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第6話 家族 (2)

今回はリアムの父――グレイス・アルテーン視点でお送りいたします。



 ――リアムは何かを隠している。



 そのことには、ずいぶんと前から気がついていた。だが夫婦で話し合った結果、それに触れないようにしていた。「隠したいなら秘密のままでいい。無理やり聞き出すべきではない」という結論に達したからだ。



 リアムは普通の子供ではなかった。いや、異常(・・)だったと言ってもいい。特にその眼は異質だった。すべてを観察しているようで、俯瞰(ふかん)的であり、どこかこの世のものとは思えないような力を感じる眼だった。


 実際、訓練場で見られる時は毎回ゾクリとしたものだ。まるで強力な獣に虎視眈々と狙われているような、そんな気分だった。



 また、妻から見てもやはり異常に感じられるらしい。なんと産まれた時のリアムは、全く魔力を持たない状態だったと言うのだ。


 通常、人間は産まれた時には、もうすでに微量ながら魔力を持っているものだ。それなのにリアムの魔力量はゼロ(・・)。何かの病気なのかとその時は焦っていたが、結局原因は分からなかった。


 しかし、しばらく経つと魔力量が増えていったらしい。それも急速に。魔力の流れを視る(・・)ことができる妻はとても驚いていた。



 それ以外にも、異常な点はいくつもあった。




 ――しかし、そんなことはどうでもいい。




 待ちに待った我が子だぞ? ただでさえ出生率が低いエルフ族と竜人族。しかもそのハーフとなるとさらに出生率は下がる。


 そして、妻と結婚してから約80年。ずっと、ずっと待ち続けていた。妻の妊娠が判明した時はそれはもう、嬉しかった! 長い人生でも、あれほどの幸せを感じた時はなかった。



 そして――リアムが産まれた。



 ああ、なんと愛おしいのだろう。その時に俺は、どんなことが起きようと必ず守ると強く決意したんだ。


 だから、例えどんなにリアムが異常でも、異質であっても……俺の命より大切な息子である事実は変わらない。





 しかし、最近のリアムは何かに苦しんでいる。



 そして俺は、それに触れていいのか分からない。全くもって不甲斐ないが、夫婦で話し合ってもしっかりとした答えはでず、結局リアムから言い出してくれるのを、待つことになった。


 だが、リアムから相談してくれることは無いと、なんとなく思った。リアムは俺たちに心を許してくれていない。普段の様子は……おそらく演技だろうな。自分の子供のことだ。ずっと見ていれば自ずと分かる。



 それでも、俺たちはリアムの意思に任せることにした……いや、綺麗事だけを言っても仕方ないか。ただ、俺たちは弱腰に、消極的になってしまっていただけだ。



 今日だってそうだ。剣術の時間、リアムは一瞬苦しそうにしていた。それでも核心に触れていいのか分からなくて「具合が悪ければ、いつでも言えよ?」とごまかしたように言ってしまった。



