白の光芒
津雲…。津雲…。
夜空を照らすお月さまみたいに優しい声。ぼんやりとした声だが、知っている音だ。僕はずっとこの声が好きだった。
津雲、起きて。
目を開けると、僕の前に朝日に包まれた女性の顔があった。
とても眩しい。思わず目を細めた。
津雲、おはよう。
ずっと僕の名前を呼んでくれる人。
僕はこの人を知っている。僕をこの世界に生み出した人だ。
母上、おはようございます。
そう言うと、母上は笑ってくれた。泣き出してしまう僕を支えてくれた笑顔だ。鍛錬や勉学に疲れきった僕を癒してくれた笑顔だ。
久しく見ていなかった笑顔に、思わず涙が溢れた。
は、母上…。お久しぶりでございます。今まで一体…。
すると、母上は驚愕を露わにした。
何か、まずいことでも言っただろうか?
津雲、どうしたの?お久しぶりって、昨日会ったばかりじゃない。
嘘だろ。なぜ、昨日会っている。母上は数年前に亡くなったはずだ。
僕は泣きながら母上に抱きついた。母上は心の琴線に触れてくる薫りがする。優しく頭を撫でてくれた。
変ね。寝惚けてるのかしら。
そうかもしれない。頭がぼんやりするし、さっきまで何をしていたか思い出せない。いや、夜が明けたのか。
しかし、どうにもおかしい。ーー長身痩躯の男、血で濡れた爺、謎の鉱石ーー頭の中に謂れもない記憶が朧気に流れてくる。
ハハハ、昨夜、奇妙な絵本でも読んだのだろう。
低く堂々とした声が笑いながら言った。
父上の声だ。人望があり、民から慕われている父上の声だ。白裂の王であり、僕の最も尊敬する男の声。その声が視界の外から聴こえてきた。
父上。おはよう、ございます…。
声が震える。なぜか、父上を見るのも久方ぶりのような気がする。
長い間、家族と会えぬ生活をしていたような、何か悪い幕をこの白裂にかけられていたような気がしてくる。
朝日に照らされて霧が晴れるように、少しずつ悪しき気配が和らいでくる。父上の言う通り、昨夜読んだ奇妙な絵本の所為だろう。
そんなことを考えていると、母上が僕の白い髪を撫でながら言った。
「さあ、朝ごはんを食べましょう。」




