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第7話 告白



 リアムが目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。そして、ベッドの傍らには両親が座っている。おそらく2人が運んでくれたのだろうと考えつつ、リアムは声をかけた。



父さん(・・・)母さん(・・・)、おはよう」



「ああ、おはよう」


「おはよう、リアム」



「……準備が出来たら行くから、先に2人はリビングで待っていてくれない? 話したいことがあるんだ」



「……分かった。じゃあ俺たちは先に行っておく」


「向こうで待っとくわね」



 そう言った2人は立ち上がり、部屋から出て行った。




 それを見送ったリアムは、机に移動して紙とペンを用意する。



 ――よし、じゃあ準備をしようか。





「ごめん、待たせたね」


「いや、大丈夫だぞ」

「ええ、そんなに待ってないわ」



 リアムは「そっか」と言って、席についた。2人が気を利かせたのか、部屋には他に誰もいない。



「まず、昨日のことを謝らせてほしい――ごめんなさい」


 リアムは頭を机に付きそうなほどに下げると、そこから微動だにしない。



 そんなリアムに困ったように、2人が声をかける。


「気にしなくていいぞ? それに俺らになら、どんなに迷惑をかけてもいい。まあそれよりも、素直に自分の気持ちを言ってくれたことの方が、俺は嬉しかったがな。お前は全く俺らに甘えようとしてくれないからな」


「そうよ、リアム。私たちは“親”なんだから、もっと頼ってもいいのよ? 私、親離れはまだ早いと思うの。時々忘れそうになっちゃうけど、リアムはまだ4歳なのだから。あとね、こういう時は『ごめんなさい』よりも『ありがとう』って言ってくれたほうが嬉しいわ」



 そんな2人の言葉を受けて、リアムは頭を上げる。



「そっか……じゃあ、ありがとう!」


「おう!」

「どういたしまして!」





「――さて、さっそくだけど()が隠してきたことを、言おうと思う」



 それを聞いた2人の顔が真面目なものへと変わった。



 少し間をおいて、リアムは続ける。



「結論から言うと俺は……“転生者”なんだ。それが俺の秘密」



 言い切るとリアムは、不安そうに2人の表情をうかがう。受け入れてくれると言ってくれたし、両親のことを信じてはいるが、それでもやはり不安なものは不安なのだ。



「転生者……なるほどな……」


「ああ、そうだったのね……」



 だが、そんな不安は杞憂だったようで、2人ともどこか納得した様子だ。



「あれ? 驚かないんだ?」


「ああ。“驚き”よりも“納得”の気持ちの方が大きいな」


「そうね……いろいろあった疑問も、それでほとんど説明がつくから」



「……そんなに俺って変なことしてたかな?」


「割としてたな」

「結構あったわよ?」


「そうだったのか……」


 どうやら普通の子供ではないと思われていたらしい、と気づいたリアム。だがリアムもなんとなく自覚はしていたようで、そこまでショックを受けた様子はない。



「まあ、それは置いといて……はい、これ」


「なんだこれは?」

「えっと、何かしら?」


「読めば分かるよ」


 リアムから紙束を受け取り、2人はその中身を読み始める。



「えっと……『名前:レイジ 職業:暗殺者――』ってこれは⁉」


「もしかして……リアムの前世かしら?」



「正解! 俺の前世の記録をその書類にまとめたから、読んで気になることがあれば教えて?」



 そう、リアムは自分の部屋でこれを書いていたのだ。「すべてを話していたら時間がかかりすぎるから、伝えたい情報をまとめてしまおう!」と考えた結果だ。



 そんな息子の前世の経歴書をいきなり渡された2人は少し驚いたのち、集中して熟読し始めた。おそらくリアムのことを少しでも理解したいのだろう。



 そして、しばらく部屋に沈黙が落ちた。



 ――おや? ずいぶんとじっくり読むんだな?



