表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/36

第11話 お披露目会 (3)



「勝者、リアム・アルテーン!」


 ――おぉぉおお!


 審判である父さんがそう宣言したのと同時に、歓声が沸き上がる。



 俺は軽く息を吐いて、シャルロットの首に突き付けていた木剣を下ろした。



 俺は長期戦を予想していたため、できるだけ体力を使わず受け流すようにしていたこともあり、あまり疲れていない。


 対してシャルロットは、攻撃をし続けていたのでかなり疲労しているようだ。



 するとシャルロットが、乱れていた息を深呼吸することで整えて、話しかけてきた。その顔には試合前のような敵対心は感じられない。



「ねぇ、どうしてそんなに強いの?」


「どうして、か……」



 前世の記憶というアドバンテージを持っているからとは、さすがに言えない。それにこの問い掛けは、自分が強くなるためにしているはずだ。なので、シャルロットに活かせないような答えは望まれていない。


 努力は……かなりしてきたのだろう。でなければ、あれほどの実力をつけることはできない。ならばここで「努力の賜物」と曖昧に返事することもできない。


 そうだな……シャルロットがしてなさそうで、俺がしていること。かつ、シャルロットもできることと言えば――



「“観察”かな」


「観察?」



「そう、観察。俺は、剣も握れないような時からよく騎士たちの訓練を見てたんだ。それが活かされているのは間違いない。それに上手い人の動きをよく観察して、その動きを真似ようとしていけば、必ず上達するはずだ」


「……ああ、言われてみればじっくりと見ることってあんまり無かったかも。ずっとボク自身の訓練をしてたから」


「もちろん実践も大切だが、闇雲にやってもあまり効果はない。達人の動きをなぞり(・・・)、身体で理解していけば良いと思うぞ。シャルロットは、どちらかと言えば感覚派だろう?」


「そうだね。ボクは口で言われて理解するより、実際にやって理解する方が得意だよ。でも、よく分かったね?」


「試合をしたらなんとなく分かるさ……そういえば途中から口調が変わっているけど、その“ボク”って言う時が()ということでいいのか?」


「あ……まあいいや。うん、そうだよ。でもそれはお互い様でしょ?」


「まあ確かに」


 そういえば俺も普通に話していたな。



 そんな会話をしていると、父さんや皇帝たちが近づいてきた。



「2人とも見事な試合だったぞ。それにしても……リアムが強いとは聞いておったが、まさかここまでとはな。素晴らしい腕であった」


「お褒めの言葉、ありがとうございます」


 さすがに皇帝と話すときは口調を変えなければな。


「して、シャルよ。約束は覚えておるな?」


 ああ、そういえば「負けられない約束」がある、とシャルロットは試合中に言っていたな。一体どんな約束をしていたのだろうか?


「もちろんです、お父様。私はリアムの婚約者になることを認めます」


 ……ん? 待て待て、今なんと言った? 婚約者(・・・)? 誰の? 俺の⁉


「ちょっと待ってください! 婚約の話なんて、寝耳に水なんですが?」


「それはそうじゃろう。今ここで婚約を申し込むのじゃから」



「……はい?」



「さて、グレイス殿よ」


「はい、陛下」


「貴殿の息子とシャルロットの婚約を認めてはくれんかの?」


「もちろん、私は大歓迎ですよ。あとは、リアム次第ですね」


 即答⁉ いや、少しニヤついているところを見るに、前もって話し合っていたのだろう。ちらっと母さんの方を見てみると、特に驚いた様子もなくにこやかに笑っていた。知らなかったのは、俺だけなのかもしれない。



 陛下もシャルロットも両親も婚約の話を認めており、今この場所には他の貴族たちもたくさんいる。ここで断れば今後にどんな影響を及ぼすか……今のこの状況は、完全に外堀を埋められていると言っていいだろう。



 ……まあ、考えてみれば、この婚約の話は悪いものではない。双方にメリットがあるからな。だが、1つ問題があるとすれば――



「私はエルフ族、つまりは長命種です。寿命の差に思うことはないのですか?」


 種族の違いなので仕方ないとはいえ、無視できない問題だ。これについて抵抗はないのだろうか?