 今思えば、それがダメだったのだろう。もっと積極的に話しておくべきだったのだ。もう一歩、踏み込むべきだったのだ……




 そして夕食の時間。リアムがまた苦しそうにしていて、心配になった俺たちが声をかけたその時――



 ――紛れもない殺意を、それも極めて強烈なものを感じた。



 そして俺はつい、反射的に身構えてしまった。



 幸い、リアムからの殺意は、すぐに霧散した。



 しかしリアムは……苦悶に満ちた表情になり、部屋から飛び出て行ってしまった。


 咄嗟のことで体が動かなかったが、「ドカンッ!」という何かが壊れる大きな音と伝わってきた振動を感じ、慌てて俺たちもリアムの後を追った。





 部屋を出ると壁に空いている大きな穴が目に入った。おそらく壁を破壊して外に出たのだろう。その穴を通り外に出ると、訓練場に一人うずくまっているリアムを見つけた。


「「リアム!」」


 リアムの名前を呼ぶ俺とティスアの声が重なった。訓練場の周りには騒ぎを聞きつけたのか、使用人や騎士たちが集まっている。


 俺たちはリアムのもとに駆け寄ろうとした。だが――



「来るなッ!」



 ――リアムに拒絶されてしまう。



 近づいて刺激するのは危険だと判断し、ここから声をかける。



「リアム! いったん落ち着いて話をしよう! 大丈夫だから、こっちに戻っておいで!」


「そうよ、リアム! どんな話でも、悩みでもちゃんと聞いてあげるから! そんな場所に居ないで、こっちへおいで!」



 俺たちの声に反応したのか、リアムが顔を上げた。落ち着いてくれたか! と安堵したのも束の間。そのリアムの瞳は暗く濁っており、リアムの身体から膨大な魔力が放出された。そしてその膨大な魔力が、俺たちに強力な圧力を与えてくる。



 ――マズい! 魔力暴走が起きている!



 慌ててリアムに駆け寄ろうとしたが、リアムの口から出た言葉を聞き、その足を止めてしまう。



「なぜだ⁉ なぜ私に、優しくする⁉ なぜ私に構う! お前たちと話していると胸が痛くなるんだ! もう、何も考えたくない! 分からない!」



 ――は?



「なぜ、なぜだって? そんなもの、当たり前だろッ! お前は俺の息子だ! どんなことがあってもその事実は変わらない! 自分の息子に優しくすることなんて、自分の息子を愛することなんて、当たり前だろッ!」


「だが! 私はずっと隠し事をし続けていたのだ! 普段の子供らしい仕草だって、すべて演技だ! それにさっきは、お前たちを害そうとしたのだぞ!? そうだとしても、まだ私を愛すると言えるのか!?」



 リアムからあふれだす魔力の圧力が強くなる。



 ――ああ、こいつはずっと罪悪感を感じていたのか。クソッ! 今まで気付けなかった自分が情けない!



「だから、当たり前だと言っただろうッ!」



 そう言ってリアムに駆け寄り、抱きしめる。小さい子供の身体のどこにそんな力があるのか分からないが、引き離そうとする強い力を感じる。だが、そんなもので放してやるものか!



「何かを隠していることも、普段の仕草が演技だってことも知っていたさ! リアムが俺たちに気を許していないこともな! でも、そんなことはどうでもいいんだよ! どんなこと隠していようと、俺はそれを受け入れる! だから……一旦落ち着いて話をしよう」



 魔力の圧力と抵抗する力が少し弱くなる。



「本当、に? ずっと騙そうとしていた私を許してくれるのか?」


「ああ、許すとも」


「さっきは、殺意を向けてしまったのに?」


「あの程度、どうってことないさ」


「そうか、そうか……」



 リアムの気持ちが落ち着いたのか、魔力の暴走が収まった。



 今までその魔力から使用人たちを守っていた妻もやってきて、2人でリアムを抱きしめる。




「本当に私を受け入れてくれるのか? 家族だと、思ってくれるのか?」



「もちろん、どんなリアムだって受け入れてやるさ」


「ええ、私たちは家族なのよ? リアムを見捨てることなんてしないわ」




「ねえ、2人は私を愛してくれるの?」



「もちろん、ずっと愛しているとも」


「当たり前じゃない、ずっと愛しているわよ。これまでも、これからも」




「――私は、心を持ってもいいのかな?」



「そんなの、当たり前だろう?」


「そうよ、自分の心を殺すのはダメよ?」




「――私は、2人を愛してもいいのかな?」



「当たり前だ」


「許可なんていらないわよ」



「――ありがとう。ありがとう……っ!」



 そう言うと、リアムは赤子のように泣き始めた。ずっとずっと、これまでの苦しみをすべて吐き出すかのように泣き続けた。



 そして、俺たちはリアムが泣き疲れて寝てしまうまで、ずっとリアムを撫で続けた。



お読みいただきありがとうございます。


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