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ごはんとワルツを  作者: 明石家にぃた
9/48

休日のマッチョ製麺

今回はちょっと長めです。

サブタイトルはそのうち変えるかも知れません。

(他に思いつかなかった)

 二連休初日。

 これといって予定はない。

 というより、わざと入れなかった、の方が正しい。

 

 いつもなら連休の前日は、外に飲みに行ったり家でだらだらキッチンドリンカーしたりすることが多いのだけど、ここ数日はいろいろ立て込んでいて、正直いつもより疲れた。

 ついでになんとなく気分も乗らなかったので、昨日は風呂に入ってさっさと寝た。


 そして、起きたら正午の時報が鳴ってた。びっくりした。


「うわーまるっと半日爆睡とか、マジかー」

 確かに昨日はいつもより長風呂だったんだけども。

 

 とりあえずトイレ行こう、と立ち上がったと同時に、ぐぅ、と小さく何かが鳴いた。

 私の腹の虫は、今日も元気だ。

 昨日も風呂の前にめいっぱいレトルトのカレーライスを食べて、なんなら風呂上がりに小腹がすいたからって、今朝食べる用にとっておいた白飯すら食べ尽くしたくせに。

 

「ナニか食べるものあったかな……」

 昨日炊いたごはんはすでにない。

 しまった、昨日のうちに新しいごはんを炊いておけばよかった。

 

 今から炊いたとして、早炊き機能を使っても三十分ちょい。

 我慢できないほどではないか……と米びつを開けると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。


 お米の上には七人の神さまがいるという。

 ……おそらく、今は五人ぐらいかも知れない。


 そもそも身長からして同世代の平均を大幅に下回る私の手のひらは、人と比べても決して大きくはない。

 その小ぶりな手のひらに乗る程度のささやかな量の白い粒が、そこには取り残されていた。

 

 かき集めて炊けば、かろうじて茶碗一杯分ぐらいにはなるだろう。

 しかし、半日以上夢の中で放置プレイされた私の胃袋が、その程度で満たされるとは思えない。

 ……身も蓋もない言い方をすれば、足りない。

 こうしている間にも、私の腹の虫は悲痛な鳴き声を上げている。

 

 オーケー、レディ?ここからはタイムトライアルだ。

 

 私はほとんど空に近い米びつに見切りをつけ、台所を見回した。

 お菓子ならほぼ確実に何かしら買い置きがあるだろうが、それは最後の手段だ。


 となれば我が家において何かしらの食材があるのは、ここ。 

 いつもの備蓄品の棚を勢いよく開ける。


 パスタ、ない。

 そば、ない。

 ホットケーキミックスも、ない。


「そういやしばらく買い物行ってなかった……」

 しかし小麦粉はあった。

 

 次は冷蔵庫。

 いつものことながら、卵とチーズはある。野菜室にネギもある。あとピーマン。

 冷凍庫の中にはオクラもあった。


 このラインナップから導き出される最適解は……


「……うどんか!」

 そもそもこの小麦粉。

 少し前に足踏みで作る手作りうどんの特集をテレビで見て、そのうちうちでも作ってみよう、と買ってあったものだ。

 珍しく賞味期限は切れてなかった。

 

 そうと決まれば話は早い。

 分量については、適当に「うどん 手打ち」と検索したら大量にレシピが出てきたので参考にする。

 二重にしたビニール袋に小麦粉。三回ほどにわけて塩水を少しずつ入れ、口を閉じてぶん回す。

 さすがに遠心力のノリでふり回しただけではきちんと混ざらなかったので、なんとなく塩水を全体にいきわたらすイメージで、丁寧にふり混ぜる。

 全体がぽろぽろとそぼろのようになったところで、ビニール袋の空気を抜き、手でまとめるように揉み合わせる。


「……粘土とかもそうだけど、なんでこういうもちもちしたものを揉むときって、つい口ももぐもぐさせちゃうんだろ」

 ガムでも噛むようにもぐもぐむぐむぐと口を動かしながら、黙々と生地を揉みしだく。

 全体がつるりと鏡餅のようにまとまったところで、おもむろに袋ごと生地を床に置いた。


 なんだろう。この背徳感は。


 幼いころから「食べ物を大事に」とか「命をいただく」とか言われて育ったからだろうか。

 うどんにコシを与えるという大義名分があるのに、床に置いた生地を踏みしめることに、ものすごい抵抗がある。

「さーて、しこしこうどんのためにー!どすこーい!」


 これはもう、勢いで行くしかない。 

 半ば叫ぶように声を出し、もちもちの生地に足を振り下ろす。


 もちぃっ


 ああぁっ!気持ちいいけど気持ち悪い!

 

 悪いことと知っていながら罪を犯しているような、妙な気分になる。

 そういえば中学生のころ、通学路の商店街に来ていた揚げパンのキッチンカー。

 買い食いは禁止されていたのに、こっそり内緒で部活のみんなと食べたっけ。


 今思えば大したものではないんだけど、やたら美味しかったな。


 ……それにしても、どれくらい踏めばいいんだろう。踏めば踏むほどいいのか?


 しかし結局、数度踏みつけたところで罪悪感に負けた。

 まぁ粉っぽさは残ってないようだし、おそらく大丈夫だろう。


 打ち粉をした乾いたまな板の上で、生地を平たく伸ばしていく。ときどき小麦粉を振りかけながら。

 ん?しかし妙だな。なんか生地が固い気がするぞ?踏み足りなかったか?


 三つ折りにして、うどんっぽくなるように細く切る。

 湯を沸かし、それらしく切り揃えられたうどんをほぐしながら茹でる。

 なお、だいたい沸騰してから十分ぐらいだと、参考にしたサイトには書いてあった。

 

「……って、うぉぉぉぉ?!」

 どうやらもう少し薄く、細く切るべきだったようだ。

 あとたぶん、作りすぎた。


 火が通るにつれて、まるでクリーチャーか触手のように、極太のうどんもどきがぐねぐねと踊る。

 水分を吸って片手鍋からあふれんばかりに増えたそれは、なんかもううどんとは別な生命体みたいだ。


 いや落ち着け、うどんはそもそも生命体ではない。


 さて、つい動揺してしまったが、時間的にはそろそろイイ感じなはず。

 恐る恐る、適当な一本を菜箸でつかみ取り、口に運ぶ。

 

「あれ?味は悪くない、かも……?」

 歯ごたえがありすぎて、もちもちというかムキムキ、って感じになってるけど、味は悪くない。

 塩気もちょうどよい。ただちょっと、うどんにしてはやたらマッチョな食感だけど。


「これは……またそのうちリベンジだな」

 粉はまだある。なくなったら買えばいい。

 

 マチョマチョしたうどんをもぐもぐしながら、私は決意を新たにした。


ちなみに「手打ちうどん 固い」で調べたら「鍛えすぎ」って書かれてました。

よっぽどたくさん作る(5kg~)とかでない限りは、実は手打ちうどんを踏む必要はないらしいです。


次回更新は6/25です。

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