表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰燼に帰す  作者: 伊勢原エルザ
39/50

隠された『火柱』

科兎山に累陰が現れる少し前。

紅穂屈指の戦艦『紅鴉朱(べにがらす)』は科兎山の(みね)彼方(かなた)(のぞ)みながら、徐々にその速度を落としていた。

船内では甲斐性(かいしょう)もなく累陰が騒いでいた。

紅穂王は慣れたように目を閉じている。否、慣れているわけではなかった。ただ、宦官の(わずら)わしい喧騒(けんそう)の中で今後のことを考えていた。

私が『火柱』を上げたところで、この老耄(おいぼれ)に何ができようか。『火柱』さえも利用され操られるのは必定。

ならば、肉体も精神も洗練された紅祇十殿に上げてもらうほかないだろうか。

紅穂王は紅穂王自身の若かりし頃を思い出した。紅き(まぶた)の裏側にいくつもの『火』と紅祇十の姿が浮かんできた。

紅祇十殿はお元気にしてらっしゃるだろうか。

数十年前、紅祇十は知る人ぞ知る『建国者』として紅穂の発展に寄与した。それは『火柱』を上げ、紅穂の国土を直接刺激し、農業漁業など各種産業を隆盛(りゅうせい)させるものだった。

自然が枯れ荒廃(こうはい)していた当時の紅穂にとって、それは渡りに船だった。

しかし、『火柱』は紅穂の国土と国民を燃やし、その(ほとん)どの命を奪う『火』を巻き上げた。

同時に、紅祇十の身体を(むしば)み、彼は普通の人間が息絶える外傷を負っても死ぬことが(ゆる)されぬ状態となった。本来なら私以上の高齢になっているはずだが、『火柱』を上げた時以来、老化現象を無視している。

きっと彼は『火柱』を再び上げてはくれないだろう、と紅穂王は予測した。

「…きっと、嫌がるに違いない。」

彼がかつて『火柱』を上げた時、紅穂の自然は活性化されたものの、そこに住まう人々のほとんどが息絶えた。

それこそ白裂の侵略を軽く越える規模の大火事が起こり、人々の住宅が燃え、文明機器を焼失させた。

当時、私はまだ紅穂の王ではなかった。

我が実父が紅穂王であり、私は王位継承権第三位の三男に過ぎなかった。

本当なら長男が王権を継ぎ、紅穂を治めるはずだった。

しかし、紅祇十殿が上げた『火柱』の『火』は王家をも燃やし、兄上方の命を取り去った。

即位することなどない、そう(たか)(くく)りながら(まつりごと)に参加していた私にとって衝撃的な出来事だった。

(ろく)に即位の準備もしていなかった私は良い王ではないかもしれぬ。

今でもそう思わない日はない。

その後、紅祇十殿の『火』は私と精鋭にして機密の紅穂軍とある女性によって鎮圧を行った。私は生き残った国民にこれは単なる大火事だと必死に嘘を()き、情報を操作し、再び紅穂を(まと)め上げた。

こんな嘘吐きが良い王にはなれぬかもしれない。しかし、だからこそ陰湿な宦官の思い通りにはしてはならない。

紅穂王はけたたましく(わめ)く累陰を一瞥(いちべつ)した。

すると、突然、その宦官は一転して押し黙った。

ゆっくりと振り返りながら紅穂王の方を見て口を開いた。

「殿下、なぜ白裂侵略の(おり)に紅穂を守る堅牢(けんろう)なる要塞『日烏(にちう)』が機動しなかったか、ご存知ですかな?」

累陰は不可解な質問を紅穂王に向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