第八章 最高裁へ
その後だいたい1時間ぐらい使って、食べ物を探した。
最高裁は地上5階、地下2階で出来ている。
最高裁の法廷や、有名な法の女神像があるホ―ル。
最高裁事務総局などの裁判事務や全国の裁判所の人事会計などを担当する職員のオフィス。基本的に構造は霞が関にあるお役所とそう変わらないはず。
多分従業員用の自販機があるし、食堂も多分あると思っていた。
一般の人は入れないけど。
それから、個々の職員のデスクにはもしかしたらおやつやお菓子をが入っているかもしれない。たまにいるんだ、そういう職員。
それから非常時に備えて非常食があるかも。
そう思っていろいろ探した。
1時間くらいで、2階を探している途中でフルフルとかちあった。
フルフルが残りの階を調べ終えたのだ。
一応成果はあった。
まず食堂はあった。普通の市役所とかにある社員食堂みたいな感じ。
冷蔵庫には一応食材があって、なぜか冷蔵庫も動いていた。
ありがたい。
そういえばフツ―に電灯もついているが、電力はどうなっているんだ?
また、地震などの非常時に備えた非常食や毛布などを備えている部屋があった。
これも大きい。いざというときに籠城できるし。
それから自販機もだいたい各階に一個ずつあったし、トイレなどの蛇口から普通に水が出る。
多分1週間くらいはここで暮らせるな。
これからどうする?他に似たような空間いろいろ作れるか試してみるか?
多分国会とか、主要な官公庁なら作れるはずだが……
いや、もうフルフルとめくるめく肉欲の世界に生きちゃおうかな……最高裁で。
ベッドはなかったけど、非常用の毛布はあるしな。
その時。
ーー尾田桐様。
うわあびっくりした。すいませんすいませんm(_ _)m
ーー外からヴァルターが呼びかけています。どうしますか?
……違うのか。一瞬テミスに怒られたのかと思った。
ヴァルター?どうしよう?
「テミス、最高裁にヴァルタ―だけ入れることは出来る?」
ーー可能です。ヴァルタ―の施設立ち入りを許可する旨述べて下さい。
「主、ヴァルタ―は主を殺すつもりかもしれませんよ?」フルフルが言う。
確かに、安全を確保しないとまずいな。
「テミス、この最高裁で法廷秩序維持法を適用して、所内にいる者が俺を殺したりケガさせたりすることを防ぐことは出来る?」
―法廷秩序維持法2条により可能です。必要あればそう唱えて下さい。
よかったあ。法廷秩序維持法なんて超マニアックな法律、覚えておくもんだなあ……
「テミス、法廷秩序維持法2条。この最高裁の施設内全てに適用。」
―同法は適用されました。同条に規定する秩序を乱す行為は一切禁じられます。」
とりあえずこれでいいか。
その時、フルフルが俺の腕を抱きしめてきた。
俺の胸がドキドキするのがわかる。
落ち着かない……
「フルフル、あの……離れててくれた方が、やりやすいかな?なんて。」
「理由があるのです。
主の魔法はどうやら詠唱が必要ですが、ヴァルターはその前に一瞬で主の首を刎ねる剣の腕前があります。
また、主の魔法の裏を掻いて、主を殺す方法も知っているかもしれません。」
「お、おう……」で、なんで俺の腕ぎゅっとしてんの?
「私と触れていれば、主がヴァルタ―に一瞬で首を刎ねられても、絶命する直前に、私と融合して死を防ぐことが出来ます。私と融合すれば、首を刎ねられたくらいでは死にませんから。」
あ、そうなの?
じゃあしかたがないか……落ち着かないが……
「ありがとう、フルフル。」
いやあ、ホントけなげだなあ、コイツ。
初対面で俺を食べようとした奴とは思えない。
「いえ、当然です。」
「じゃあ、ヴァルタ―に入ってもらおうか。
テミス、ヴァルタ―の最高裁への立ち入りを許可する。」
―–了解しました。その旨ヴァルタ―に伝え、ヴァルタ―が希望すればここに転送します。
数秒待った後、目の前にヴァルタ―が転送されてきた。
ちょっとびっくり。
転送されたヴァルタ―は、俺に気づくと、即座に片膝をついて話した。
俺の腕にしがみついているフルフルが、ヴァルタ―に殺意を向けているのを感じた。
「救世主様、私の呼びかけにお答えいただき、ありがとうございます。
端的に申し上げます。アティベル国の皆を、お赦し頂きたいのです。」