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第六章 会議は続く

「……私は、奴は殺すべきだと思います。」騎士の一人が言った。

「魔神のやつに殺された人間は百人では収まりません。ここに来たのも、我々を騙して首都に招き入れ、一網打尽にするためかも知れません。殺しておくべきかと。」


「……救世主様の考えはいかがですかな?」隊長は俺に聞いてくる。

「……まず、そもそも私がフルフルを殺せるか分かりません。

いろいろ試してみないと……」俺は迷いながら言った。


逮捕ができているのだから、公訴提起の条文、罰条の条文、判決の条文、死刑の根拠条文。

これらについても似たように魔法?として実現できるはず。

死刑にすればフルフルを殺せるかも知れない。


しかし、パッと思いつくだけでも、問題がある。


通常の刑事裁判と同じように、証拠は必要なのか。

俺のいた日本では死刑の執行方法は絞首刑だったが、他の方法は取れるのか。

そもそも絞首刑でフルフルは死ぬのか。


わからないことだらけだ。


「ヴァルターはどう思う?」カール隊長はヴァルターに話を振った。

「悩ましいですが、他の魔神について情報を持っているでしょうし、戦力として使える可能性もあります。


殺すのは現状、しかるべき警戒をしていればいつでもできます。

変な呪いが発動することもあります。

当面は生かしておくべきかと。」


しばらくの沈黙の中、カール隊長が口を開いた。

「では、やはり当面は救世主様とヴァルタ―らの管理下に置くことにしよう。

その後、フルフルの処置をどうするか、改めて国王陛下と協議することになるだろう。


では、救世主様、申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」

「はい……頑張ります。」俺は答えた。


その後、隊長の言う邸宅に案内された。

かなりデカいお屋敷で、お金持ちの本宅という感じがする。

俺はマンガで都心部に広々とした豪邸に住んでいるお嬢様という設定のキャラを何回かみたことがあるが、そのキャラが住んでいる家がだいたいこのくらいの大きさだ。


中に入ると執事と名乗るス―ツを着た人物とメイド服を着た女性が何人かいた。中はかなり綺麗だった。長いこと使われていなかったとはとても信じられない。


俺とほぼ同時に、フルフルの檻が運ばれてきた。


「この者はどうしますか?」執事が聞く。

「ちょっと待ってもらっていいですか?」俺は執事にそう言った後、少し離れた場所で小声でテミスに聞く。


「テミス、刑事訴訟規則80条1項で、勾留場所の変更を俺が指定したり変更したりすることは出来る?」

―― 可能です。刑事訴訟規則80条1項と言い、場所を指定してください。


「フルフルに、このお屋敷の中にいる人間に対する加害行為を禁じることは?」

―― その質問は勝訴敗訴に関わるのでお答え出来ません。


ダメなの?

そういえばなんでも教えることができるわけじゃないと言われたような、言われなかったような……

裁判所書記官みたいだな。


「テミス、人格権に基づく違法行為差し止め請求で、特定の場所の中に存在する人間に対する加害行為を禁止することはできるよな?」

――可能です。但し加害行為がなされる蓋然性が要件とされることに留意してください。


現実でも、いつでも誰に対してもこの請求できるわけじゃないんだけどさ。

そんくらい多めにみてくれよ。


その後、戻って執事に伝える。

「この者はこの部屋から出られず、誰にも危害を加えられないよう無害化した後、この檻から出さねばなりません」


「え?出すんですか?」執事は答える。

「すみません。私の魔法も万能ではなくて……ずっとこの檻に閉じ込めたまま、ご飯も食べさせないトイレも行かせないと言うことはできないんですよ……皆さんに危害を加えないようにはしますので……すみません」そう言って俺は頭を下げた。


