表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごはんとワルツを  作者: 明石家にぃた
19/52

高難度・胃袋異文化コミュニケイション

たまにはこういうこともあります。

人間だもの。

 〝消費期限〟はさすがにちょっと気にするけど、〝賞味期限〟を気にしないひと、というのはわりと多いと思う。

 よっぽど神経質になっている家でもなければ、ふだんは使わない調味料、粉もの、乾麺、缶詰あたりは、どこの家でもひとつくらいは期限が切れたものがあるのではないか……


 ほら、缶詰とかは期限切れたぐらいが熟成して美味しいってどっかで言ってた気がするし。

 どこか忘れたけど。


 で、まぁうちの職場にはいわゆる「賞味期限をすげぇ気にするひと」がいるわけで。

 とはいえフードロスがうたわれるこの時代、お金出して買ったものでもあるし……という葛藤の末、そこら辺にまったくの無頓着であるワタシがただ得をする、という寸法である。


「とはいえどう食べたもんか」

 野菜などのナマモノはあまりに大量だと困るが、比較的傷みにくいお菓子や乾物は大歓迎だ。


 しかしこれはさすがに未知すぎる。


「なんかダイエットにいいらしいけども……」

 これを寄越したセンパイいわく「途中で飽きちゃって」とのことなので、あまり効果は期待できそうにない。

 万年ダイエッターであるセンパイの三倍ぐらい、私は飽きっぽいのだ。


 流行っているらしいから、と始めたゲームアプリも、一週間と保たずに存在を忘れてしまうくらいには。

 ていうかテレビのCM見てたった今思い出したわ。


「なるへろ、要するに押し麦なのね」

 いわゆるオートミール。

 海外の映画とかでよく朝ごはんに出てくるやつ。

 で、これはいちど蒸してあるので、おかゆのように水でふやかしてより簡単に食べられるタイプ。


 カロリーはそこそこあるが、繊維が豊富で低糖質。

 たんぱくしつも比較的多いのでダイエット向き。


 ……ただしそれ自体に味はない。


 ふむ。そもそも白米大好きっこの私が主食の代替えとして普通に食べきるには、なかなか難易度が高そうだ。

 ヘタするとこれは、味付けたオートミールをおかずに白米食べそう。

 そうなると副菜か……


「ハァイジョージ、ダイエットのためにオートミールを食べようと思うんだけど、おかゆ以外で簡単に美味しく食べるおススメの方法は何かしら?」


 その辺に立てかけてあったお玉がジョージ。

 ちょっと歳が離れているが、シルバーブロンドが似合う高身長のイケメン(妄想)


「……なんだいジェシカ、君はちっとも太っていないよ!むしろ太ることでこの世にいる君が増えて僕は大歓迎さ!」


 そして、最近少しふっくらしてきてしまった金髪の女性(妄想)であるジェシカが私だ。

 お玉もといジョージをふりふり。

 こういうのは茶番だとわかった上でするから楽しいのだ。


「もう、ジョージのバカ!ふざけないで!」 

 ジョージが困ったように小首を傾げる。

「本気にとってもらえないのは悲しいが……そうだね、じゃあそんなジェシカにはこれなんかどうだい?」

 

 なるほど、プロテインバー。

 主食の代替えっていうからついごはん的なものを想像していたが、要するにシリアルとかグラノーラ的なものと考えれば、よくある大豆のアレと似たようなものが作れる、と。

 

「なにはともあれ、れっつトラーイ」


 ちなみにプロテインはある。

 買ったはいいが飲み忘れまくって持て余してるのが。

 ちなみにココア味。


 オートミールは水を入れてレンチンするとはやく柔らかくなるらしい。

 プロテインどばー

 ついでにおつまみ用に買ってあるミックスナッツを砕いてどばー

 で、混ぜる。


「……うーん、これは」


 どうひいき目に見ても、不味そう。

 ていうか普通に水分多いなコレ。 


 調べたら、卵を足してオーブンで焼く、というリカバリー方法を見つけた。

 水分が多すぎたときに有効だとか。


「……ワンチャン、やってみるか」


 卵を割り入れ、よく混ぜる。

 見た目のひどさが五割増しだが、きっとどうにかなると信じるしかない。


 オーブンを余熱。

 クッキングシートに生地を広げてのばし、祈る思いでその箱の中に収める。

 果たしてこの箱が、奇跡を起こすマジシャンのイリュージョンボックスとなるか、ただの棺となるかは、神のみぞ知る。


「アーメン、どうかこの哀れなダークマターに神の祝福を」


 焼き上がりを待ちながら、スプーンに残ったダークマターをちまちまなめる。

 プロテインがココア味でよかった。見た目はひどいが、食べられないほどではない。


 終末の鐘。

 審判のときは来た。


「さて……匂いだけは美味しそうだけど……」

 はじっこの方を少しだけ切り落とす。

 思っていたより柔らかい。

 

 おそるおそる齧りつく。

「……オーマイガー」


 味が、ない。

 甘くもないししょっぱくもないし、なんならココアの風味や香りもほぼゼロ。

 いや、しょっぱいもん何も入れてないのに塩気があったら怖いけども。


 まるで擦り切れた毛布でもはみはみしてるみたいな食感。

 ときどき混じるナッツの粒がアクセントにはなっているが、だからどうした、というレベル。


 あっれー、これもしかしてヘタなことしない方が美味かったのでは?

「……まぁ食べるけどさ」


 焼きしめた分、多少日持ちはするはずだ。

 切り分けてフリーザ―バッグに入れてみたら、いちおう見た目だけはそれっぽいのが、無性に腹立たしかった。


料理下手にはいくつかパターンがあるそうで。

「レシピ通りにやらない」というのがいちばん多いようです。

心当たりがありすぎて、とても胸が痛いです。


良い子のみんなはちゃんとレシピみながらお料理しようね!


とはいえ天下のクック○ッドもときどきやばいレシピ(ハチミツ入りの離乳食とか豚の生肉調理とか)があるらしいので、油断は禁物なのですが。


次回更新は4/25です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