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ごはんとワルツを  作者: 明石家にぃた
18/52

海の向こうははるか遠く

先日、正月休みを使って家族旅行してきたのですが、私はそろそろひとり旅行に行きたいのです。


でもひとり旅行出来るひとって少数派らしいですね。

少なくともうちの母親と妹はダメそうです。

父親はどうかなぁ……

 素敵なものをもらってしまった。


 私は絵にかいたよーな満面の笑みで、いつもよりちょっとだけ丁寧に愛用のボディバッグを床に落とす。

 いびつな形に歪んだバッグを開ければ、四角い缶がみょみょんと飛び出してきた。


 さて、今日は同僚のひとりが連休から復帰した。

 どうもバカンスに行ってきた様子。

 荒れ模様続きでロクにお天道さまを拝んでいない青白い顔の私たちとは裏腹に、その顔は少しだけ日焼けして艶々している。


 よければどうぞ、と、上司ウケする笑顔で抱える、お菓子の大きな箱。

 お土産話のついでにそれらにわいわいとそれらに群がる、上司や後輩、同僚たち。


 ちゃんと全員の分あるのでどうぞ遠慮なく、と差し出された箱に手を伸ばし、黒糖味のそれをひとつ取り出すと、その浮かれた顔がさらに嬉しそうに華やいだ。

『あったりー!』

 そう言われて、お土産としてはメジャーなあのクッキー(材料からするとサブレの方が近いか?)のパッケージを裏返すと、赤い油性ペンで大きく【ポーク】と書かれていた。


 あーいう陽キャタイプの人間と関わるのはあまり得意ではないが、それはともかくキャンペーンとかクジに当たるのは、悪い気はしない。

 それが、何かいいものがもらえるならなおさら。


 さほど友好的な性格ではない私ですらそう思うのだから、突如『お土産争奪くじ引き大会』と化した職場は大変盛り上がり、あたりを出した人はなんかもうヒーローインタビューか、ってレベルで取り囲まれて尋問されていた。

 ちなみに他には【ハブ酒】と【ちんあなご】と【貝殻】があったらしい。


 なお【ポーク】である私も当然、取り囲まれた。

 正直『今のお気持ちは!』とか聞かれても『お、美味しそうです……』くらいしか答えられんわ。


 しかし、ちょっとしたお菓子のお土産にあたりクジをつけるセンスは、なかなか面白いな、とは思う。

 すげぇな陽キャ発想。


 まぁ私なら間違いなく十把一絡げで、いっぱい入ったお菓子をどーんと付箋つけて置いておくだけだろうけど。むしろ旅行行くことすら黙ってて買って来ない可能性すらあるけど。

 

 というわけでポークである。要するにランチョンミート。

 一般的にはスパム、とも言われるが、あれはどうやら商品名らしい。

 

 せっかくなのでスーパーで同郷のドラフトビールなんかも買ってきてみた。

 これは別に物産展的なイベントでなくても、ちょっと大きいスーパーにでも行けばわりと普通に売っている。


 ビールは普段あまり飲まないけど、まぁたまにはね。

 しかしつまみが、こいつをかりっかりに焼くだけってのもつまらない。

 そうなれば……まぁアレか。


 ビールを冷蔵庫にしまい、おもむろに野菜室をあける。

 確かこないだナムルにした残りがまだあったはず。

 子どもとかは嫌いな子が多いイメージだけど、私は好きだからだいたい買い置きしてるし。

 なんたって緑黄色野菜だから栄養価も高いのもいい。

 ついでに見た目も可愛い。

 

 あとはもちろん、生でよし、ゆでてよし、焼いてよし、の、らくちんたんぱく質の卵ちゅわん。

 もうこの子がいれば自炊なんて怖くない。

 ひとり暮らしになってからは冷蔵庫からほとんど切らしたことはない、正義の味方のような食材だ。

 最近、お高くなってきたのが玉にキズ。


 本当は専用の器械を使うのが正式なのだが、まぁ現地民でもないのに持ってるわきゃないよね。

 現地では『一家に一台!』みたいな扱いらしいけど。


 とりあえずフライパン。

 ごま油はたっぷり。

 弱火でじわじわ温めながら、野菜室から取り出した人参をがっしゅがっしゅとピーラーで薄切りにしていく。

 人参はたっぷり入れた方が美味しいのに、いちいち包丁で千切りとかささがきするのはめんどくさいし、スライサーは指までおろしそうになるのでちょっと苦手。

 あとピーラーだとフライパンにダイレクト投入出来るので洗い物が少なくてラク。

 もちろん皮はむかない。めんどい。


 えんぴつのように細くなっていく人参をくるくる回しながら、ノリノリで手を動かす。

 ついでに尻も振る。

「にんじんしりしり~♪いっぱいしりしり~♪ついでにおしりもふりふり~♪」


 あっという間にオレンジ色のリボンがこんもりと山になるが、どうせこれも加熱すればすぐにしぼんでしまうのだ。容赦なく残りの人参を削りはじめる。

 ふりふり。しりしり。


 根元の、うまくピーラーでは削れないところはそのまま齧る。

 芯のところはさすがに捨てる。

 葉っぱを育ててみようとしたこともあるけど、食べられる量になるまでに枯れた。


 その隣ではミニフライパンに適当な大きさに切ったランチョンミートを並べ、そのままじわじわ表面を焼く。どうせならどっちもアツアツで食べたいし。


 しりしりしまくった人参がわずかにしなっとしてきたところで、卵を割り入れる。

 これもダイレクトアタック。

 人参と絡めるようにして炒め上げる。

 味付けは塩コショウ。ついでにちょっとめんつゆ。

 それから何故か粉チーズ。

 いや、なんか美味いんじゃないかと思って。

 

「……沖縄かぁ、いつか行ってみたいなぁ」

 そういえば、両親の新婚旅行は沖縄だったのだと聞いたことがある。

 当時のことを聞いても、母親はツンデレ……もとい恥ずかしがって教えてくれないけれど。


 思い浮かぶのは、青い海と白い砂浜。

 シーサーは口開いてんのと閉じてんの、どっちがオスでどっちがメスだっけ?

 ゴーヤは以前、居酒屋かどっかで食べたことがあるけれど、苦いのはあんまり好きじゃない。

 他にも美味しいもの、いろいろあるんだろうな。

 パイナップルとかの南国フルーツも有名だし。


「……あ、でもさすがにひとりで行くのは怖いなぁ」

 ランチョンミートが焦げる前に、火を止める。


 窓の外は未だ雪景色。

 春はまだ、来そうにない。

ちなみに私はサトウキビ齧ったことあります(ドヤァ)



次回更新は3/25です。

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