師匠の大剣
「奴から『火種』を奪ってきましたかな?」
やけに静かな城の中であまり抑揚のない声が反響した。
しかし、その静寂な大広間にいるのは、白い髪の少年だけだった。
どこからともなく響き渡ってきた声に答えるかのように、少年はぼんやりと下を向いたままポツリと呟いた。
「ここに、ある。」
依然、俯き加減な白髪は、片手で持っていた血塗りの剣を掲げた。
滴る血液が、まるで彼の腕に纏わり付くように流れ落ちる。
「ほう、君が奴をやるとは、素晴らしい。天晴れ。」
内容とは裏腹に、一切感情の見えぬ声だ。どこから聴こえるのかすら、曖昧になってくる。
「…『火種』は手に入れたんだ。過去の事など、もうどうでも良い。」
「おや?君も奴に世話になったはずですが…。まぁ良いでしょう。邪魔する者も、邪魔できる者もいなくなったわけですね。」
何か、笑うかのような、小さく息を吐く音が聴こえた。
同時に、少年の手から大剣が失われる。いつの間にか、姿見えぬ声が大剣を握っていた。
「ふむ、してやられましたか。やはり『火』を使う輩は侮れませんな。」
「なんだと…?」
「いえ、此方の話ですよ。」
白髪は漸く上を向いて、虚空をきつく睨んだ。
「いい加減、計画の全貌を明らかにしたらどうだ?なんなら次の段階だけでも…」
「君にはこれから科兎山に行ってもらいましょうか。ご安心ください。もう誰も殺めなくて良いのです。ただ、『これ』を持って来て欲しいだけですよ。」
遮るように発せられた声が、余韻を一切残さず、気配ごと消えた。
すると突然、少年の脳裏に、ある鉱物の結晶の姿形が焼き付けられた。
脳細胞に焼け付くような、記憶を焦がし尽くすような、そんな鈍い痛みだ。
「下らぬ幻影の炎ばかり見せやがって…。」
繊細な白髪を毟り取らんばかりに抱え、呻き声がただ独りでに木霊した。




