表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/36

第2話 転生

さっそくブクマしていただき、ありがとうございます!



 その日、アルテーン家にいる誰もが落ち着かない様子だった。



 もちろんそれは、アルテーン家当主――グレイス・アルテーン辺境伯も例外ではない。むしろ、一番緊張しているのが彼である。


 しかし、それは当然のことと言えよう。なぜなら、彼の妻――ティスア・アルテーンの陣痛が始まり、いつ子供が産まれてもおかしくない状態だからだ。



 ずっと待ち望んでいた子供の誕生。グレイスは自分の持つ権力や人脈をフル活用し、万全を期している。しかしそれでも、彼の不安は消えることはない。むしろ時間が経つにつれ、不安は積もる一方だ。


 部屋に入り見守りたいが、立ち会い出産を妻は望んでいない。そもそも、この時代に立ち会い出産をする家庭はほとんどないのだが。




 どうしようもない不安から、妻のいる部屋の前をうろうろとグレイスは歩き続ける。


 その様子に苦笑いしながら、彼の右腕でありこの家の執事長であるオルランド・コルサが声をかける。


「少しは落ち着いたらどうですか? お気持ちはお察ししますが、グレイス様が今できるのは祈ることだけですよ」


「それは、分かっているが……もう何時間も経っているのだぞ? それに今回がティスアの初めての出産だ。落ち着いていられるわけないじゃないか」


 たまに聞こえてくる妻の苦しそうな声に毎回ビクッ、としながらグレイスは子供の誕生をひたすらに待つ。その表情は自分の無力さを悔やんでいるかのようだ。


「とりあえず、気持ちを落ち着かせる効果のあるハーブティーを入れますね」


「ああ、ありがとう」



 グレイスが椅子に座って、ハーブティーを飲みながらその時を待っていると、部屋から「おぎゃあ、おぎゃあ!」という元気な声が聞こえてきた。


「産まれたのか!?」


 バッ! と立ち上がり、部屋に駆け込もうとするグレイスを、コルサが引き留める。


「ちょっと待ってください! 誰かが部屋の中から出てくるのを待つべきですよ!」



 それを聞いたグレイスは、しぶしぶ部屋に駆け込むのを止める。しかし――




 部屋の中から悲鳴が聞こえてきた。



 それと同時に、なにやら部屋が騒がしくなる。



「どうした! 何があった!」


 完全に冷静さを失ったグレイスは、部屋の扉を勢いよく開ける。


 そして……妻の腕の中で大量に鼻血が出ている、血だらけの赤ん坊を見つけた。



 あまりにショックな状況にグレイスはーー


「グレイス様ァ!?」


 ーー白目をむいて気絶した。





「……はっ!」


 グレイスが目を覚ましたのは、気絶してから約30分後だった。そして、気絶する直前に見た光景を思い出し、彼は顔を青くする。


 慌てて周りを見渡し、隣のベッドにいた2人を見て、思わず彼は叫んだ。



「ティスア! リアム!」



 ちなみに子供の名前は男でも女でもいいようにと、事前に妻と話し合って“リアム”と決めていた。



「リアムは無事なのか?」


 そんな必死な様子の夫をほほえましく思いながら、ティスアは答えた。


「ええ、この子も私も無事よ。まったく、部屋に駆け込んでくるなり気絶して、本当に驚いたわ」


「ああ……よかった。本ッ当に、よかった」


 グレイスは安堵から、膝を地面につけ涙を流す。その様子を見つめながらティスアは「しょうがない人ね」と言い、グレイスに抱っこしてみてはどうか、と提案した。



「いいのか?」


「当り前よ。あなたはこの子の父親なんだから」



 そう言って渡された我が子を壊れ物を扱うように優しく、グレイスは抱きかかえる。



 そしてグレイスは、我が子の重みを感じて初めて――“父親”になった気がした。



 これからこの子には、どんな未来が待っているのだろうか? どんな子に育ってくれるのだろうか?



