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ごはんとワルツを  作者: 明石家にぃた
30/52

アブナイお粉

ちなみにうちの実家の節分では、個包装のお菓子と落花生をまきます(北海道)

豆まきのあとにベッド下とかからチョコとかが出てくるとちょっと得した気分になる。

  ……やっぱり私、こいつ嫌いかも知んない。

 いや、元々そこまで好んで食べるわけではなかったけども。


 それは、実家からの支援物資もとい食料定期便に入っていた。

 確かに今年の年始は帰省しなかったから、食べる機会はなかったんだけども。

「だからってひとりぐらしにこの量は多いよ……」


 どーん、と大袋に入って届いたそれは、餅である。


 毎年何人もの子どもや高齢者が犠牲になる、大量殺人犯。

 ついでにこびりついたりこびりついたりこびりついたりして、一人暮らし民の自炊のモチベーションを完膚なきまでに叩き壊す、重犯罪者。いや人じゃないから重犯罪ブツ?


 まぁとりあえず食べないことには減らないし、食べるしかないか。

 夕飯用のご飯はまだ炊けてないし、前菜程度にちょっとつまむくらいならば、胃袋にたいした影響はない。

 正直、お腹減ってるし。


 というわけで。

 今のところ、このあまりにメンドクサイ食い物の我が家での最適解はコレである。


 いち、レンジにクッキングシートを敷く。

 に、全体が膨れるまでチンする。

 さん、あらかじめ沸かしておいたお湯にぶち込む

 よん、餅を取り出しきなこにぶちこむ

 ご、冷めて固くなる前に食べる

 

 ちなみにきなこ以外にも、納豆とかおろし醤油とかでもいい。

 砂糖醤油をつけるならチンしたあとだが、ただしチンしたての餅はかなり熱いのでちょっと危険。冷めると固いし。


「納豆か砂糖醤油なら家にあるもので出来るけど気分じゃないんだよな……そうなると大根かきなこか」

 

 きなこ程度なら、たぶんコンビニでも近くのスーパーでもどこでも売っているだろう。

 もし残ったとしても、牛乳に混ぜたりバナナにかけたりアイスにかけたりで、ある程度は消費できるはず。

 大根は言うまでもない。


「……めんどくさいなー」

 今年は暖冬らしく、例年に比べればそれほど寒くはない。


 とはいえ。

 早番退勤後、すでにしっかり部屋着に着替えてしまっている状態で、かつごはん前ともなれば、わざわざここから着替えて出かけて買い物して、というのはあまりに難易度が高すぎる。

 てかそんなことしてる間にコメ炊けるっての。

「えー、なんかあったかなぁ」

 

 ……そのときの私は、たぶん頭おかしくなってたんだろうな、と今になれば思う。


「あ、豆まきのときに先輩にもらった大豆発見」

 大豆ってすごいよなぁ。

 そのまま暗所で育てればもやしになり、早く実を収穫すれば枝豆になり。

 醤油になり味噌になり豆乳になり湯葉になり。

「あれ?よく考えたらきなこって大豆じゃん?砕けばきなこじゃん?」

 

 いやもう、ほんとナニ考えてたんだろうあのときの私。


「とりあえずちょっとだけ試してみるか」

 

 個包装の炒り豆をひとつ、小さめのボウルに移しいれる。

 理屈の上では、これを粉々になるまで砕けばきなこになるはずだ。


「なんかイイ感じに豆が砕けそうなもの……やっぱりすりこぎ買った方がいいかなぁ……

前にうどん作ったときはラップの芯あったから代用したけど……あ、これでいいや」


 そこらへんに放置してあったマスカラが、なかなかいい仕事をした。

 すでに炒られているお菓子の豆なら、これでも十分潰せる。

 とはいえ皮がどうしても残るので、それはちょいちょいとつまんで取り除いていく。

「なるほど、皮はちょっと手間だけどあらかじめ剥いてから潰した方がいいなー」


 ぶちぶちとマスカラで大豆を擦り潰しながら、すうっと大豆の香りを堪能する。

 まだ少し粒々が残っているが、見た目だけはだいぶきなこっぽい。

「あ、うん。だいぶきなこ」

 ちょっとだけのつもりで、ぺろっと舐めてみる。

 材料が同じなのだから当たり前だが、それはきなこだった。


 個包装の大豆の皮を剥き、さらにボウルに追加する。

 餅に絡めるのであれば、まだまだもっときなこが必要だ。

「わーい、なんかすごいつるつる剥けるーおもしろーい」


 なにか変なホルモンとかそういうのが出ていたのかも知れない。

 私は片っ端から個包装の豆を開けては皮を剥き、次々とそれを潰していった。


 先輩にもらった炒り豆は、個包装の豆がいっぱい入った豆まき用の大袋だった。


 ……今だからひとつ言わせてもらおう。

 いくら節分だからって、後輩に差し入れする豆の量として、大袋どーん、はどうかと思う。

 個包装の意味。

 責任転嫁と笑うなら笑え。


 ピー


 聞き慣れた音と美味しい匂いに、はっ、と正気にかえる。

 予約炊飯になっていたごはんが炊けたのだ。


「やばい、ついめっちゃ夢中になってた……」

 気が付けば目の前には、大量の個包装のビニールとボウル一杯の手作りきなこ。

 そして……何故かきなこまみれになっているマスカラ。


 意味がわからない。


「しかもこんな大量のきなこ、どうすんのさ……」

 ごはんが炊けてしまったからには、すでに当初の予定であるきなこもちの出番はない。

 

「……ま、作っちゃったもんは仕方ないか」

 幸か不幸か、原料となっている炒り豆の賞味期限はそう短いわけではない。

 地道に食べ続ければ、そのうちなくなるだろう。

 餅もまだたくさんあることだし。


 とりあえず、と私はごはんのおかずにさば味噌缶を開け、スマフォを取り出した。

「えー『きなこ 大量消費』っと……」


 このやたらと香ばしくてウマいきなこの、消費手段を検索するために。

ところでうちの節分の掛け声って「鬼は外、福は内。鬼のめんたまぶっ潰せ」なんですよ。


長年、友人らに「なんでお前んちの節分はそんなに物騒なんだ」と言われてきましたが、どうもこれは宮城とか山形とかあのあたりの風習だそうで。


言われてみれば、確かに母方の本家は山形だったなぁ……と。

でもわりとこの殺傷力高めの掛け声、嫌いじゃなかったりします。


次回更新は3/25です。

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