 リアムは「この程度の書類なら、読むのに10秒もかからないだろう」と考えていたので、この展開は少し予想外だった。


 だが、全10枚からなる書類を10秒で読むなど、普通に考えて不可能である。余裕で10秒は過ぎたが、それでもかなりの速さで2人は読み終わった。



「ふぅ……なるほど、いろいろ分かったぞ」


「すごい人生だったのね……」



「それで、何か疑問点はある?」



「そうだな、まず最初の方に出てきたこの〈心殺(しんさつ)〉というものを、もう少し具体的に教えてくれないか?」


「それは私も聞きたかったわ。ここには『心を殺すようなこと』としか書いてなかったからね」


「ああ、〈心殺〉ね。簡単に言えばそこに書いてある通り、心を殺すってことだよ。一切の感情を持たず、忠実に命令に従い、常に理性的に動くための訓練――いや、洗脳だね」



「ちなみにその方法は……?」



 息をのみながらグレイスが尋ねた。




「まず、物心つく前から特殊な施設に入れられる。そこでは日常的に殺人が起きるんだ。言葉もろくに話せないときから目の前で“殺し”が行われる。そして、様々な拷問を日常的に受ける。顔を殴られたり、腕を切られたりね。そして、『全ては我が祖国の為に――』みたいなのをずっと聞かされて復唱させられてね。ろくな会話もできなかったな。あとは近い年の子供同士で殺し合いもするんだ。他にもいろいろあったけど……まあ、そんな環境が当たり前で、その中で生き残る(モノ)は命令に忠実に働く道具になるんだよ。だから簡単に言えば“洗脳”だね」




 まるで過去を懐かしむかのように、あっけらかんと話された内容に、2人は絶句する。



 そして、グレイスは“怒り”を、ティスアは“悲しみ”をその顔に浮かべた。



「その組織はふざけているのか⁉ 子供に洗脳だと⁉ いったいどういう神経をしてるんだ! そして何より、そんなむごい仕打ちをリアムにしていたことが許せんッ!」


「うぅ……可哀そうに……辛かったでしょう? そんな仕打ちをリアムが受けていただなんて、本当に許せないわ!」



 そんな2人の様子に、今度はリアムが驚く番となった。正直、ここまでの反応が出るとは思っていなかったのだ。そして何より――2人はリアムのことを想って怒っている。その事実が、リアムの心を温かく満たしていく。



「大丈夫だよ、前世では心なんてなかったんだから。辛いとか苦しいなんて、感じたことないよ? それに……2人が俺の為に怒ってくれていることが、今一番嬉しいんだ! こんな温かい気持ちは2人のおかげで抱くことができるようになったんだ。だから本当に、本当にありがとう! 俺の灰色だった世界に色を付けてくれて、ありがとう!」



「「リアムっ!」」



 心の底から明るく笑うリアムに、2人はたまらず抱き着いた。



「んんっ! で、聞きたいんだけど、俺が転生者であることは秘密にしたほうがいいよね?」



 リアムが少し空気を戻して、そう話しかけた。


 少し落ち着きを取り戻した2人がそれに答える。


「そうだな、秘密にしておくべきだろう。転生者だと知れ渡ればいろいろ厄介事が起きるだろうからな」


「私もそう思うわ。当分は、誰にも話さないでおきましょうか」


「だよね。じゃあ、このことはこの3人だけの秘密ってことで」


「了解」

「分かったわ」



「……あ! そういえばまだ〈心殺〉についてしか説明してないけど、他に聞きたいことある?」


「そうだな……なら、ここに書いている銃って――」


 ――ぎゅるるる


 ハッ、とリアムは顔を少し赤くしてお腹を押さえる。


 そんなリアムに笑みを浮かべながら、グレイスは提案する。


「朝食がまだだったな。続きは食べながら話そうか」


「そうね。そうしましょうか」



 そして、グレイスは外で待機していた使用人に朝食を頼んだ。その後の朝食の時間も、また3人だけにしてもらっていろいろ話し合った。



「今日の朝食は、昨日の夕食よりもはるかにおいしいな」とリアムは思いつつ、家族水入らずの時間を楽しんだのだった。



お読みいただきありがとうございます。


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