無慈悲な街道
四人の若い男女が紅穂国外へ続く街道を密やかに歩いていた。
まだ成長の途中を思わせる女の子と男の子、それぞれ二人ずつである。
陽夏、虎金丸、水彦、鮮美、紅穂を抜け出そうとする四人だ。
例の紅穂兵の親父の暴走を尻目に、白裂軍の警備を掻い潜る作戦は一応成功していた。
その後、逃げる様に紅穂の国外へ向かっている。
必然、侵略を行った白裂に逃げるわけにはいかない為、それ以外の他国へ亡命することになる。つまりは黒忍か、或いは…。
いずれにせよ、紅穂にはもう戻ることのできない状況だった。
願わくば、何らかの組織や国家の援助を受けたい、とその場の誰もが思っているだろう。
しかし、そんな願いも虚しく、紅穂から伸びる街道は夕日に照らされて無慈悲に伸び続けていた。
街道の行く先は白裂や黒忍、青き国に航路を用いて続く港である。
白裂に侵略された以上、白裂兵が待機していることは予測できた。
紅穂の親父に手伝って貰わなければ逃げられなかったことを考えると、白裂兵がいるかもしれない港には行きにくい。
しかし、道は港以外に続いてはいなかった。
街道の所々には、紅穂城下町に住めない零落した民や堕天したとも見える山賊が茅葺き屋根を組んでいる。
ここに居続けるのも得策ではない様子だ。
四人は街道のように伸び続ける災難に溜息を吐いた。
「わ、わりぃ。紅穂を脱出すること以外考えてなかった。」
自然と、おそらく発案者である虎金丸が謝った。
「いいよぉ、こんな世の中じゃ、僕たち孤児の居場所なんてないよねぇ。」
「諦めんな、水彦、あたしら何も悪いことしてないわよ。」
虎金丸を皮切りに口々に意見を言い合った。
しかし、陽夏だけは奥歯を噛みながら、ただ方位磁針を見つめていた。
どこかを指すわけでもなく、ぐるぐると針を廻す方位磁針は、まるで私の心境のようだった。
どこも目指すわけでもなく紅穂を抜け、虚しい希望を胸に街道に出た。しかし、待ち受けているのはまた白裂兵の影ばかり。
思えば、今まで碌に国外に出たこともなかった。
孤児を集めて育てていた師匠の膝下で今までぬくぬくと安全に暮らしていた。軍隊の重圧を感じたことも山賊の残虐さを垣間見ることもなかった。
今までどれだけ守られた場所に居たかを身に染みて感じた。
初冬の冷え始めた風を受けて、陽夏の目が潤い始めた。
早く師匠と玄焚を探して元の生活に戻ろう。
白裂が何で攻めて来たのか分からないけど、みんな安心して暮らしたいわ。
玄焚…、師匠…、一体どこにいるのよ。
すると、俯いていた陽夏が急に前を向いた。
「白裂だわ。」
「どうした、陽夏?」
「玄焚と師匠は白裂に囚われちゃったんじゃないかしら。」
虎金丸が「なるほど。」と顎に手を当てた。
「それは一理あると思うなぁ。」
「あいつら、迷惑掛けやがって。」
水彦も鮮美も同意しているようだ。
「だから…難しいとは思うんだけど、白裂に潜入してみない?」
陽夏はあまり目を合わせずに提案した。陽夏の単なる思いつきによって、みんなを危険に合わせるのが辛かったのだ。
しかし、彼らは快諾の意を表した。
「仕方ねえ、こうなった以上乗りかかった船だ。」
「潜入となると、航路?陸路?まさか態と捕まるわけには行かないよねぇ。」
「あ、アタシは派手だから、目立っちゃうかも。」
「そうね、捕まったら行動が制限されそうだから、航路か陸路で密かに入国したいわ。」
「でもアレだよねぇ。密入国したら、刑罰にあたるよねぇ。」
「いや、侵略するくらいだ。案外、警備が軽薄になっているかもしれんぜ?」
虎金丸が楽しそうに腕を回し始めた。
鮮美はその様子を冷たく一瞥し、
「アンタのその五月蠅さが足を引っ張らないと良いわね。」
と毒づいた。
「ああ、なんだと?」
「なによ。」
と言い合う二人を無視して陽夏は頷いた。
「じゃあ、ひとまず港に行こう。できるだけ隠密にね。」
蜩の鳴く中で、街道の外れの木々から少女たちの様子を見る三人の青年たちがいた。
「戯くん。彼らは爺さんの子どもたちだ。」
「所謂、『火の器』候補だね。なんでこんな所にいるのかね…。」
青年たちは緊張感のない様子でふざけ合いながら、しかし、一切の死角を見せずに少女たちを追って行った。




