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ごはんとワルツを  作者: 明石家にぃた
14/52

真夜中のステップ

これ書きながらいろいろ調べてたんですが、そんな内容だったんですねアレ……

火を囲んで水を喜ぶのか……

 夜更かしするとお腹すくよね、っていう。

 日付はすでに越えている。

 もうちょっと具体的に言うと、いわゆる丑三つ時くらい。

 やることやってテッペン前に布団に入り、まぁでも明日休みだし、と読みかけの本を読み始めたら止まらなくなってしまい、このザマである。


「ちゃんとごはん食べてるのになぁ……」

 朝ごはんに小さめのおにぎりとゆでたまご食べて出勤して。

 昼はちょっと忙しかったからコンビニの惣菜パン三つ。

 で、夜は面倒だったから、どんぶりのなっとうごはんと残り物の根菜の煮物で済ませた。


 そのあと晩酌にビール二本。つまみは乾きものを少々。

 あとは最近ハマってる、ただ焼いただけの目玉焼き。

 ちなみに今日はポン酢で食べた。


 まぁ栄養バランスとしては偏ってはいるが、量はそこそこ食べているはず。

 間食もしてるし。

 それに、私の言う〝小さめ〟はコンビニおにぎりいっこぶんをゆうに越えることを、私は経験で知っている。

 同僚の中にはお昼ごはんはおにぎりひとつにサラダとか、ちょっとしたおかず、みたいな人がいるが、あんなもん私からしたらただの前菜である。

 

 以前、テレビでやっていたという「回転寿司における女性の平均皿数」が休憩中の話題にあがり、実際のところはどうなのかと問われて正直に言ったら同僚にドン引きされた。

 

「とりあえずごはんはあるとして……」

 本当なら明日の朝にお茶漬けにでもしようと思っていた分だが、まぁ冷凍庫にもごはんはあるし、別に使い切っても構わない。

 食パンもあるし。

 

 いつもの戸棚から発掘したのは焼きのり。

 あとはハムとスライスチーズとキムチ。それからレタス。

 それからごま油。

 こないだ実家に帰ったときに、母親が教えてくれたやつ。


 ……いや、アレ教えてくれたって言うのかな。


『なんかこう、韓国の料理で、ノリとごはんをパタパタするやつ!』

『おにぎらずじゃなくて?』

『なんかもうちょっとカッコいい名前の』


 で、あーでもないこーでもない、と検索してみたら、どうやら「折りたたみキンパ」なるもののことだったらしく。

 いやそれ、要するに韓国風おにぎらずやないかーい。

 

「まぁ確かに美味そうではあるけどさ」

 もうちょっと具体的に言うと韓国風の太巻きを、より簡単に作れるよう、おにぎらずのようにアレンジしたものらしい。


 まな板にラップを敷き、その上に大きいままの海苔を置く。

 その下半分を、縦に半分……ちょうどズボンみたいな形になるようにハサミを入れる。


 おもむろに、ごま油をたらり。

 海苔全体に平たくのばす。

 

 ごま油は好きだ。

 なにせ香りがいい。

 香ばしくて、甘くて、なんか健康に良さそう。


 そういやばーちゃんまだ生きてたころ、よくいりごま食べてたな、と思い出す。

 ばーちゃんちに行くと、必ず食器棚のところに並んでいた、瓶詰の黒ごまや玄米。

 プラスチックのスプーンが添えられたそれらを、おやつ代わりに食べていた幼少期。

 たまに兄貴がそれを倒しちゃって、ごまを盛大に床にぶちまけたりしてたけど。

 ばーちゃんはもうすでに亡くなっているが、末娘である母親が「私の方が先に死んだらどうしよう」と不安になるくらいには長生きだった。

 

 海苔ズボンの脚の片方に薄く伸ばした白飯を乗せ、それ以外の部分にそれぞれ具を乗せる。

 置く場所のないレタスの切れ端はとりあえずキムチの下に敷く。

「んで、パタパタするんだっけか」

 ご飯を乗せた部分が崩れないようにそっと、チーズのところにパタン。

「うえ……みぎ……次がした、っと」

 さらにそのまま横の、キムチとレタスのところにパタン。

 手前のハムのところにパタン、でフィニッシュ。

 海苔が少ししっとりするまで、そのままラップにくるんでしばらく置く。

「……なんかこれ、アレ思い出すな」

 

 みぎ、ひだり、うしろ、でぴょい、みたいなやつ。

 えーと、なんてったっけ、体育で習った。


「あ、マイムマイム」

 記憶を頼りにステップを踏んでいたら、急に思い出した。

 ……私も母さんの記憶力のこと、どうこう言えんな。


 もうひとつ、今度はボロニアソーセージとツナマヨ、チーズでパタンする。

 これは明日の朝ごはん用。

 いやまぁもう今日だけども。

 

「フォークダンスか……」

 とはいえ正直な話、それにあまりいい思い出はない。

 向こうも自分なんかと手を繋ぐのは嫌だったかも知れないが、こちらだって別に何かしたわけでもないのに、まるで汚いものみたいな扱いをされるのにはとても腹がたった。

 それを当時のうちに言い返せたなら、きっと何かは違ったかも知れない。

 でも私は言えなかった。

 クラスの女友だちは「気にしなくていいよ」って言ってくれたけど、自分が「そういう存在」として扱われたことは、トゲのようなものとしてまだ残っている。

 

「ちょっとカッコいいな、とかって、当時は思ってたのになー」

 あ、キムチハムチーズ美味しい。

 きゅうりとか入れたら歯ごたえあって美味しいかも。


 日付が変わるまで読みふけっていた本は、今流行りの転生系。

 表紙のイラストが好みだったから読んでみたけど、転生要素はストーリーとはあまり関係なく、簡単にいえば「あることがきっかけで疎遠になった幼馴染と大人になってから再会し、恋に落ちる」という、よくある王道の恋愛小説といった感じだった。


 とはいえあんな非現実的な恋は、決して私の元に訪れる日はないんだろうな、と思いながら、私はふたつめのキンパに手を伸ばした。


あと、普通にカラオケでも配信されててちょっと笑ってしまった。

べっさっそん♪


次回更新は11/25です。

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