「それはどうしようもないことじゃが、この国にもエルフ族とヒト族の夫婦はおる。じゃから、別におかしいわけではないが……シャルはどう思う?」


「そうですね……リアムを残して先立ってしまうことになるのは心苦しいですが、その苦しみは残されることになるリアムの方が大きいように思います。それでも……リアムさえよければ、私と婚約していただけないでしょうか?」



 そう言ってシャルロットは少し不安そうな表情を浮かべながら、俺に手を差し伸べた。俺に断られたらどうしよう、とか思っているのだろう。俺が断れるはずなんてないのに。



「もちろん、よろこんで。これからよろしくお願いしますね」


 俺はシャルロットの手を取りながらそう言った。



 かくして俺は、第二皇女シャルロットという婚約者ができたのだった。





「初めましてリアム・アルテーン殿。私はスタファン・ヴァルカーレという、この国の宰相を務めている者です。この度はお誕生日並びに第二皇女様との婚約、誠におめでとうございます」


 あの後再び会場に戻り、初めに話しかけてきたのは、白髪の眼鏡をかけている男性だった。宰相――つまりは皇帝の右腕。この国の最重要人物の1人だ。細身ではあるものの、その立ち姿に隙はない。この人もかなりの実力者なのだろう。


「ありがとうございます、ヴァルカーレ卿。お会いでき光栄です。これからお世話になることもあるでしょうが、よろしくお願いいたします」


「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 俺はそう言って、彼と握手をした。その手はとても固く、よく訓練をしていることが分かった。そして俺はなんとなく、この人は悪い人ではないと確信した。根拠は特にないが、そんな気がするのだ。




 それからも俺は、何人もの貴族と挨拶を交わしていった。純粋に俺と良い関係を築いていきたいと考えている貴族、未来の辺境伯に気に入られ出世したいという野心のある貴族、俺にいい感情を抱いていない貴族――実に様々な人たちだった。




 その中でも、特に印象に残った2名を紹介しよう。1人目はアルド・ブタン伯爵。実に大きな腹を持つこの人は、俺に対する負の感情を一切隠せてなかったので印象的だった。


 事前に調べた限りでは、アルド・ブタンは2代目の貴族であり1年ほど前に家督を継いだらしい。そして初代ブタン伯爵は優秀だったがその息子たる彼は……まあ、お察しの通りだ。悪い噂をよく聞く人物だな。


 また彼は、息子を第二皇女の婚約者にし王族との繋がりを得ようとしたらしいが、その目論見は失敗。そして今回、第二皇女の婚約者となった俺に対して憎しみの感情を抱いているらしい。


 直接嫌味を言ってくるし、握手の時は顔を真っ赤にしながら力を込めて握ってくるので、笑いをこらえるのが辛かった。



 他にも俺に、いい感情を抱いていない貴族はいたが、ブタンほどあからさまな人はなかった。他の人たちは、表面上は友好的だったからな。




 そしてもう1人はベルナール・モーリア子爵。現在の子爵は7代目であり、モーリア家は実に200年以上も前から国に仕えている一族だ。


 そんなベルナール・モーリア子爵だが……明らかに裏社会の人間だった。暗器も隠し持っていたし、気配が暗殺者のそれだった。しかもかなり洗練されており、今日見た貴族の中でもトップに近い実力を持っているように感じた。


 では、なぜそんな実力(・・)のある彼が子爵なのか。それを考えてみると、モーリア家は代々暗殺者として国に仕えてきていたのかもしれない、という仮説が浮かんだ。もし裏で国に貢献してきたとしても、それを口実に陞爵(しょうしゃく)するのは難しい。だからこその、子爵なのかもしれない。


 腕のある暗殺者と繋がりを持っておくのは大切であるし、今後も彼と関わることがありそうな気がする。





 そして今日お披露目会に来てくれた貴族全員との挨拶が終了すると、ほどなくしてお披露目会は終了となった。


 今はその片付けが、使用人たちによって進められている。


 ちなみに余った食事は使用人たちの夜食になる。そして、今日の働きの分としてボーナスが出るということもあり、みなやる気に満ち溢れている。



 俺がやることは特にないので部屋に戻ろうとしたが、父たちから「少し話がある」と言われたので、一緒にリビングへと向かうことになった。



お読みいただきありがとうございます。次の投稿は4/23(金)を予定しています!


少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただければ。下の〈評価ポイント〉や〈ブックマーク〉の方もよろしくお願いします!


作者のモチベーションにも繋がりますので、ぜひ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