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灰燼に帰す  作者: 伊勢原エルザ
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戦艦『紅鴉朱』

「宜しい。では乗り込むとしよう。」

紅穂王は軍を指揮している眼光の鋭い男に「後は頼むぞ。」と言うと、陣羽織の上に愛用の重剣を担ぎながら『紅鴉朱(べにがらす)』に乗った。その後を素早い足運びで宦官が追う。続けて、何人かの白裂兵も乗り込んだ。その中には、津雲を見捨てた忍者のような男も含まれていた。

降りしきった雪を溶かすように『紅鴉朱』が熱を上げた。

機関が駆動する音やどこかの羽根が旋回する音とともに、機体が(おもむろ)に動き出した。

前身しながら重い腰を上げる『紅鴉朱』。

少しずつ機械音を増しながら、巨大な船体がふわりと空中に浮かび上がった。

すると、勢いを少しずつ増しながら推進を始めた。

空に煙を巻き上げ、大地に影を落としながら、『紅鴉朱』は紅穂の“元”領空を駆けた。

玄焚らが通った林道の上空を目にも留まらぬ速さで駆け抜ける。

紅穂史上最高傑作の戦艦たるや、速度は『火喰鳥(ひくいどり)』に及ばぬものの、飛行の安定性は光一(ぴかいち)だった。

従来の空挺と言えば、気流の揺らぎで大破する事も(まれ)にあった。(いくさ)の炎に(あぶ)られれば尚更(なおさら)、墜落を余儀(よぎ)なくされていた。

『紅鴉朱』はそんなさまざまな看過できぬ課題を一度に解決した機体であった。

現に、速度、機体の耐久力、内蔵された軍事力、どれを見ても均衡が取れていて、同時に今までにない高水準の技術がふんだんに使われている。

今まで幾人もの操縦者を犠牲にして、遂に製造された新型機であることは言うまでもない。

船内はと言うと、今まで通り白黒の服装の宦官が(はしゃ)いでいた。決して(うやうや)しい態度を崩さぬ代わりに、『紅鴉朱』の性能を声高らかに(うた)っている。飾り立てた言葉を並べ、()(へつら)う態度を見せびらかしていた。

その様子に紅穂王はもちろん、白裂兵ですら引いていた。

紅穂王は宦官の態度を損ねない様、()れ物を扱う様に聴いていたが、次第に(いら)ついてきた。

しかしながら、まるで爆弾の様に危険な人物であることに違いはない。彼の一声で、白裂軍は紅穂に攻めてきたのだ。

或いは、白裂も既に彼の手に落ちているかもしれない。

そんな予測を紅穂王は頭の片隅で考えていた。

宦官のお喋りに皆が慣れてきた頃、機体の窓から科兎山の白く輝く峰が姿を現した。

古代より伝わる火禱を行う神聖な場であり、古くから何度か『火』そのものを迎えた神殿とも言える霊山だ。

伝承を信じていない者であったとしても、鏡の様に輝く山嶺に胸を打つことは間違いない。

科兎山に向かうに連れて、『紅鴉朱』は音を静めながら減速し、宦官は一層五月蝿くなった。

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