プロローグ
その模擬戦に立ち会っていた1人の貴族は、試合をしている2人の一挙一動を食い入るように観察していた。
試合をしているうちの1人はこの帝国の第二皇女――シャルロット・フォーグラー。まだ6歳であるにも関わらず、その類まれな剣の才能は非常に有名であり、将来を期待されている天才だ。
「やぁッ! はぁッ!」
そして、第二皇女と同じく6歳ではあるが、その天才の剣技をその場から一歩も動くことなく全て捌ききっている、第二皇女の対戦相手の名はリアム・アルテーン。〈剣聖〉と呼ばれるグレイス・アルテーン辺境伯の長男である。
「くッ! まだまだッ!」
第二皇女が果敢に攻めるも、リアム・アルテーンには通用しない。頭上からの振り下ろしも、刺突も、フェイントも、背後からの攻撃さえも……通用しない。
当然だが、第二皇女が弱いわけでは無い。もし見ている貴族が相手になったとしても、その場で全て捌ききることはできないだろう。
つまり、それを実行しているリアム・アルテーンは、その貴族よりも剣の実力が上だということ。
――ははは、それは何の冗談だ。
まだ6年しか生きていない子供に、40年以上生きている自分が劣っている……その事実に貴族は笑うしかない。
――何故これほどまでに強い? ……リアム・アルテーンに抜群の才能があったから? それとも父親が、師匠が〈剣聖〉だから?
そのどちらも正解に思えるが、どちらも足りないように思える。
あの動きは数々の実戦の経験を積まねばできない物だ。それを6歳の子供がやってのけることに、底知れぬ恐怖すら感じられる。
――彼は何者なんだ?
貴族がいくら考えても、納得のいく答えが出ることはなかった。
しかし、それは当然のことと言えよう。
一体、誰が「前世では最強と呼ばれた男が転生し、リアム・アルテーンになったから」なんて答えを導き出せるだろうか。
これは後の歴史家たちが非常に頭を悩ます、魔王を討伐した勇者パーティのうち最も謎多き人物――〈勇者の右腕〉や〈魔剣聖〉、〈最も偉大な発明家〉とも呼ばれる者が、世界を救う物語。
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