くさ(前編)
必要なものは揃ってるんです……時間がないんです……
※前後編にして時間稼ぎ
そしてだんだん適当になってくるサブタイトル(笑)
「よし、納豆作ろう」
どうしてそうなった、と笑わば笑え。
人には時として、唐突にわけのわからないことを言い出すこともあるのだ。
知らんけど。
事の起こりは、半年ほど前。
小さいとはいえせっかくベランダがあるんだし、家庭菜園でもしてみようかと思い立ち、ホームセンターで苗とか土とか買った。
で、どうせ作るなら好きな食べ物にしようと、枝豆をチョイス。
せっせと毎日水やりをし、マメに太陽に当てた枝豆はすくすく育ち……
……うっかり育ちすぎた。
水やりのたびに「そろそろ収穫しないと……時間があるときに」と言い続け、なんやかんやで忙しくて収穫のタイミングを逃した結果。
気が付いたらさやがすっかり黄色くなっていたのだ。
そして先週。
捨てるのももったいないしとりあえず食べるか、と、すっかり熟して黄色くなったマメを収穫してみたわけで。
「こうやってあらためて見ると、わりと量あるな?」
煮物?いり豆?きなこ?
大豆は我々日本人にはなじみの深い食材だ。
味噌汁の中に豆腐や油揚げ、もやしを具としてぶち込むとか、大豆や枝豆を醤油ベースの煮物にする、とかそういう、白飯をおかずに白飯を食べる、みたいなアホなメニューすら成り立ってしまう、生活にも密着した食材だ。
しかし大豆から作られる加工食品がやたらと豊富なわりに、大豆そのもののメニューというと、ぶっちゃけ煮物ぐらいしか思いつかない。
いっそ加工してみる?
とはいえ味噌を作るほどの量はない。
ちょっと興味はあるけど。
で、紆余曲折の末、じゃあ納豆ならどうだ、となったわけである。
手作り納豆といえば藁だろう、と勢いで藁もポチッた。
わくわくしながら作り方調べたら、別に藁がなくても出来るとわかってちょっとへこんだ。
さらに数日が経った今日。
藁が届いた。
「量が……量が多い……!」
なにこれ、ちょっとした枕ぐらいあるじゃん。
納豆何個分だこれ。
「藁ってあとなんか活用法あったっけ……藁人形?」
……特に恨んでる相手とかいないけど、いちおう作っとく?
片手で藁のかたまりをもしゃもしゃ撫で繰り回しながら、とりあえずわらつとの作り方を検索する。
必要な藁の量は片手でだいたいひとつかみ。
それでも藁はまだたっぷりある。
真ん中ぐらいで縛り、ぐるりと折り返す。
反対側を縛り、端を切りそろえる。
「おお、意外と簡単に出来た」
あとはわらつとを煮沸消毒して、中に茹でた大豆を入れ、四十度ぐらいをキープしつつ、三日くらいしたら出来る、らしい。
「……いや、四十度キープってけっこう難しくない?」
今冬だが。
なんなら外気温、ひとケタだが?
いちばん手っ取り早いのがこたつの中で発酵させる方法らしいが、我が家にこたつはない。
まだ私が新人だったころ、同僚の家に遊びに行ったときにこたつに入らせてもらったことがある。
人生初のこたつ。
おそるおそる差し込んだ足に、ふわっとした温度。
実家の猫が足にまとわりついてきたときの感覚に少しだけ似ていて。
ひっそりとホームシックになりかけたりなんかして。
そんなに気に入ったならいっそ自分で買ったら、と言われたが、私は震える声で答えた。
あんなもんうちにあったら間違いなく堕落するわ。
あまりの快適さに、こたつの付喪神になるレベルで出てこなくなるわ。
そんなわけで私の家にはこたつは存在しない。
私にとっては、人をダメにするソファーよりもよっぽどアブナイ特級呪物である。
うちには、寒い夜に布団の中に放り込むゆたんぽで十分。
「でも、寝相悪くて朝までには蹴りだしちゃうんだよねぇ……」
そして朝には冷たくなっているゆたんぽちゃん。
南無阿弥陀仏。
しかし、ゆたんぽは使えるかもしれない。
問題はゆたんぽだけでは三日間も温度をキープできない、という問題である。
複数買って入れ替えながら温める?
たかが納豆を一回発酵させるためだけに?
「とりあえず、具体的な方法が決まるまでは納豆づくりは保留、かな?」
今日のところは、と、私は手慰みに作った藁人形を戸棚の上にそっと置いた。
というわけで、来月こそは納豆作ります。
果たして大豆ちゃんは無事に美味しく発酵できるのか……!
次回更新は12/25です。




