめの描いたイラスト。
そこには、あたし、神野ツノと高松うてめがばぁかみたいにでっかく口を開いて笑いあっている画像と【ふたりでたかまつていこうぜ!】という言葉。
ばぁか。ばぁか。ほんと、ばぁか。
いや、あんたそんな口開けて笑わないじゃん。願望か。
いや、ミスった。そんな事考えたら余計目から漏れてくる。
んで、小さく、あたしのマスコットキャラの、つのんちゅが描かれている。
画風の違いで分かる。これはルイジだ。
〈おおおおおお!〉
〈流石女神〉
〈てぇてぇが過ぎるんだが〉
『……いやー、流石、お先に100万人いった人は違いますなあ。余裕だね!』
そんなわけない。うてめは今もずっと配信を頑張っている。
『そんな油断してるとね、気付けばツノに貫かれているからね』
簡単にいくわけない。それでもあたしは諦めるつもりはない。
『あ、そうだ。この小さいつのんちゅ分かる? これ、多分ウテウト君作なんだよね。うてめさ、こんな時にもうてめとウテウトの仲を見せつけてきてるの、流石だよね』
多分違う。あたしが喜ぶって分かっててこんな風にしてくれたんだ。
『いやー、でも、マジウテウト君、有能だからね。あ、ツノ様がうてめの数抜いたら、ウテウト君をウチの一番の子分にしてこき使ってやろうかな』
半分うそ。でも、ウテウト君、ルイジは絶対に手に入れたい。それはマジ。
『あ、やべ。うてめから【許さない許さない許さない許さない許さない】ってめっちゃきた! あっはっは! やっば、逃げようみんな! というわけで、今日はここまで! みんなありがとね! また、ばか騒ぎしよーぜい! じゃあ! 明日も元気にツノ立てて……いってらっしゃいぃん♪ ちゅっ★』
〈おえwww〉
〈濃厚すぎる〉
〈いってきます!〉
〈ツノたてて行って来ます〉
〈ありがとう、おめでとう、つのちゃん〉
ねえ、伝わってるかな。ばぁかなみんな。大好きだよ。
あたしは、少しでもあたしの幸せな気持ちがみんなの元気に代わるように精一杯の笑顔を見せて、また明日と笑って、今日のみんなとさよならした。
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