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灰燼に帰す  作者: 伊勢原エルザ
47/50

創始

科兎山山頂、(おお)いなる神域。

一人の年端も行かぬ少年が、見るからに妖しい男に一筋の太刀を向けていた。

かつての見窄らしい様子とは打って変わり、五つの『火種』は伝承を飾るに相応しい神爾へと変貌していた。

少年は自らの身長を超える大太刀を構えた。

その周りを自律する守護神たる円な大鏡が浮遊している。

『火柱』となった少年の剣気に拍車を掛けるのは、胸に秘めた勾玉であった。勾玉を中心にして『火』が無尽蔵に湧き出ている。

更に、背中には消えることのない炎を燈した大布が翻っていた。

しかし、『炎立つ稲穂』に相当する代物だけは見当たらなかった。

「素晴らしい、玄焚殿。貴方のお陰で、漸く、神髄を顕した『火柱』と『火種』を手に入れることができます。」

妖しい男は顔に手を当てて笑った。

その後、すぐに手を離し、玄焚と呼ばれた少年を睨んだ。

「無論、貴方が協力していただけることが前提なのですがね。否、私の手配で『火柱』となったものなのです。私が少し拝借しても差し支えないでしょう。」

すると、あらゆる備えが今まさに完遂したかのように、妖しい宦官累陰は言い放った。

「玄焚殿。貴方の『火種』は私がいただきます。『火柱』も我らが宿命のために使役させていただきますよ。」

玄焚は『火柱』に刻まれた記憶を経由して、かつての陰謀を思い起こした。

意を決したように言葉を放つ。

「よせ、お前に…、心の『火種』無き者に、『火』は使えぬ…。」

「ならば、力尽くで奪い取るのみ。『火柱』だからといってこの私を止められるとでもお思いで。」

玄焚は太刀を振り上げ、累陰も黒い短剣を革鞘から引き抜いた。

一瞬の静寂が科兎山に鳴り響いた。その反響が科兎山に燈った『火』の燃える音を誇張する。

二人は同時に斬りかかった。

玄焚の太刀『天津日嗣の剣』が昇り立ての太陽のように赫く輝く。

累陰の短剣も黒い噴煙を上げながら、鴉の羽ばたきのように舞い始めた。

幾つもの斬撃を玄焚へ降らせる。それらの驟雨は軽いように見えて、的確に玄焚の急所を狙っていた。

自律して浮遊する鏡が累陰の動きを予測し、彼への致命傷を防いだ。

玄焚も攻撃をいなしながら、累陰へ牽制を加えた。

「火禱『燈し火』」

累陰の身体を赫い炎が包み込む。

漆黒の短剣を振り払いながら、累陰は後ろへ飛び去った。

体制を整えると、再び距離を詰めて玄焚の首筋へ(きっさき)を突き立てた。

しかし、『火柱』となった玄焚にとって、その一瞬の隙は反撃を加えるのに充分な時間だった。

刹那を費やして、同時に二つの火禱を上げる。

「火禱『焚き火』『熾火』」

『焚き火』で身体能力を引き上げ、『熾火』で累陰の剣戟を迎え撃つ。

「無駄なことを。」

累陰が黒煙を纏いながら一閃した。

その閃きが玄焚の身体を真っ二つに引き裂いた。

しかし、玄焚は赫灼たる大布を翻して、断固として倒れようとしなかった。

「私に膝を突くが良い。」

幾つもの黒い閃光が玄焚を襲う。玄焚はその全てを防ぐ事なく全身で受け止めた。

黒煙が舞う。累陰は玄焚の無抵抗たる態度に違和感を覚え、何度も斬りつけた。

しかし、何度斬りつけようが、玄焚は微塵も動かない。ましてや、倒れようともしなかった。

いつしか黒煙は晴れ、玄焚が受けた全ての傷は赫く熱していた。

「これが『熾火』だ。受けた傷が消えることはないが、全て灼熱の炎に変えさせてもらう。」

『天津日嗣の剣』に業火が燈った。

玄焚が剣を振り下ろすと、止め処なく溢れる炎が累陰に降り注いだ。

累陰の身体が火に包まれた。

悶えるように苦しみ、叫び声を上げる。

「己れ、小癪な事を。」

身を火に焦がしながら叫ぶ宦官は、意を決したように胸に短剣を突き付けた。

黒白の慇懃無礼な胸へ短剣が吸い込まれる。

すると、累陰の皮膚に黒い斑点が生まれた。

人刃壱躰(じんばいったい)

黒い斑点は累陰の腕に纏わりつくと、黒い太刀を生成した。

鈍い残像を残しながら振り払うと、彼は腕と一体化した黒い太刀を玄焚へ向けた。

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