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第20話 神獣の住まう聖域 (4)

1日遅れて申し訳ない!



 フェンリルの弔いは、ひっそりとしたものだった。フェンリルが亡くなった後、コルサさんとフェレスさんを呼びつけ、そのまま少人数で行ったのだ。


 ちなみに墓は、フェンリルの住処のすぐそばに作られた。



 一方、フェンリルの子供をさらい、俺たちに襲い掛かってきたあの男たちは、全員拷問されたのち死刑となった。領主を襲ったことに加えて、間接的とはいえフェンリルが亡くなってしまった要因も作ったのだ。それが妥当な処罰だろう。



 拷問の結果、1つ分かったことがある。それは、フェンリルの子供の存在を伝え薬を用意し、捕獲を教唆した人物がいたということだ。


 男たちはその人物に酒場で話を持ち掛けられたらしいが、肝心なその人物についてはほとんど知らなかった。だが、そもそも父さんもフェンリルの子供の存在は知らなかったのだ。念入りに調査しなければ分かるはずのない情報を知っていたその人物には、何らかの目的があったと考えてよいだろう。



 また、フェンリルの子供は現在、アリアとともに過ごしている。いや、世話をしていると言うべきか。食事もアリアが準備しているらしい。「立派に母親役を務めてみせます!」と言っていたので、まあ任せていても問題はないだろう。ちなみに名前は“セラス”となった。白い花の名前からとったそうだ。……そして、言われるまで分からなかったがセラスはメスらしい。



 ――そして今は、これからの聖域の扱いについて話し合っているところだ。



「やはり、聖域を立入禁止区域とするべきではないか?」

「今さら規制するの? ギルド側から文句を言われそうじゃない?」

「元々、そんなに聖域に入る人は少なかっただろう? 特に問題はないだろう」

「立入禁止区域にするなら、見張りはどうするの? 騎士を派遣させるつもり?」

「それしかないだろう」

「聖域はかなり広いわよ? それを完全に見張るとなると、かなりの人が必要になるわ。それに、聖域の住民を守るには人間たちからだけじゃなくて、外から入ろうとする魔物たちも対処する必要があるんじゃない?」

「確かに、荷が重いか……」


「あのさ」


 タイミングを見計らい、俺は声をかける。


「何だ?」


「聖域の管理、俺に任せてくれない?」



 俺がそう言うと、父さんたちは驚いたような表情を浮かべた。



「どうするつもりだ?」


「結局、今問題になっているのはフェンリルという森の守護者がいなくなったからだよね。なら、新しい守護者を用意すれば解決すると思わない?」


「確かにそうなれば、今までと同じような状況に戻せるが……そんなことが可能なのか?」


「うん、俺ならできる」


「……それにはどれぐらいの時間が必要だ?」


「1か月。1か月くれれば、何とかする」


 1か月と聞くと、長いように感じるかもしれないが父さんたちは長命種。何年も生きる彼らの時間感覚からすれば、あっという間に感じるだろう。


「……ティスアはどう思う?」


「そうね……私は任せてみてもいいと思う。新しい守護者を用意できるなら、それが一番いいと思うしね。でも、万が一用意ができなかった場合に備えて、私たちは次善策を考えておくのはどうかしら? あ、リアムを信じていないわけじゃないのよ?」


「それは分かっているよ」


 保険を掛けるのは大切だからな。


「ふむ……なら、任せてみるとしよう。リアム、何が必要だ?」


「1か月の間、聖域にこもる予定だから、その分の食料さえあれば十分だよ」


「それなら、魔法の鞄が必要ね」



 魔法の鞄とは、魔術により容積が見た目以上に大きくされている鞄のことだ。魔術(・・)で作られたものなのに魔法(・・)の鞄……違和感があるが昔からそう言われているらしい。


 ちなみに魔法の鞄はかなり高価なものだ。空間を広げる魔術の難易度が非常に高いため、作れる人が限られているためだ。だが、母さんの作った魔法の鞄は空間の拡張に加えて、鞄の中の時間の進みも遅くなっている。


 そのおかげで食料が腐ることはないだろうが……時間の進みも変えられている魔法の鞄は、普通に国宝級である。



「貸してくれるの?」


「別にあげてもいいわよ? 材料さえあればいつでも作れるし」


 国宝級を簡単に作れる母さんは、やっぱりすごいと思う。


「それにしても、食料だけでいいのか? というか、フェンリルの代わりになる守護者を用意するって、一体何をするつもりだ?」


「それは後のお楽しみ、ってことで」


「……まあいいか。何か困ったことができれば、いつでも俺たちを頼れよ?」


「分かった」


 こうして俺は再び聖域を訪れることになるのだった。



◇



 さて、父さんたちには1か月必要といったが、そのうちのほとんどは自分の鍛錬の時間に当てるつもりだ。そしてできるだけ鍛えた後に、使い魔を創る予定である。


 法陣を用いて創られる使い魔は、その法陣に使われる気の量と質、そしてその法陣を作る者の技術により、強度が変わってくる。


 そして何度も言うようだが、聖域は気操術の鍛錬にぴったりの場所。これからの1か月で俺の能力は飛躍的に向上するだろう。もちろんその後も、この地を使って鍛錬していくつもりだが、1か月もあればそれなりの使い魔を創れるようになるはずだ。



