それはまるで突然現れたラテンダンサー
毎回、サブタイトルはけっこう適当につけてます。
そりゃワルツ踊ってるとこにいきなりラテンダンサーが現れたら戸惑うよね、っていう。
どんなイメージだ。
運がいいのか悪いのか。
レジがものすごく混んでおり、思ったよりも時間を食ってしまった。
どうやら並んだ列が、うっかり研修生さんだったっぽい。
他のレジに誘導したりと、他の先輩パートさんや社員さんもフォローはしていたようだが、まぁ仕方ない。
うむ。精進せいよ、若者よ。
レジ待ちの最中に「時間余りそうなら、お茶でもしません?」とまぁ、そんな感じでうっきうきだった後輩も、さすがに待ち疲れたのか少しばかり大人しい。
まぁこっちとしてはありがたいことだが。
それでもレンタルキッチンスタジオへの道すがら、凝りもせずに「テイクアウトしません?」とか言い出したので、純粋に小腹でもすいたのかも知れない。
お茶、といいつつ、あいつらけっこうカロリーあるからな。
巻き込まれるがままに、しぶしぶ適当に無難なラテを買う。
……お前、今我々が明らかにスーパー帰りな見た目してるのわかってるか?
そして、モノ言いたそうな見知らぬ女子高生が、さっきから私たちをちらちら見てるのわかってるか?
いや多分わかってないな。
「今日買った食材で、何作れますー?」
やめろ、謎に生活感のある会話を振ってくるな。
女子高生たちのそわついた視線が痛い。
ねーねー、とやたらと話しかけてくるのをほぼ丸無視し、出来立てのラテを持ったままさっさと店を出る。
「いいからさっさと行くよ。予約の時間、もうすぐでしょう?」
「……はい!」
返事が返ってきたのがそんなに嬉しいか。そうか、だったら極力無視してやる。
しっぽをぶんぶん振っている(幻覚)後輩をそのままにして、ずんずんと道を進む。
目的の場所は、コーヒーショップから徒歩三分ほどのところ。
小綺麗なビルの一角らしく、ちょっとだけたじろぐ。
てゆか、なんかこう、もうちょっと気軽なのなかったの?
公民館とかそういうところの貸台所、みたいなの。
「ここ、知り合いに教えてもらったとこなんです」
追いついた後輩が、にこやかに言う。
んじゃもうその知り会いに教えてもらえ。
私をいちいち駆り出すな。
受付もなんか小綺麗で萎縮する。
とはいえ、無事にキッチンには辿り着いた。
すでに疲労感マックスだけど。
「……そんで、今買ってきた食材が合いびき肉と人参と玉ねぎ。あとめんつゆ」
普段の買い置きは?と聞くと、どうやら持っていたリュックに全部突っ込んできたらしい。
いやまぁ確かに冷蔵必須の物はほとんどなかったけど、なかなかワイルドだな。
なお、褒めてはいない。
というわけでリュックに入っていたのは、キャベツが四分の一、卵がひとパック。
もやしが一袋。あとはしょうゆと塩と砂糖とコショウとマヨネーズ。
「まさかサラダ油すら持ってないとは思わなかったので、あとで買っておいてもらうとして」
取り急ぎ、油はスタジオのものを使わせてもらう。
油はマヨネーズでも代用できなくはない、ということに気づいたのは、炒め始めてからだったのでとりあえず置いといて。
「合いびき肉をぽろぽろになるまで炒めて、めんつゆ入れて汁けがなくなるまで煮つめる。とりあえずこれだけでもおかずになる」
要するにただのそぼろ。
出来たそぼろは皿に移しておき、同じ要領で卵も炒める。
ただし味付けはめんつゆではなく、塩コショウ。
「これ二つと白米があれば、二色のそぼろ丼が出来る」
ちらり、と後輩の顔を見る。
かなり雑に教えているので、理解できているだろうかと不安なのだが、そのきらっきらの目はどっちだ?
「……ここまで大丈夫?」
こくこく。
とりあえず大丈夫っぽい。
簡単な説明をしながら、ただひたすら、ありもの食材だけでおかずやつまみを作る。
後輩は何も言わず、ただ私が淡々とつぶやきながら動き回っているのを、一生懸命メモを取っている。
「もやしはレンチンでいい。火が通ったら、しょうゆとマヨネーズ入れて和えると、簡単な副菜になる。
私は酒のつまみにしたいから一味か七味入れるけど、まぁ辛いの苦手な人もいるし、なくてもいい」
ちなみにこれはキャベツでやってもいい、と補足しておく。
「人参は細切りかスライサーで薄く切って、卵と炒めて塩コショウ。味つけはめんつゆでもいい。
沖縄のにんじんしりしりみたいな何かになる。これは副菜でもつまみでもイケる。
今回はあるものってことでマヨネーズで炒めたけど、これをごま油でやると香りがよくておいしい」
あっちに行ったりこっちに行ったりしながら、まるでダンスのようだ、とふと思う。
……さぁ、私の次のパートナーは?
「卵はフライパンで蒸すようにして茹でると、黄身がぽそぽそにならない。
そうやって茹でた卵を潰したやつと、細切りの玉ねぎと人参を炒めるかチンするかして
火を通した奴を混ぜる。
味付けはマヨネーズ。ちょっとコショウを入れると美味しい」
ああそう、君を忘れてた。
「キャベツは小さめに千切ってフライパンへ。めんつゆと水でくたくたに煮込み、卵でとじる。
卵が少なくてとじれなくても大丈夫。そういうときは汁けがなくなるまでそのまま煮詰めればいい」
要するに、親子丼とか他人丼とかのキャベツ版。
そういえば出汁がない、ということに気づいたが、まぁどうでもいい。
あればポトフもどきとかスープも作れたのだが。
「……そういえば、主食って何買ったの?」
「あっ、はい!」
今さら思い出す。
私は白飯が好きなので、作るおかずもついついそっちに合うものに偏りがちだ。
とはいえ、誰しもそうとは限らない。
「安くてでっかかったので!」
……あー、私やらかしたわ。
どや顔で差し出されたのは、三斤ほどある巨大な食パン。
「……それを主食にするなら、今まで教えたことは全部忘れな」
とりいそぎ二色そぼろと卵サラダはパンに挟んでもイケるか、と、私はその巨大なパンを切り刻むべく、包丁を手に取った。
作中に出てくる「三斤ぐらいある特売のでっかい食パン」は、いつものスーパーでよく買っていたもので、金のない新卒時代には大変お世話になってました。
当時、お昼はそれで作ったサンドイッチばかり持って行ってました。
そういえばずっと見かけてないな……
次回更新は2/25です。




