表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰燼に帰す  作者: 伊勢原エルザ
28/50

緋い瞳

科兎山は過酷な山道を有してはいなかった。

むしろ、今までの獣道とは違い、人の手によって道が整備されている。とは言っても、簡単に木の板、石の板で階段が作られているだけで、紅穂の城下町とは比べ物にならない質だった。

一人で作ったんじゃないかといっても過言ではない。

ところどころ、踏み潰された木板や割れた石があったが、そういう場合は二重板になっている。

坂はなだらかで、歩いていて疲労困憊するほどの勾配はなかった。

途中、獣道が見え隠れしたが、玄焚たちの歩く道と交差することはなかった。

そのためか、牙獣や狼などに襲われていなかった。

科兎山の中の気配を(かんが)みるに、棲息(せいそく)しているものの、決して襲いはしない様子だ。

玄焚は科兎山全体に気品の良さをひしひしと感じた。

ーーーここに住まう人が清く正しい人なのか、動植物が洗練されているのか。もしかすると、それら両方かもしれない。

この山には、なだらかで穏やかな自然の伊吹が、どこまでも続いている気がした。更なる標高へ向かう坂が、太陽まで続いている暖かさを感じる。

その形容し難い光が科兎山をすっぽり覆い、そこに内在する総てを、知らず知らずのうちに(きよ)めているかのようだ。

現に九狼も「ここの空気は美味いな。」と深呼吸をしていた。真似して玄焚が肺いっぱいに空気を吸うと、身体の隅々まで科兎山の光が満ちる気がした。

すると、木漏れ日が一瞬の揺らぎを見せた。ともすれば、見落としてしまいそうな陽光の翳りに、九狼はすぐさま反応し、玄焚を押し下げた。

「玄焚、下がれ。」

言い終わる前に、業火を瞳に凝縮したような(あか)い瞳を持つ男が地面に拳を叩き付けた。玄焚が今し方立っていた場所が土埃(つちぼこり)を上げた。

「俊敏性、不合格。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