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灰燼に帰す  作者: 伊勢原エルザ
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紅穂の王

同刻、紅穂城ーーー城内。

侵略を行った行軍が、半ば強引に調印を行なっていた。

紙面に書かれているのは、『白裂・紅穂連合条約』。

実質的な白裂による紅穂の吸収である。

黒と白の均衡が良い、随分と(うやうや)しい服装の男が、調印の中心で、人の良さそうな笑顔を見せていた。

「なに、恐れることは何もありません。むしろ、有事の際には派遣された軍が『元・紅穂』を助けることでしょう。殿下はただ、署名をしていただければ良いのです。」

落ち着き払った声で、礼儀正しく接しながら、しかし、確実に有力者を落とし込んでいる。

「ええ。そこです。そこに……はい。」

紅穂の王は苦虫を噛み潰したような表情を見せつつも、嫌々ながら署名をした。

今回の侵略は、端的に言えばおかしい。侵略が行われる際に、協定を結ばんが為に、実権を持つ王族の身命を生かしておく事はよくある。それに反し、反感的な将軍や将校は処刑にする事が多い。無論、今回もそれは行われた。しかし、国の戦力を削ぐという意図は感じなかった。むしろ、未だ見ぬ判断の基準によって『整えた』というのが的確であろう。そして、建前であるかのような調印。姿の見えぬ白裂の王及び王子。政治的な場面を執り仕切っている割には名前も聴いたことのない宦官(かんがん)。白裂の出ではないと見るのが妥当か。とすれば、なるほど…。

紅穂王は正装の宦官を一瞥(いちべつ)した。

私の署名によって調印が行われた今、王族は謂わば不要。幽閉か暗殺を行った上で影武者を立てる算段か。ならば、老いぼれの私は兎も角、諸国を旅している王子だけでも助けたい。いや、この場での私の権力は既に消えたに等しい。どうやら、彼に頼る道しか残されていないようだな。しかし、これは……、ばれたら暗殺確実であるかな……。

宦官の視線を縫い潜りながら、一匹の小動物を放った。

さて、今、私ができる事は時間稼ぎくらいか。

「ところで、白裂の宰相殿。今し方、(したた)めた書面であるが、一つ疑問に思うことがあってな。署名した後に聴くのも無難じゃが、……。」

なるほど、なかなかどうして、こういう演技は嫌いじゃない。波風立てず、主張をし、しかし同時にみなの立場を守る。いやはや、どこまで時間を稼げるものか。

大袈裟なくらいに神妙な顔をして紅穂王が立ち上がった。

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