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灰燼に帰す  作者: 伊勢原エルザ
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月影纏う忍者

淡く色付いた月が群れなす竹に光を落としていた。竹はそれに呼応するかの如く、冷気を(にじ)ませている。

ひどく冷たい空気が張り詰める中、いくつかの影が疾駆(しっく)していた。

間違いなく言えるのは、物音ひとつ立てない上、彼らの速さは常人のそれとは一線を画していたことくらいか。俗に言う『忍者』と表現してしまえば、(ある)いは誇張かもしれないが、それに匹敵する健脚の(しな)やかさを持っていた。

それらの集団の先頭には、玉兎(ぎょくと)をそのまま王冠のように(いただ)いた白髪の少年がいた。

自身の身の程よりも遥かに高く大きい男たちを気後れなく率いている様子だ。まるで、自分こそが統率者だと言うかのように。

後ろに連れられている屈強な男たちは、しかし、そうは言っても少年に服従し切っているとは限らなかった。

力強さを確実に感じさせつつも、身はむしろ細身に近い。()わば、必要な筋肉だけ付けているだけで、無駄に肥大化させていない感じを覚える。

戦闘に特化した『忍者たち』はあくまで仕事上の関係だと言わんばかりの無感情ぶりだ。

現に、長い時間竹林を疾走しておきながら、一言も会話する様子を見せなかった。

それでいて、(はぐ)れる気配もない。みなが事前に決められたと言われても疑わない配置のまま走り続けている。疾速は同じ速さ。それはまるで、無感情を通り越えた何かを自然と思わせる不気味さだ。

かと言って、玉兎がそれを疑う素振りもない。同じ速さを共にしている以上、それなりの関係はあるに違いない。また、この滲むような不気味さに気付いていないはずもない。気付いた上で、それを受け入れていると彼は言うのだろう。無論、仕事上の関係なのだから仕方ないとも考えられる。

(ひと)(しき)(はし)った挙句、次第に彼らは遅くなっていき、遂にある洞窟の前で停止した。

どうやら、山の(ふもと)にある洞窟らしい。紅い紐や白い帯が何かしらの儀礼を思わせる一方で、内部への道は厚い鉄の網で阻まれているみたいだ。

「ここであっているな……?」

「ああ。」

白髪の発言に答える様子も、今まで通り感情を見せていない。必要最低限の会話だ。

すると、突然、玉兎は洞窟の入り口を遮る重厚な鉄網を破壊した。

何の反応もしない男たちは、そのまま、玉兎について行く形で洞窟の中へと足を踏み入れた。

月に薄雲、竹に風。笹が触れ合う音だけがやけに五月蝿(うるさ)く響いた。

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