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ごはんとワルツを  作者: 明石家にぃた
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いざゆかん、大自然の彼方へ(後編)

ちょっと遠出しただけですぐスマフォのナビが「GPS信号が失われました」とか言い出す田舎に住んでます。

ここいちおう国道だったはずなんだが??

まじでアレ焦る。


そういうときは一度ナビを終了し、もういちど目的地を設定し直すと信号が復活することがあります。

絶対というわけではないですが、頭の片隅に覚えておくと、たまに役に立つかも知れません。

「……どこ、ここ」

 要するにアレです、迷子です。

 カーナビ、とちゅうでGPS信号が失われました。

 ついでにスマフォも、かろうじて圏外にはなってないにしろ、ほぼ電波が立ちません。

 

 とりあえず、わかっている範囲ではキャンプ場まであと三十分くらい。

 カーナビが役に立たなくなってすぐ、とりあえず安全に停車できるところまで、と、五分ほど車を走らせた。

 しかし目的地に近づいているのか遠ざかったのかはわからない。


 よし。ひとまず、落ち着け。

 

 家から持ってきていたペットボトルのお茶を一口。

 周りを見回す。

 何もない。

 スマフォのナビを見る。

 電波がないので現在地はわからないが、地図自体は見ることが出来る。

 とりあえず現在地さえわかれば、なんとかなりそうだ。

「……たぶん、このあたり?」

 太陽の位置と道の形から、だいたいの場所を推測する。

 よし、イケる。


 とにかく、日が暮れるまでにキャンプ場につかなくては。

 ときどき路肩に停めては、何度も電波のない地図で居場所を確認しながらだが、着実に目的地へは近づいている、はず。


 最初に少し移動してしまったことでキャンプ場から遠ざかっていたものの、最初にアタリをつけた場所はだいたい合ってたっぽい。

 こういうときは下手なナビよりアナログ地図の方が強いよなぁ、と思ってふと見たら、ダッシュボードにロードマップが入ってた。


 もっと早く気づけばよかった。

 少しずつ地図をずらしながらの小さな画面より、絶対こっちの方が見やすい。


 まぁいいか。

 無事についたし。


 キャンプ場はほどほどに混んでいた。

 家族連れがけっこう多い。

 それでも、ひとりぶんの場所ぐらいは余裕でありそうだ。

 

 水場とトイレを確認し、比較的近い場所にレジャーシートを広げた。

 忘れないうちに虫除けスプレーを浴び、蚊取り線香をセットし、ごろり、とシートの上に寝転がる。

「……はー、気持ちい」

 かすかに香る、蚊取り線香の匂い。

 ちょっとだけおばーちゃんの家に似ている匂い。


 氷と麦茶の入った冷たいグラスがからりと音を立てる。

 カラフルな動物の書かれた、ちょっと小ぶりだけどお気に入りのグラス。

 おばーちゃんちに遊びに行ったときは、必ずそのグラスで色んな飲み物を飲んでいた。

 セミの泣き声と、近所の子どもたちのはしゃぐ声。

 たまに吹く風にちりんと鳴る風鈴。

 孫用に準備されていたお菓子を、兄ちゃんと奪い合う。

 そんな夏休み。


 気づいたら、そのまま小一時間ほど眠ってしまっていた。


 昨日はそわそわしてあんまり寝つきがよくなかったのに、朝もちょっと早めに起きてしまった。

 たぶん朝から興奮してたのもあり、無事キャンプ場に辿り着いたことで一気に眠気がきてしまったのだろう。

 遠足前の子どもかあたしゃ。


 周りはもうなんとなく薄暗い。

 傾きかけている太陽を背に、早めにテントを立てることにする。

「ええと……ここはこうなって……よし、こんなもんか」

 とりあえず危険な場所というわけでなし、最悪、朝まで無事に寝られればいい。

 余分に持ってきていたシートをテントの中に敷く。

「おー、上出来上出来」


 中は思っていたよりも狭い。

 とはいえ大きな荷物は車に置けるし、テントに置くのは貴重品ぐらいなので、これでも十分すぎるぐらいだろう。


「さて、ごはんごはん」

 使い捨てのコンロに火をつける。

 炭も着火剤も全部ワンセットになってて、あとは火をつければいいだけのやつ。

 ぼうっ、と、思ったよりも大きく火が燃え上がる。

「おー、キャンプファイヤーみたい……焼くのはとりあえずこのあたりからかな」

 炎が落ち着いたころを見計らい、網の上に朝買ってきた肉を置く。

 説明書きによれば、火をつけたら熾火になるまでしばらく置いておき、それから焼きはじめるのが正式らしい。


 知らんがな、焼ければ何でもええわ。


 焼けたものから片っ端に食べていく。

 とっておきの牛タン、ホルモン、やきとり。

 もちろん、皮と砂肝は鉄板。

 焼いてるのは炭の上の網だけど。

「おっと、忘れてた」

 おもむろに取り出したのは、クーラーバッグに入れておいた缶ビール。

 今日はこのままお泊りだから、運転はしない。

 真上を向く勢いで、思いっきりあおる。

「っかー!」

 おっさん、と笑わば笑え。

 乙女は常に、ココロにおっさんを飼っている。

 ワンカップ持ってこなかっただけマシだと思え。


 ……なーんて思ってたら、近くで同じようにソロキャンプしてるっぽいお姉さんが、ワンカップ片手に文庫本を読んでいた。

 マジか。

 

 買ってきた肉をほぼ食べ尽くし、ウィンナーやらベーコンに移行したころ、だんだんコンロの火が弱まってきた。

 手をかざすとまだ温かいのでまだ完全に消えたわけではないようだが、網に乗せたウィンナーが焦げるほど熱くはない。

「そろそろ終わりかな」

 日はすっかり落ちて、ちらほらと星が見え始めている。

 とはいえ近くに水場とトイレの街灯の光があるせいか、満天の星空とは言い難い。

「もう少し遠くてもよかったかもなー」

 それでも、街中よりはだいぶ星が見える。

 星座を唱えられるほどの学はないが、それでも星を愛でるくらいの感受性は持ち合わせている。

 流れ星は出ないのかな、とまばたきもせず眺めていたら、目が痛くなってきた。

「まぁ流れたところで、願い事なんて思いつかないんだけどさ」


 でも、少なくとも今日のようなソロキャンプはいつかリベンジしたい、とそう思った。

 今度は星座板と文庫本、それからワンカップも持参で。

星空の下でワンカップ片手に青春小説を読みながら食べるスモークサーモンは最高。

ちなみに私はテント泊ではなく車中泊しました。


次回更新は8/25です。

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