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第九章 勇者ヴァルターの訪問

どうやら、俺を追撃しに来たわけではなさそうだが……お赦し?


「そもそも、なんで俺まで殺されそうになったの?」

「救世主様が屋敷に行かれた後、王城に国民が大挙して陳情に来たのです。

その多くはフルフルの被害者の遺族でした。


彼らは国王に訴えました。フルフルを殺すべきだと。

救世主様も得体が知れない、もしかしたらフルフルの同類かも知れない。

念のため一緒に殺すべきだ。


フルフルさえ死ねばもう救世主などこの国に必要ないと。」


え?マジで?俺までって、ちょっとヒドくないか?


「国王陛下は悩まれました。そんなことをしては救世主様の怒りを買うのではと。


しかし、陳情に来た者の中には、地元の筆頭領主。

軍の幹部、教会の教区長。

そんな実力者がたくさんいました。


国王は悩まれたあげく……フルフルと尾田桐様、二人を殺す決意をしました。


その事実は、秘密にされたのです。

私や、カール将軍らフルフル討伐隊のメンバ―には。

討伐隊は二人に情が移っていて計画を妨害されるかも知れないと。


しかし二人の殺害には失敗しました。

国王陛下や関わった兵士たち、失敗を知った国民たちはパニックになりました。

もう終わりだ、フルフルだけでも存亡の危機なのに、救世主様まで敵に回ってはと……」


おお……こういうのなんて言うの?一人相撲?違うか?


「とりあえず何とかして救世主様とお話し合い、あるいは許しを請うべきだという方針になりました。


しかし誰がいくのか。

みんなもうすっかり怖がってしまって、私とカール隊長以外に使者になろうとする者がいません。


そこで私が志願して、救世主様のお赦しを願う使者になると申し出ました。

そういうわけで私が、こうして赴いたというわけでございます。」


まあ、こっちも救世主様お助け下さいと歓迎されたと思ったら、突然殺されかけたわけだからなあ。

あんまり戻りたくないなあ……


もうアティベル国とやらの自業自得という感じもするし。

どうしようかな……


「でも、別に私が戻らなくても、困らないのでは?」

「そうではないのです。」ヴァルターが首を振った。


「フルフルが侵攻を始めて以降、近隣諸国とアティベル国との連絡が途絶えています。

近隣諸国も、フルフルのような魔神の侵攻を受けたに違いありません。

もう滅ぼされているかも……」


ヴァルターは続ける。

「そのような情勢下で、救世主様の報復におびえたまま、近隣諸国を侵攻している魔神たちへの対抗など出来ないのです。


かといって孤立したままでは物流もままならず、この国は衰退と滅亡を待つのみ。

 どうかお願いです。お赦し頂けないでしょうか。」


「……ヴァルタ―はアティベル国の出身ですか?」俺は聞いてみる。

「いいえ。我々4人は、魔物を討伐し困っている人を助けながら諸国を放浪していたのです。


アティベル国に滞在中、外と連絡が取れなくなったと思ったら、フルフルの侵攻の対応に追われるようになったのです。」


「……じゃあヴァルター、レオニー、カミラとセンデロスの4人は、全然アティベル国に縁もゆかりもないのに、その国のために頑張っていたんですね?」

「そうです」


「……おかしいと思いませんか?なんでアティベル国とやらの人たちは、自分の国と縁もゆかりもないヴァルタ―を使者に差し出したんです?外国人なら死んでもいいやとでも思ってるんじゃないですか?」


「いえ、そんなわけではありません!救世主様の報復の恐怖におびえているだけです!」


「他人を生贄に差し出すような奴らのために、なぜ自分がこうして頭をさげなきゃならないのか。

そう思いませんか?」


「いえ、そんなことは……」

「ヴァルタ―だけは助けるけど、他の奴らは全員殺す。俺がそう言ったら、どうする?」俺は敬語をやめてみる。


「私の言い方が悪かったら申し訳ありません。どうか……」


転生前の弁護士生活でもたくさん見た。


全然悪くないのに平謝りする人。

一番悪いのに開き直る人。


犯罪を犯した子どもと、子どものために被害者や関係者に頭を下げる両親という構図が一番多かったかな……


「……ヴァルタ―はさ、弱い人が醜いと感じたこと、ある?」

「申し訳ありません。おっしゃる意味が、よく……」


「ヴァルタ―は勇者というくらいだから、弱い人を助けたい、守りたい、気持ちでやっているわけでしょ?」

「その通りです。」


「その守りたい人々から罵声を浴びせられたり、失敗したときに責められたり、表で勇者様と持ち上げておきながら裏で陰口叩かれたり、裏切られたりしたことはない?」

「……」ヴァルタ―に心当たりがないわけではなさそうだ。


「だとしたら、ヴァルターを信じて戻ってもさ。

次の日には俺、殺されるかもしれないでしょう?」


「……いやごめん、俺もエキサイトしすぎたかも。いろいろあって疲れているのかもなあ……」

俺は自省する。


そういえば、俺はヴァルタ―がいる異世界のことも、俺の能力も、何も知らないんだよな……

何も見ずに決めつけるのもよくないかな……


ヴァルターはずっと黙っている。

この冷静さ、落ち着き。

20歳前後とは到底思えない。


「……ヴァルタ―、お願いがあるんだ。」

「なんでしょう?」



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