「いやいやいやいや、頭を下げてもらうことではありません!差し出がましいことを申しました!どうか救世主様のご意向のままに!」執事は慌てて言った。

「すみません。」俺は頭を下げた。


何百人の人間を殺した怪物と同じ建物にいるんだもんな。怖いよなあ……


「主が頭など下げなくても、私は檻から出なくても平気ですし、主に背いて人間に危害を加えたりしません」

フルフルが突然しゃべりだす。びっくりした。


「お前がそう言うのはありがたいけど、俺も立場上お前の言うこと鵜呑みに出来んのよ……

わかってくれ」


とりあえず条文を唱えてみる。

「刑事訴訟法規則80条1項。フルフルの勾留場所をこの邸宅内へ変更。」

――勾留場所はこの邸宅へ変更されました。


「人格権に基づく違法行為差止請求として、フルフルにこの邸宅内に存在する他の人間への加害行為を禁じることを求める」

俺は唱えてみた。


法律学的にちょっと自信がないが……

――請求は認容されました。フルフルはこの邸宅内に存在する他の人間への加害行為が禁じられます。


俺は執事から鍵を借りて檻を開ける。

「フルフル、一応この邸宅内は自由に動き回れる。危害を加えるのは禁止。

お前の運命は俺の一存で決められるんだから、間違っても変なことするなよ。」


「分かりました。」フルフルは答える。少しきょとんとしている。

こうしてみると、素直ないい子には見えるな。とても俺を飲み込みかけたとは思えない。

でも大量殺人犯なんだよなあ……




夜はご馳走だった。

俺、フルフル、ヴァルタ―、あとヴァルタ―の仲間の女神官、魔法使い、女戦士がいた。

女性二人はヴァルタ―と同い年くらい、つまり10代後半から20代前半に見える。


女神官がレオニーさん、女戦士がカミラさんという名前らしい。どちらも美人だが、職業が顔を表すのか、だいぶタイプは違う。

魔法使いだけもう少し年上で、40歳くらいに見えた。センデロスさんというらしい。


テ―ブルを囲んでコ―ス料理っぽいものが出てきた。

オ―ドブル、肉料理、ス―プ……どれもこれも食べたことがないくらい美味しかったが、どれが何の肉かとか、材料は何かとかは全然分からなかった。


料理に疎いのもあるんだけど、ここ異世界だからなあ……

でもこんなに美味しいものが食べられただけでも、この世界来た甲斐あった。うう。


「お口に合いましたかな?」執事が聞いてきた。

「いや、もう!ほんとに!」俺は声が裏返ってしまった。


隣にはフルフルが座っているが、フルフルには料理はない。

「お前、肉食べる?」俺は皿に乗ったステ―キ?をフルフルに差し出してみる。

「あ、じゃあ頂きます」そういうや否や肉を手で掴み、一口で肉を食べた。


「いや、ちょっと全部って言ってないだろ!俺まだ食べていないのに!」

「は、申し訳ありませんでした!おなかがすいていて……申し訳ありません!」そういってフルフルは繰り返しペコペコ頭をさげる。


「代わりをお持ちしましょうか?」執事が聞く。

「あ、あります?じゃあお願いします……それとフルフルの手をふくナプキンを」俺は執事に頼む。

ほどなく執事は代わりのステ―キ?とナプキンを持ってきてくれた。


「お前これで手をふいて」俺はフルフルにナプキンを渡す。

フルフルは訝し気にナプキンを見た後、手をばんばんとナプキンにたたきつける。

「いやそうじゃなくて、こう……」俺はフルフルの手をナプキンで拭いてやる。


「ホントに尾田桐様のいうことは聞くんですね。」それまで黙ってみていたらしいレオニーが声を出す。

「みたいですね。」俺は答える。


するとヴァルタ―が、

「いや、安心しましたよ。フルフルが従順で。

何せ俺たち、フルフルが何かすれば殺さないといけないですから。」とほっとしている。

「こうしてみる分にはかわいいんだけどねえ」女神官が笑う。


「私もなんで人殺しの魔神様が私の言うことこんなに素直に聞くのか分からないんですけど、皆さんにはわかるもんなんですか?」俺は聞いてみる。


「いやあ、俺は分かりません。

センデロス、分かる?」ヴァルタ―はそういって魔法使いの方を見る。

「断言は出来ませんが、推測ならできます。


生態系の頂点に経った動物やモンスタ―が、それより強い動物やモンスタ―に会うと、無警戒だったり過度に従順になるのです。

生態系の頂点に経つと捕食者がいなくなるので、警戒心が不要になりますのでね。

フルフルも同じなのではないでしょうか。


 ただ、知能があるのにそういう振る舞いをするモンスタ―は見たことがありません。ましてや、魔神となると……」センデロスと呼ばれた魔法使いは答える。


そういえば、俺がいた現実でも似たような話を聞いたような……ド―ド―だったっけ?動物の本で読んだような……

「ただ、我々を騙している可能性は、念頭に置くべきです。」センデロスは言った。


その後も2時間くらいだろうか、勇者ご一行と俺とフルフルで雑談した。


食事も終わり、それぞれの部屋に解散となった。勇者ご一行もここに泊まるらしい。

部屋はたくさんあるしな。


フルフルにも部屋を一室あてがうことになった。ただ部屋には中と外に兵士の見張りがつくほか、今夜は勇者ご一行のうち、ヴァルタ―以外の3人が交代で起きて見張りにあたるらしい。


ヴァルターは自分見張りを担当するといったが、カミラがあなたは休みなさい、と言っていた。

その他、廊下にも外にも兵士がいるみたいだ。


俺も部屋に入ってシャワ―を浴びて(なぜかシャワ―はあるみたいだ)、ベッドに倒れこんだ。

ベッドはふかふかでシ―ツも綺麗。助かった。


急に眠くなってきた。なんかず―っと人の集まりの中にいると、その場は大丈夫なんだけど、一人になるとすごい疲れ出てくるんだよなあ……


ふと気が付く。寝てしまったみたいで、既に部屋の外の明かりは消えている。

と、ベッドの中に誰かいる気がした。

え?


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