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灰燼に帰す  作者: 伊勢原エルザ
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白月の行方

闇夜を照らす銀色の月が雲から姿を(あら)わにした。

同時に、その月と見間違う程美しく白い髪を持った少年が、草木の中から飛び出た。

体勢を崩し、転がりながら科兎山の階段に倒れ込む。自然豊かな科兎山には珍しく、人の手で作られたかのような階段だ。

その少年ーー白裂の王子にして玄焚の師匠を刺した張本人ーーは額や腕から血を流しながら立ち上がった。

津雲という名の白裂王子は今までの人生で最も見窄(みすぼ)らしい風体(ふうてい)になっていた。

もたつきながら、屍のような表情をして目的もなく階段を上がっていく。

顔からは一切の感情が消えていた。否、憎悪の感情だけは(いま)だ失ってはいなかった。

津雲に紅穂侵略を(そそのか)した宦官への憎悪だ。

彼は自身の欲望を果たすがために白裂王家内部に踏み入り、白裂王を(たぶら)かし、白裂を裏から操ることに成功していた。

津雲が父である白裂王の異変に気付いた時には、既に白裂王は妄言を吐く有様に成り代わっていた。

津雲自ら白裂乗っ取りを阻止しようとした結果、むしろ手玉に取られ、気が付くと紅穂侵略を実行していた。

ぼんやりと考える力を失い、ふと我に帰ると宦官の思うままに行動をしているのだ。

その(あや)しき暗示の中で、かつて(みずか)らの剣技を(きた)えてくれた師匠すらも殺害してしまった。

玄焚の師匠はかつて、津雲の師匠でもあったのだ。

手塩にかけて育ててくれた師匠を(あや)め、月の様な蟷螂(とうろう)に殺されかけ、(ようや)く今になって、宦官の暗示から逃れたようだった。

今度こそ、宦官の(よこしま)で傍若無人な横行を止めなければならない。

そう決意したは良いものの、蟷螂に吹き飛ばされて以降の記憶が曖昧である。

忍者の数が減り、幾人かの命が絶えていたことを考えると、どうやら、忍者の総大将に見捨てられたようだ。

忍者らはそのような残忍な性格を有していたことは津雲も理解していた。

見るからに怪しいが、白裂の復活を手助けしてくれると言っていたため、あくまで信用せずに同行していた。

津雲が蟷螂に襲われて後、やはり結晶体を持ち去ったようだ。

差し詰め、結晶体は残された『火種』である『灰降らす勾玉』だろう。勾玉とは言えぬ原石のような形だったが、湧き上がる炎のような力を感じたことは確かだ。

忍者の総大将が裏切ることも、結晶体が『火種』の一つであることも、津雲にとって、予想の範囲内の結果だった。しかし、蟷螂の出現と敗北は予想外であり想定外だった。

あの蟷螂の甲殻は今までの魔獣の類では無い硬さだった。

そのおかげで、このような無様な格好をしているのだ。

一方で、宦官は結晶体回収を言いつけた時から予測していただろうと津雲は思う。

ーーー奴は蟷螂を知っておきながら、結晶体を奪えを言ったのだ。或いは、この僕を始末するために向かわせたのかもしれない。僕はあの宦官を許さない。

憎悪に身を焦がしていると、次第に夜が明けてきた。

東の空が黒から紅に染まり始めた。

津雲は考え事をしながら階段を登り続け、少し広めの敷地に出た。

何軒か家が建っていることを確認すると、安心したように倒れ込み、寝息を立てた。

朝一番の眩しい光が疲労困憊の王子を優しく包み込んだ。

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