 ……まだ目的地まで時間があるし、あの能力についての考察をしようか。


 あの能力とはもちろん、先日使っていた魂を見る能力、そして魂を斬る能力だ。人間を今世で初めて殺したときに発現したのだ。殺人というのがキーになっていたのだろう。


 そしてこれはたぶん、いや十中八九ディアにより与えられた能力だ。たしかにあの時ディアは、与えられる能力の数も発現するタイミングも明言していなかった。どういう意図があるのかは分からないが、もしかしたらまだ発現していない能力があるのかもしれない。



 ……まあそれについては考えようがないので、頭の片隅に置いておくだけにしておこう。



 そして能力についてだが、魂を見るだけなら代償はないらしい。何度か試したが、魂を見ることでその人の性格がなんとなく分かる。この感覚は何と言うべきか……魂の"色"を見ているような、そんな感じだ。そして、集中して見ることで、その時の思考までも読み取ることができた。


 ……ああ、お披露目会の時などの人と出会った時に、何となくその人のことが分かったのはこの能力のおかげだったのだろうか? 能力が覚醒していなかっただけで、使えていたという可能性もある。


 これは使い道が多そうな能力だな。名前が無いのは不便なので、これからはこの能力を〈心眼〉と呼ぶことにしよう。



 そして……魂を斬る能力。これはまだあの時以外は試してはいない。ディアから与えられた能力の中で唯一代償がある能力だな。まあ、それも当たり前だろう。これが使い放題となると有利すぎる。いや、〈高速思考〉も〈並列思考〉も〈心眼〉も破格の効果を持つが、これはそれらの比ではない。


 この能力はどうしても必要な時以外は使わないようにしよう。……ふむ、この能力にも名前があったほうがいいな。うーむ、シンプルに〈斬魂(ざんこん)〉と呼ぶことにしようか。




 そんなことを考えているうちに目的地へと到着した。眼前に広がるのは神秘的で、神々しさをも感じる湖――そう、龍湖だ。


 なぜここを目的地としていたのかというは単純で、ここが一番気の濃度が高かったからだ。それに水もたくさんあるので水分に困ることはないだろう。まあ、水ぐらいなら魔法で創れるのだがな。



 龍湖のほとりで座禅を組み、深く呼吸をし、意識を地下へと向ける。



 ――やはり聖域には龍脈があり、この龍湖が龍穴となっているようだ。……龍という文字が多くて混乱しそうだな。



 まず、龍脈とは地中を流れる気のルートである。そして、龍穴とは龍脈を流れる気が集中する場所のことだ。この龍穴を上手く活用すれば、膨大な気を扱うことができる。もちろん、生半可な技術で龍穴に手を出してしまうと、走火入魔に陥ってしまうがな。



 まあ、つまり……ここが鍛錬に一番適した場所である、ということだ。



 さて――聖域にふさわしい使い魔を生み出せるように、身体を、気を鍛錬するとしようか。



◇



 あれから1か月後、リアムが家に帰ってきた。



 ――存在感が格段に強くなった状態で。



 聞くまでもない。リアムは明らかに強くなっている。この1か月の間に何をしたらそうなったんだ、と俺が聞くよりも前にリアムがこう言ってきた。



 ――守護者を用意したよ。紹介したいから、今から来てくれない?



 どうやら、本当に用意できたらしい。フェンリルの代わりなんて常識的に考えて用意できるとは思えなかったが、リアムができると言ったんだ。そりゃ、リアムを信じてはいたが……いざ用意できたと言われたら、やはり驚いてしまった。


 ティスアと次善策を考え準備していたが、それは無駄になりそうだな。


 そう思いながら聖域へ行くと……ひしひしとナニカがいるということが伝わってきた。そして聖域に入ってからというもの、常に監視されているような気がする。



 リアムは一体何を用意したんだ⁉ とさらに驚きながらリアムの後をついていったが……ああ、俺はリアムをまだ過小評価していたらしい。



 まったく……開いた口が塞がらないとは、まさにこのことか。



 俺たちの目の前に現れたのは一体の白い龍(・)。そう、龍だ。どことなくフェンリルを思わせる白い毛を持つ、美しい龍がそこに佇んでいた。



 ああ、まったく本当に――なんてものを用意してくれたんだ。



 俺たちが愕然としていると、リアムは軽い口調でその龍を紹介してくれた。



「この龍はハクという名前で、俺が創った使い魔だ。この地に対するフェンリルの想いが強かったのか、毛はフェンリルそっくりになったな。あと、こいつは聖域すべてを監視できるようにしたから、守護者にはぴったりだと思うよ」



「……ツッコミどころが多すぎて、何から聞けばいいのか分からん」


「……本当にね。ちょっと理解が追い付かないわ」




「まあ、でも――リアムに任せてよかった」




 俺がリアムにそう言うと、リアムは嬉しそうに笑顔を浮かべた。まったく、こういうところだけは年齢相応だな。



 リアムはこれからも成長し続けるだろう。俺たちだって、すぐに追い越されてしまうだろうけど……もうちょっとだけ頑張って鍛えるようにしようか。


 俺はふと、そう考えるのだった。



お読みいただきありがとうございます。次の投稿は6/8(火)を予定しています!


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