 未知数なリアムの成長を祈りつつ、改めて父親としての責任を感じる。



「これからどんなことが起きようと――必ず、お前を守ってやるからな。リアム」





 “私”が“リアム”に転生してから1年が経った。転生して最初に驚いたのは、両親がただの人間ではなかったことだ。


 父は竜人族、母はエルフ族らしい。竜人族の特徴は、消すこともできる鱗があることで、エルフ族の特徴は長くとがった耳だ。


 それ以外の特徴についてを調べる(すべ)を、今は持っていない。まあ、いずれ調べていくとしよう。



 そして私は竜人族とエルフ族のハーフということになるのだが、外見は完全にエルフ族だ。鱗は無く、耳が長くとがっている。自分の耳が長いことに最初は違和感があったが、さすがに1年も経てば慣れた。



 ちなみに父は紫がかった黒髪と、鋭い黄金の目をしている。そして母は、セミロングの銀髪とサファイアのような瞳をしており、その長い両耳には大きなイアリングを着けている。エルフの文化では、イアリングをつけることが既婚者であることの証らしい。



 そして私は、母に似た銀髪と父に似た黄金の瞳を持っている。両親は私の容姿を見て「この銀髪はお前にそっくりだな!」「それを言うなら、この瞳はあなたにそっくりよね?」なんて会話をよくしている。どうやら夫婦の仲はとてもよいようだ。



 また、ディアも言っていたがこの世界には魔法が存在するらしい。“気”とは別のエネルギーを使っているようで、それは元の世界にはなかったものだ。魔法を見たので断言できる。気を操る“気操術”とは全く異なる能力だ。


 私が気を集めていると、気とは別の“何か”も集まっきて、初めは驚いたものだ。それがどうやら魔法のエネルギーであると判明してからは、そのエネルギーも集めるようにしている。



 魔法の使い方はある程度予測できるが、しっかりと教わってから扱うべきだろうな。不用意に試せば何が起きるか分からない。実際、気操術には正しく運用しなければ理性を失ってしまう走火入魔(そうかにゅうま)に陥ってしまう可能性もあるからな。



 ちなみに生まれ変わったことで、前世で丹田に溜めてきた気は全て失ったようだ。まあ、それは仕方ないだろう。もう一度、ゼロからのスタートだ。とはいえ、前世で培ってきた技術と経験は失っていないので、そのアドバンテージはしっかりとあるがな。




 そして、ディアが私に与えたという“能力”だが、これはおそらく〈高速思考〉と〈並列思考〉だろう。産まれてすぐに、それも一瞬で記憶を定着させるというまさに神業(・・)をしたんだ。普通の頭なら、処理が追い付かずに死ぬぞ? 簡単に。


 まあ、そのおかげで鼻血という軽症で済んだわけだが……この能力、強力すぎではないか?


 〈高速思考〉は習得の難易度が高すぎるというわけではない。難しいのは確かだが、気操術で身体を鍛練していけば、処理能力も向上していき、自ずと習得できる。


 しかし〈並列思考〉というのは才能があるのならともかく、その技術を習得するには特別な鍛錬が必要になる。ただし、どれほど鍛錬しようともできるようにならない人もいる程に、習得は難しい。


 前世の私でさえ習得には苦労した。それが生まれつきできるとは……そしてこれらの能力は、これからの鍛練でさらに成長することだろう。本当にいい能力を与えられたな。



 この2つの能力を活用して、気や魔法のエネルギーを集めたり、言語の習得を目指したり、気配察知能力を鍛練したり……と色々してきた。そのかいあって、言語はだいたい理解でき、最近は文字も読めるようになってきた。まあ、まだまだきれいに発音することはできないのだがな。




 ……この1年を経て、1つ疑問に思ったことがある。



 “親”とは何だろうか?



 私が笑ったり、「まま」や「ぱぱ」と言うと両親はとても嬉しそうな表情をする。それが、それだけのことが、何とも言えない幸福感を私に与える。こんなことは前世ではなかった。



 ……この感覚はなんだろうか? 分からない……。“家族”とは何だろうか? 分からない。よく、分からない。



 けれども、この感情は、感覚は自分にとって大切なものであると思うから。



 戦いには不必要なものかもしれない。だけど今は――大切に抱いていようと、そう思う。



お読みいただきありがとうございます。


少しでもいいなと思っていただければ、下の〈評価ポイント〉や〈ブクマ〉もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